短編1
※番外なので設定滅茶苦茶です。 day1:天敵 骸さんが今日は夕飯係だそうです。 人が料理してる姿なんて見たこと無いから俺は何時もの特等席によじ登る。 手際良く料理をしていく人型骸さん。 夢中になってのぞき込んでいたら「こら」と骸さんに怒られた。 「あんまり身を乗り出すと落っこちますって。 フライパンに落ちたら一緒に炒めちゃいますよ。」 「嫌です〜…」 俺はしぶしぶ顔を引っ込めた。 今俺は骸さんの頭の上にいる。狼の時より毛が柔らかいんだよね、きもちいい。 「…なんかそういう映画あったよね。」 「僕も今思ってました。」 「ほら綱吉。」 骸さんの髪にしがみついていたら大きな手に掴まれた。 「邪魔しちゃ駄目だよ。」 「してないです。まだ見たいです!」 わたわた暴れても親指で押さえ込まれて終わってしまう。 料理見てるの楽しかったのに… 不満だからばたばた雲雀さんの手の中で暴れていたら首の後ろを摘まれた。 下を見ると熱くなったフライパン。 「ネズミなんて人間の時は食べないけど綱吉のバター炒めなら美味しそう…」 「!!!!ぎゃ〜!!や〜!!止めて〜!!」 「…雲雀。」 今にも落とされそうになってたら横から別の手が伸びてきた。 俺は慌ててその指にしがみつく。 雲雀さんのいじめっ子!雲雀さんなんか猫でも人でも嫌い!! 「何度言ったら分かるんですか。 綱吉くんはハムスターであってネズミではないんですよ?」 「そうです!」 骸さんの手の中にいるから今はちょっと強気。 雲雀さんは何考えてるのか分からない顔で俺を見つめる。 「大体バターで炒めるなんてとんでもない。可哀想でしょう。」 うんうんと頷いていると雲雀さんが何故か微妙な表情を浮かべた。 何? きょとんとしていたらざらりと何かに背中を撫でられた。 振り返ると赤い… 「食べるなら生です。」 ちろりと舌を見せてうっとりとした顔の骸さん。 俺が声もなく硬直しているとまたペロリと舐められた。 俺は骸さんの手に全力で噛みついてキャビネットの下に潜り込んだ。 猫に狼、右も左も敵ばっか… day2:狸 いいね…最高の昼寝日和だよ… 僕は毛足の長い絨毯に丸くなると目を閉じた。 幸いうるさい狼も居ないことだし。思う存分惰眠を貪れる… ユラユラと尾を揺らしながら微睡んでいると尾のあたりによく知る気配がちょろちょろと近付いてきた。 薄く目を開けるとハムスターがキラキラした目で僕の尾を見ている。 この子尾とか耳とか大好きだよねぇ… 骸の頭の上にしょっちゅう乗ってるし昼寝は骸の尾の下でするし僕が人型の時も耳触りたがるし。 寝てると思っているのだろう。 綱吉はすっかり警戒心を無くした顔でちょいちょいと動く尾を追っかけ始める。 ぴょいと尾を振るとててて、とそれを夢中で追う。 まん丸いのがコロコロと動き回る姿はとっても可愛いし。 (すんごく咬みたい…) 「待って、待って!」 明らかに尾が不自然な動きしてるのに気付いてないよ、この子… お馬鹿だね…今後が心配だよ。僕以外のものに食べられちゃうんじゃないかなぁ。 尾の動きがちょっと緩まった隙に綱吉ががっしりとそこに組み付いた。 ……重いよ、綱吉… ぱたりと尾を地面に落とすと綱吉は上機嫌で擦りついている。 「雲雀さんの毛柔らかい…」 それは良かった。 しばらくそうやって綱吉は尻尾と戯れていた。 僕ももう気にならなくなっていよいよ夢の世界に行きそうになった時。 「?」 もそもそと毛皮の上を何かが… 目を開けると綱吉がよじよじと僕の背をよじ登っているのが見えた。 「…………」 …噛みついてやろうか、このハムスター。 危機感が無いにも程がある。 しかしいい感じにぽかぽかしているのにわざわざ起き上がって綱吉を捕まえるのも面倒くさい。 僕は綱吉のしたいようにさせて目を閉じた。 後日。骸にその話をすると 「おや?知らなかったんですか? 君が寝てる間は綱吉くん、君の体を滑り台にしたり登山したりして毎日遊んでましたよ。 君のことだから知ってて寝てるフリしてるのかと思ってましたが…」 と呆れた顔で返された。 …明日は綱吉が寝てる間に僕の餌皿に乗っけてケチャップかけてやる。 day3:おねだり う〜ん…暇ですねぇ…散歩にでも行きますか。 よっこらしょと立ち上がると綱吉くんが大急ぎで僕の背によじ登った。 「散歩行くの?骸さん。」 「そうですよ。綱吉くんは…聞くまでもなく一緒に行きますよね。」 「はいっ!」 ご機嫌で僕の頭の上に駆け上がると耳と耳の間にぺたんと座る。 そのまま玄関に行き前足でドアを開ける。 ドアの上の方に取り付けられたベルが鳴った。 その音を聞きつけて家長がリビングから顔を出す。 「骸。散歩行くのか?」 「はい。」 「行ってくるね!」 「…綱吉も連れてくのか?」 頭の上のハムスターを見て獄寺が心配そうな顔をする。 ハム馬鹿ですからね、この男は… 「君も来ればいいでしょう。」 「ああ…そうするか。」 玄関先でスニーカーに足を突っ込む獄寺に戸棚から出したリードを差し出す。 「これを持ちなさい。」 「…お前って順応力有りすぎじゃねぇか…?」 「狼のくせに」とブチブチ呟きながら獄寺は首輪とリードを僕の首に取り付ける。 綱吉くんは興味津々でそれを眺めている(筈だ)。 「首輪かっこいい…」 「ん?」 「俺もしたいよ、獄寺くん!」 キラキラした顔(恐らく)の綱吉くんに獄寺が困った顔をする。 「ハムスターの首輪なんて買ってねぇんだけどなぁ…あ。」 獄寺は「ちょっと待ってろ」と言い、掃いたばかりのスニーカーを脱ぎ捨てると台所に走っていった。 そうしてすぐに戻ってくると綱吉くんを膝に乗せ体にそれを巻き付けた。 パスタの袋を縛っていた緑と赤のリボン。それが背中で大きな蝶々結びにされている。 「首輪は無いからな。どうだ?」 綱吉くんは嬉しそうにちょこちょこと走り回っている。 「骸さん、見てみて!」 「よく似合ってますよ、綱吉くん。」 「ありがとう、獄寺くん。」 見上げるとまたとろ〜んとした表情の獄寺が綱吉くんに携帯カメラを向けていた。 …ハム馬鹿だ。 day4:我が儘 台所で皿を洗っていると後ろでガシャン!と大きな音がした。 カウンターからリビングを覗くと目の前を黒猫が横切った。 「待ちなさい!雲雀ぃ!!」 「やだ。」 凄まじい勢いで猫に飛びかかる狼。 何をそんなに騒いでやがる…と顔を上に向けると。 「!?」 綱吉のケージが無い。いや地面に落ちてひしゃげている。 まさかと思いそちらに視線を向けると雲雀にくわえられた綱吉が。 「骸さん!!獄寺くん!!助けてぇ!!!!」 「雲雀!!!!」 ひらりひらりと逃げる雲雀を追ってリビング中を骸が走り回る。 俺は棚に飛び上がった瞬間を狙って雲雀の首の後ろを掴みぶら下げた。 俺も元は猫だから瞬発力には自信がある。 「おら、綱吉放せ!」 「…………」 ぷいと横を向く雲雀。揺すっても意地でも放すかと言わんばかりの態度だ。 この野郎… 「ふえぇぇ…」 「雲雀!!」 バチっと電気のようなものが走り俺は手を離してしまう。 雲雀の仕業か! 雲雀はたんたんと高い位置にある出窓に駆け上がり綱吉をそこに降ろすと前足で抑えつける。 「雲雀!!」 「降りてきなさい!」 「いやだ。今日はこれ連れて遊びに行くから。」 あいつ…!!俺たちだけで散歩に行ったことまだ根に持ってやがったか! 綱吉はいよいよ泣いて暴れ出す。 「やだ〜!雲雀さん怖い〜!!!!」 「怖くなんかないさ。ちょっと綱吉が美味しそうに見えるだけで。」 ベロリベロリと綱吉を舐める雲雀。綱吉はひんひん泣いて怯えている。 「骸ばっかずるい。僕もこれで遊びたい。」 「僕は一度たりとも綱吉くんで遊んだことはありません!」 ガウと吠える狼に全身の毛を逆立てて威嚇する猫。 …お前らの殺気で綱吉が失神寸前だぞ…いい加減可哀想だ。 「分かった!今日1日綱吉と一緒にいさせてやるから降りてこい!」 「………本当だろうね。」 「お前に嘘つくほど命知らずじゃねーよ。」 このままじゃ綱吉がストレスで死ぬ。背に腹は変えられねぇ… 俺は綱吉が入る大きさの袋を作るとそれの両脇に紐を通して雲雀の背に括りつけた。 猫用ナップサック。これなら自分じゃ取り外せねぇし綱吉に危害も加えられないだろ。 「どうだ?」 「…悪くないね。」 塀の上をご機嫌で歩く雲雀。 頭だけ出した綱吉も初めは怯えていたが今はいつもと違う目線にはしゃいでいる。 町内でこの光景が名物になったりしたんだが見ようと詰めかけて来た人間が雲雀に引っかかれるのはまた別の話。 day5:服従 「ふええ〜ん…」 「だから止めなさいって言ったでしょうに。」 ケチャップ塗れにされて泣くハムスターの体を舌で綺麗にしてやる。 綱吉くんは雲雀が寝てる間にその体をよじ登って遊具にしていたのだがそれがこの間狸寝入りしていた雲雀にバレた。 執念深い猫は復讐の機会を伺っていたらしく今日それを実行した。 「だって雲雀さんふかふかで気持ちいいんだもん…」 「僕で我慢しなさい。」 「骸さんはつやつやしてるけど柔らかく無いんだもん…」 猫の毛と比べられても困りますよ… 僕は鼻先で綱吉くんの体をひっくり返すと腹に付いたケチャップも舐めとってやる。 擽ったがってじたじた暴れるのを無視して隅々まで綺麗にする。 ……こんなこと言ったらまた怖がられるだろうけど美味しいんですよねぇ。 たま〜にカプッといきたくなる雲雀の気持ちが分かります。 「さあ、もういいですよ。綺麗になりました。」 「はい!」 「…って待ちなさい。どこ行くつもりですか。」 すたこらと走って行こうとするハムスターの行く手を遮る。 そっちは雲雀が寝てる方向でしょう… 綱吉くんは小首を傾げるときょとんとした顔をする。 「遊ぶんです。」 「…君、なんで雲雀に今日おやつにされかけたか分かってます?」 「なんでですか?」 「………」 全く分かってないらしい。 僕は歯を立てないように綱吉くんをくわえるとリビングから客間へと移動した。 とにかく遊びたくてウズウズしている彼を雲雀から遠ざけないと… 次はマヨネーズをかけられてぱっくりいかれてしまう。 「や!やっ!遊びたい!」 バタバタと暴れる綱吉くん。しょうがないですね… 僕は獄寺がいないことを確認するとゴロリと仰向けに転がった。 どんな動物も総じて背より腹は柔らかい。 犬(狼だけど)も当然それに当てはまる。 綱吉くんは途端に暴れるのを止めて、てててと僕の周りをうろうろし始めた。 「登っていい?骸さん、登っていい?」 「お好きにどーぞ。」 綱吉くんは目を輝かせて僕の脇腹にびたりと張り付いた。 言っておきますが雲雀と獄寺には内緒ですよ… こんな降参ポーズ見せるのは君だけになんですからね! day6:お出掛け 足元に纏わりつく猫を無言で見下ろす。 「……………」 「……………」 雲雀はこないだ作ってやったナップザックをくわえてじぃと何か訴えるような眼差しをしている。 「…………」 「…………分かったよ…」 俺の負けだ… 俺は雲雀の口から袋を取り上げると部屋の中心に吊り下げられたケージに向かった。 「綱吉。」 「なぁに?」 ぴょこりと綱吉が巣から顔を出す。 手を差し入れると嬉々としてそれに飛び乗る。 「雲雀がまた散歩に行きたいらしい。行くか?」 「行く!」 綱吉はぽすんとナップザックに飛び込むと頭だけ出して「早く早く!」と俺をせき立てる。 いつもはあんなに怯えてるのにな… 俺は雲雀の前足に紐を通すと「綱吉に何かあったら殺す」と雲雀にだけ聞こえるように呟いた。 「分かってるよ、ハム馬鹿。」 「はむ…っ!んだと!?」 「骸が言ってた。言い得て妙だね。」 あの野郎… 雲雀はご機嫌な足取りで窓枠に飛び乗った。 「それじゃあね。人間になる前には帰ってくるよ。」 「行ってきまーす!」 綱吉の語尾が終わる前に雲雀は外に飛び出していた。 きゃっきゃと騒ぐ綱吉の声が遠く聞こえた。 * * * * 「速い〜!!」 「もっと速く出来るよ。」 はしゃぐ綱吉に速度を上げて見せる。 骸は綱吉を振り落とさないようにゆっくりとしか歩かないものね。 こんなことしてあげられるのは僕だけだ。 塀の上に差し掛かるとちょっと怖がりながらも興奮した綱吉が身を乗り出す。 「高いです!」 「うん。落ちたら危ないね。」 「落ちるんですか!?」 「猿も木から落ちるんだから塀から落ちる猫もいるんじゃない?」 「ひ、雲雀さんは落ちないですよね…?」 「どうかなぁ。」 途端、ひっしとしがみつく感触にひげがヒクヒクしてしまう。 僕が落ちるわけ無いじゃないか。 「雲雀。」 聞き慣れた声に下を向くと黒い犬、じゃない狼がいた。 「あ、骸さんだ!散歩ですか?」 「はい。ちょっと今日は人間と鬼ごっこしてました。」 また保健所か… 「…君首輪して出歩いた方がいいんじゃないの?」 「この遊びが楽しいのにそんな勿体無いこと出来ませんよ。」 「…いつか君刺されるね。」 地面にすとんと降りると狼の隣を歩く。 骸は綱吉の頭をざらりと舐めると尾をふった。 「…骸。」 「挨拶ですよ。君と同じにしないでください。」 「?」 どうだか。 人間の時は僕より危険なくせに。 三人で帰ったら獄寺が目を丸くして「珍しい光景だな」と言っていた。 そうかな? まあ綱吉がまた行きたいって言うなら出掛けてあげてもいいよ。 END 携帯拍手で書いたパン君番外短編でした〜。 ネタに詰まって急遽書いたものだったんですが意外の好評だったので第二弾とかも調子に乗って書いてしまいました。 にしてもペットってなんであんなに可愛いんでしょう! 雑誌見ながら悶えてしまいました(笑) |