クリスマス番外編






クリスマスに興味はねぇ。

毎年家にいるのは俺と雲雀だけだ。どっちもイベントには無頓着だ。


しかし。


「クリスマスの飾りはしないの、獄寺くん。」


とキラキラした目に見上げられちゃあな…


「だからハム馬鹿って言ってるんですよ、この馬鹿。」

「お前言うに事欠いて…!」

「わざわざツリーとリース買って…どんだけ綱吉くんに甘いんですか君は。」


背にツリーをくくりつけられた狼が不機嫌な顔で文句を繰り返す。

仕方ないだろ!俺一人じゃ持ちきれねぇんだよ。

そのデカい図体を役立てても罰は当たらないだろ。

骸はチラリと俺を見上げてニヤ、と笑う。


「これは何か報酬が欲しいですね〜、獄寺。」

「……………クリスマスケーキは特大チョコレート仕様にしてやるよ。」

「ふむ、まあいいでしょう。」


ブンブンとご機嫌で尾を振っている。

…一応、全員分プレゼントを用意してやる予定だがこいつのは巨大板チョコでいいな。

楽で助かる。


リリン!


玄関の扉を開けると上部に取り付けたベルが鳴る。

それを聞きつけて小さな毛玉がリビングからちょこちょこと走り寄ってきた。


「「ただいま」」

「おかえり!」


「あ、ツリーだぁ!」とぴょこぴょこ跳ねるハムスターを拾い上げて頬ずる。

……可愛いなぁ、こいつ〜!!!!


「獄寺くん、ありがとー!」

「お前の為なら角松だって買ってやる…!!」

「はいはいはい、飾り付け始めますよ〜。綱吉くん手伝ってください。」

「んに。」





今流行りのLEDの真っ白いツリー。それを組み立ててコンセントを入れる。


「うわぁ!!」

「ほう。」


電球を巻き付けるタイプじゃなくてツリー自体が光るのでなかなかに幻想的でいい。

これは雲雀が気に入って広告を叩きながら「買うならこれ」と譲らなかったのだが…

仄かに色を変えるツリーに二匹の反応も上々だ。


「キラキラ綺麗〜!!」

「ふむ、悪くないですね。ビカビカと光るのは風情が無い。」

「当たり前でしょ。僕の見立てなんだから。」


ツリーの前に並んで座るハムスター、猫、狼。

珍しく三匹が大人しく並んでいるので俺はこっそりと後ろにまわりビデオカメラを向ける。


「飾りはつけないんですか?」

「ああそうでした。ちょっと待ってくださいね。あの箱に入ってるはずですから。」

「星寄越しなよ。星。」

「それより玄関にリース付けてきてくださいよ。あなたの跳躍力なら余裕でしょう。」

「いいよ。」


ズリズリとリースを引きずりながら雲雀が玄関に走っていく。

…あいつイベント興味ない訳じゃなかったんだなぁ…ノリノリだ。

飾りは連中に任せて俺も台所でクリスマスの支度を始める。

マカロニは…あるな。玉ねぎも残ってる。

ハム買ったしサラダはこれで作るか。

パンもあるが飯も炊いておこう。雲雀がうるさい。

魚料理も無いと駄目だ。鯖と鮭の塩焼きと刺身盛り合わせでいいか。寿司高いしな。

流石に七面鳥は用意出来ないから揚げたてのフライドチキンを注文しておいた。

あいつらも大量に食うし…念のためにスパゲティ茹でておくか…

たらこが冷凍室にあったはずだしシソもいれてたらこスパゲティにしてやろう。綱吉も好物だし。

スープはコンソメベースであり合わせの野菜ぶっこんでやれ。

そういやシャンパン買っちまったが俺ら未成年だったな…まあいいか冷やしとけ。

小さい鍋に水を入れ火にかける。米を研いで炊飯器にセットする。

たらこは冷凍だから冷蔵庫から出して解凍させねぇと…

玉ねぎの皮を剥きながらリビングを覗くと綱吉がツリーによじ登っていた。

…何を始めたんだ?


* * * *


「骸さん、リンゴ。」

「はい。」


飾りの紐に体を通してえっちらおっちらとハムスターがツリーを登っていく。

ツリーは意外に高くて僕では後ろ足で立っても上まで届かないのだ。

なので上の方は綱吉くんに頑張って貰って僕は下の方を担当する事にしたのだ。


「次ベルください。」

「はい。」


僕が届く枝に飾りを乗せてあげれば綱吉くんはそこまで降りてきてまた紐に体を通してよじよじとツリーを登っていく。

いい運動になりますね、これ。


「僕の星とっておいてくれた?」


雲雀は小走りでリビングに入ってくると真っ先にそう尋ねる。拘りますね…

「そこに転がってるでしょう。」と天使を吊り下げながら振り返れば星をくわえて飾り棚に飛び上がる黒猫。…素早い。

雲雀はツリーの頂点に星を刺すとご機嫌にヒゲを震わせる。


「そんなとこでご満悦してないで綱吉くん手伝ってあげなさい。」

「ん?綱吉どこにいるのさ。」

「あなたの真下にいますよ…」


ガサガサと人工の枝を掻き分けて綱吉くんがちょこんと顔を出す。

せっせと飾りを枝にぶら下げるとまたゴソゴソとツリーに潜り込んでいく。


「…………」


爛々と輝きだした雲雀の目。舌なめずりまでしている。


「駄目ですよ。今日は獄寺と約束したんでしょう。」

「分かってるよ。何もしないよ。」


雲雀は『今日は刺身を夕飯にたくさん出してやるから1日大人しくしろ』と獄寺に言われているのだ。

だから今日は一度も綱吉くんに襲いかかってはいない。

いないのだがやはり本能にぐらりとくることがあるらしく、こうやって後ろからにじり寄ってくわりと噛みつこうとしたり…


「って雲雀!!!!」

「「!」」


僕の叫びに雲雀はビクリと体を起こす。

綱吉くんもびっくりしたようだがそれより背後に雲雀が迫っていた事に驚いていた。


「何やってるんですか、雲雀!」

「…無意識だったよ、今。」


本能に負けないでくださいよ…危ないな。


「どうしたんですか雲雀さん?」

「何でもないよ。手伝ってあげる。何が欲しいの?」

「じゃあ、緑の丸いのが欲しいです!」

「分かった。」


何事も無かったかのようにまた飾り付けを始める綱吉くん。

…あの子、きっと雲雀に食べられても胃に到達するまで自分が食べられたって気づかないんだろうな…

僕と獄寺で見張ってないと本当に危ない。


* * * *


「獄寺くん、獄寺くん。」

「どうしたんだ?」


足の上にちょこんと乗っかる綱吉に口元が緩む。


「ツリー出来たよ!来て来て!!」
「分かった分かった。」


綱吉をすくい上げて肩に乗せる。歩き出すと足元に雲雀がまとわりついてきた。

フンフンとズボンを嗅ぎ周り、ぴしりと尾を揺らした。


「魚の匂いがする。」

「鯖焼いてたからな。」

「鯖。」


ひょこりと雲雀の耳が動く。…分かりづらいがこれは喜んで…るのか?


「鯖は悪くないね。君にしては上出来だよ。」

「そーかよ。」


…歩きにくい。魚の匂いに惹かれて離れない黒猫を踏まないようにリビングに入る。

骸は器用に箱を積み重ねて後片付けをしている。


「キレイに飾れてるじゃねぇか。」

「おや獄寺いいところに。クローゼット開けてください。」

「…お前マメだな。」

「散らかってるのは性分に合わないんです。」


見れば包装紙も全部ゴミ箱に押し込んである。こいつがやったのか…

扉を開けてやるとソリ引きの犬よろしく箱を引きずっていく。

便利な奴…


「どう?獄寺くん。」

「ん?ああ、綺麗に飾れてるな。偉いじゃねーか、綱吉。」

「エヘヘ」


うりうりと腹を撫でてやる。キュウキュウ鳴きながら摺りつく毛玉。

可愛いなあ〜…

そうやって綱吉と戯れていると何かビシビシと痛い視線が…

隣を見ると棚の上に尾をイライラと揺らす雲雀が。


「…なんだよ。」

「僕も飾ったんだけど。」

「誉めて欲しいのか?」

「そんなわけないだろ。報酬寄越せ。」


…お前もかよ。


「何がいいんだ。」

「それがいい。」

「ふぎ?」

「却下!!」


慌て綱吉を手の中に隠す。誰がやるか!

けどなぁ…綱吉はやれねーが確かに一仕事させたし褒美ぐらいはやるべきか。

「ちょっと待ってろ。」と言いおき、俺は台所に戻った。


* * * *


みんなで飾ったツリー綺麗。

骸さんと雲雀さんの間に座ってみんなでツリーを見上げる。

いつもはケージの中から見てるだけだったけど今年のクリスマスはすっごく楽しい!


「メリークリスマス。」

「?」

「そう言ってお祝いするんですよ、綱吉くん。」

「今日は夜になったらパーティーだよ。

そうしたら乾杯するときにみんなで言うんだよ。」

「はい!!」


早く、早く夜にならないかな。人型になったらたくさんお祝いするんだ!!

ぴったりと窓に張り付いて空を見上げる。

でもまだお日様は元気にポカポカしてる。


「んに〜。」

「そんなとこで唸ってても日は落ちないぞ、綱吉。」


何時の間に戻ったのか、獄寺くんにひょいと摘まれてローテーブルに乗せられる。

目の前にはお皿に乗った黄色い塊。

触るとブニブニしてる。…何これ。


「干し林檎だ。食ってみろ、美味しいぞ。」

「リンゴ!」


いつもは食べ過ぎるとお腹壊すから駄目っていわれるのに。

俺は喜んでブニブニに飛びついた。

かじかじやりながら下を見ると骸さんはフライドチキン、雲雀さんは海老にかぶりついていた。


「夕飯には早いがな。間食ってことにしといてやる。ツリー飾った褒美だと思え。」

「ありがと、獄寺くん!!」

「悪くないよ。でも甘海老だったら完璧だったのに。」

「ふむ、なかなか…でもこれちょっと味濃いですよ。」

「…文句あるなら食うな。」

「「嫌だ」」


リンゴ、おいしい。

夢中になってかぶりついてると背中を撫でられる。

かじるのをやめて上を見ると優しく笑う獄寺くん。


「メリークリスマス。」

「ん?」

「メリークリスマス、獄寺くん!」

「ああ、メリークリスマス。綱吉。」


俺は獄寺くんの指に頬摺りするとぴょいとローテーブルから飛び降りて雲雀さんの尻尾に飛びつく。


「!」

「メリークリスマス、雲雀さん。」

「うん、メリークリスマス。」


ペロリと頭を舐められる。今は怖くないよ、雲雀さんも笑ってるし。

俺は柔らかい背中に力いっぱい抱きついてから骸さんの方に駆けていく。


「骸さん!」

「なんですか?」


骸さんは俺と目線を合わせるために伏せてくれる。

俺は低くなった鼻に飛びついて元気いっぱいに叫んだ。


「メリークリスマス、骸さん!」

「ええ、メリークリスマス、綱吉くん。」





大好きな人たちと過ごすクリスマス。だから今年は特別なんだ。


みんなもいいクリスマスになるといいね!


Merry Xmas!!







END










ま、間に合った!!何故毎回ギリギリに思いつくのだ、自分!!

冬コミに浮かれて大事な行事を流すところでした…


携帯サイトで異様に人気の「パン君」Xmas番外でした〜。

ハムツナを書きたいが為に番外書きまくってますが最近はヒバニャンとムクウルの動物っぽさも書くのが楽しかったり。

私の中で獄寺くんは保護者が確定してきてます。


これ書くのに夢中でクリスマスっぽいことしてないや…ケーキでも買いに行くか。

では皆さんも良いクリスマスを〜!!