贋作(お試し)






眉の上をひんやりとしたものになぞられる。

髪を櫛で梳かれ、かちゃりという音。


「これでいいでしょう。目を、開けなさい。」


促されるままに開いた目の前に、黒髪の少年が座っている。

そちらに手を伸ばせば、あちらも同じように腕を伸ばす。

そうして重ねた手にあるのは体温ではなく冷たいガラスの感触

まるで他人のように感じるけど、鏡に写るのは間違い無く俺自身だ。


「流石に瞳は隠せませんよ。塗るわけにもいきません。」

「……一時的に凌げればいい。綱吉。」


呼ばれた方に視線を向ける。

そこに、慣れ親しんだ姿の「俺」がいた。


「あれ、なんで髪……」

「時間が無い、こっちだ。」

「急ぎなさい。」


俺の髪を染めた男の人に乱暴に手を捕まれ、先に立って歩き出した「俺」の後に続く。

そうして着いた先は彼の自室だった。

「俺」は部屋に入るなりお気に入りの猫足ソファーをひっくり返すと、その下の絨毯を捲る。




ドオォォ…ォ…ォン




「!」


鉱山の採掘場みたいな爆発音。続く地響き。

今までより大分近い……


「んー、早いですね…流石、と言うべきか。」

「言ってる場合か!」


ガン、と「俺」が強く床を蹴ると床板がズレる。

それを外すと人がやっと一人入れるくらいの穴が空く。


「こんなとこに……」

「ベタだがいい手だろ。」


いつも過ごしてた場所だったけど全然気付かなかった……

そろそろと近付いて中を覗いてみても暗くて底は見えない。


「ここから外に出れる。奴らが来る前にお前は脱出を……」

「ジョットは?」


目を合わせようとしない相手の手を取りじっとその目を見つめる。

さっきから、なんか変だ。


「ジョット?」

「……駄目だ。一緒には行けない……駄目なんだ。」


「俺」―――王族の証の金髪を茶色に染めたジョットは強い口調でそう繰り返す。

尚も言い募ろうとすると、こつりと額と額を合わせられる。

近付いた金にもオレンジにも見える瞳が揺れていることに気付く。


「約束を守れなくてすまない……
だが分かってくれ。『御印』を、王位を奪われるわけにはいかないんだ。
なに、安心しろ。『御印』と俺が揃わない限りバレることはない。」

「でも…!」

「俺の替えならいくらでもいる。だがお前はそうじゃない。
……『御印』の重要性は奴らも分かっている。
だから『綱吉』はここに居なくてはいけないんだ。」


自分の前髪をつまみ上げて笑うジョットの目はもう揺れていなかった。

堅い決意を宿らせた顔は、王族のもの。

髪色ひとつでこんなにも似るのに、俺達はとても遠いと実感させられる。


「だったら、俺が残れば……っ!」

「お飾りのお前に何が出来ると言うのです。」


ぐい、と首根っこを捕まれて息が詰まる。それのせいで反応が遅れた。

気付くとさっきの人の肩に担ぎ上げられていた。


「ジョット。こんな愚鈍な子供に何を言っても無駄です。
さっさと外に捨てて来ますから貴方は部屋の隅でこのちんちくりんのようにガタガタ震える練習でもしてなさい。」

「ちんちくりん……」


そんなズバズバ言われたの久し振りだ。

しかもすんごいこの人目が怖い。

蛇に睨まれたカエルの心地で呆然としてるとぐるぐると変装用のベールを巻き付けられた。

爆発音や叫び声、金属を打ち付けるような喧騒が徐々に近付いてきている。


「では私は行きます。せいぜい尻尾を出さないようにしてくださいね。」

「まったく、こんな時までお前は。……綱吉を頼んだ。」

「言われずとも。」

「待って……ジョット!」


ジョットに向かって手を伸ばす。

気付いたジョットも、笑って手を差し伸べる。

けどその指先が触れる前に、俺を抱えた人が穴を飛び降りてしまう。



その瞬間にほんの一瞬だけ見えたジョットの顔が、目に焼き付いて離れない。






















「ジョット!!」


そう叫んだつもりだった。けど出たのは掠れた声だけ。

喉が痛い。目が熱い。

自分が抱えられているのではなく、横たわった状態であることに、今までのが夢だったことに気付く。


「……起きた?」


瞼を開くと、この国の住人と真逆の色を有する人。

いつも浮かんでる笑みが消えて、眉尻がちょこっと下がってる不安そうな顔は子どもの様に見える。

労るような紫の瞳が迫る。こつりと額と額を合わせられた。

――ジョットの癖みたいだ。


「熱は無いみたいなんだけど……

「大、丈夫。でも水がちょっと欲しいかな。」


無理矢理笑って見せると相手は安心したのかいつものにんまり顔に戻る。


「飲ませてあげようか?」

「絶対ヤダ。コップ寄越せ!」


水差しをプラプラと振る男の手からコップを奪う。

そのまま突き出せば「冗談なのに〜」と可愛くないぶりっこ口調で水を注いでくれる。

銀にも見間違う白髪、「魅了」を意味するチャロアイト色の瞳。

大陸で一、二を争う異能技団の団長、白蘭。

俺も名前くらいは聞いたことはあった。

そんくらい有名な人なんだ。


……こんな変人で変態だとは思わなかったけど!!


「ちょっとは恩人に甘えてみせてくれてもいいんじゃないかな。」

「恩を返して余りあるほどのセクハラを受けているけど。」


ジロリと睨みつけると「えいっ」と恋人のじゃれあいのように鼻をつつかれる。

甘ったるい雰囲気を醸し出す奴にぞわりと鳥肌が立つ。

ええい、気持ち悪い!!女の子にやれ、女の子に!!たくさんいるだろ、周りに!

顔も商売道具のひとつって言うから今まで攻撃しなかったけど今なら許される気がする……っ!

ほん投げてやろうと枕を掴んだのと同時に扉をノックする音。

返事をすれば目の覚めるような髪色の女性団員が一礼して入ってくる。

そうして尊敬の念の籠もった眼差しでセクハラ魔神を見つめて「白蘭様」と呟いた。


「そろそろお支度を……」

「ああ、もうそんな時間?」


団員の手には本番用の白蘭の衣装があった。

白蘭は面倒臭そうに立ち上がるとバサバサと服を脱ぎ出す……っておい!!


「ストップ!」

「え、なに?興奮しちゃった?」

「するか!」


白蘭に空になったコップを投げつけると、真っ赤になって呆然としている団員から衣装を受け取り彼女を部屋から閉め出す。


「嫁入り前の女性の前で脱ぐな!どこまでオープンなんだお前は!!」

「そっか……ごめんね、綱吉クン。」

「俺じゃない!」


本当に申し訳なさそうに言うな、この野郎!!

衣装をブン投げてやろうかと思ったけど真っ白なそれになにかあったら困るのでやめておく。

それより気になることがある。


「今日は公演休みなんじゃなかった?」

「あ〜……うん、古参の子以外はね。」

「?」


古参……ていうと初めから団員だった数人だけだ。

白蘭は木綿のシャツを床に落とし気が進まないといった顔で絹製のインナーを手に取る。


「もう綱吉クンだから言っちゃうけどさ。極秘でお城から公演依頼が来てね。
今、王子様の病気でお城の人達、特に王様がすっかり塞ぎ込んじゃってるから少しでも慰めになればって。」

「病気……」


―――そういうことになっているのか。

あれだけの騒ぎが城下には漏れてないからおかしいとは思ってたけど。

『王子』が病気……ジョットの正体はまだバレてないってことだろうか?

本当に無事なんだろうか……他の人達も、生きているのかな……

考え出すと後から後から抑え込んでいた不安が頭を擡げる。


「極秘ってのが胡散臭いんだけどさぁ。なんで隠す必要があるのか……」

「白蘭。」

「なに?」


ダメだと頭の中で声がする。

全てが無駄になるという声が。

でもその声を、耳を塞いで聞かないフリをする。


「俺も行きたい。」


白蘭の目が、驚いたように見開かれる。

でもすぐにスウ、と細められた。


「俺も、連れて行って欲しいんだ。」

「……どうしてだい?」

「………………」


強いチャロアイトの目から視線を逸らす。

国を捨てているとは言え、白蘭に話していいのか……

異能技団は団員の人種も過去も問われない。暗黙のルールだ。

俺も拾われてから素性を聞かれたことは一度も無かった。

膝の上で握った手に力が籠もる。


「甘える前におねだりなんて猫より我が儘だよね、綱吉クンてば。」


いつの間にか目の前まで来ていた白蘭に、猫の仔にするみたいに顎の下を擽られる。

口調は飄々として変わらないけど、目が違う。

窺うような…探るような、そんな目だ。


「お城が見てみたい…っていう可愛い理由じゃなさそうだよね。
僕が拾った時の君の身なり、質素だったけど大分質が良かったもん。」


顎から伸びた手が、頬を撫でて髪に差し入れられる。

あの時の染料は既に落ちて、元の色を取り戻している俺の髪に指を絡めてそこに口付ける。

……西の人はこうやって異性を口説くのかとどこかで感心してしまう。


「……騒ぎ起こす気なんかないよ?全部無駄になるから。」

「うん、綱吉クンはいい子だもんね。でも」


とん、と胸を押されて後ろにひっくり返る。

しまった。

慌てて体を起こそうとするけど片腕で抑え込まれて動けない。

………なんか真剣ぽいやりとりしてたから油断した。

俺が無駄な抵抗してる間ににたりと嫌な笑いをしている白蘭がのしかかる。


「僕が騒ぎ起こさない保証はどこにも無いよね〜?」

「っ……お前!」

「詳しい話聞きたいな。ね?お・う・じ・さ・ま・?」


ちょんと鼻をつつかれる。

こいつ!!やっぱ分かってて拾ったな………!!

睨んでもにっこり返されるだけだ。

俺は、全身の息を吐き出すような深い溜め息をついた。


……もー、こうなったら絶対、何が何でもついてってやる。




* * * *



異能技団は人種も性別も年齢も過去も関係無いらしい。

だから「行く宛て」の無い人が集まる。

そして訳ありだからか外見も中身も個性的な人が本当に多い。

白蘭の容姿もかなり変わってるけどここの団員はとにかくカラフルだ……だから俺も紛れられるんだけど。


「でも用心に越したことは無いからね。」


そう言って白蘭が用意したのは異国の女性用の服一式だった。

砂漠地帯の国は日差しから身を守る為と慎ましさを重んじる為に顔を覆い隠す女性が多いらしい。

確かに今の俺にはもってこいの変装だ。


「まあ国にも寄ってなんだけど色にも意味があってね。
子供は明るい色、未婚の成人女性は黒。紺とかもいいんだったけな。
既婚女性は落ち着いた色、助けがいるご高齢は白……って感じかな。」

「へぇ……」


頭部を覆うベールに顔半分を隠す布。

服自体はなんだか……ダンサーの団員が着てるのに似ててヘソが出てたりするけど顔は完全に隠せる。

でも薄いピンクなのがちょっと……他の色は無いのか。

まあスカートじゃないのにしてくれたんだから文句は言えない。


「その国の女性は知らない人とは直接会話できないから綱吉クンも声出さないようにね。」

「徹底してるなぁ……分かった。

「あとなるべく僕から離れないでね。」


人差し指を立てて「ね?」と繰り返す白蘭。

どこの過保護な親だ……小さい子みたいに言うな。年変わんないし。

だから暴れる気もなにも無いって言ってるのに……信用ないなぁ…


* * * *


前髪を掻き上げて鏡を覗き込む。

……少し伸びたな。根元から元の髪色が見えている。一度染め直すか。

耳の下の生え際を確認しているとバン、と音を立てて扉が開いた。


「まったく、『王子』が行方不明だと言うのに暢気にサーカスなど……日和見の腑抜け共が……!」

「…………ノックしろ、おい。」


いつも口うるさい礼儀はどうした。

あいつかと思っただろ。心臓バクバク言ってるぞ、今。

だが俺の苦言も聞かずに奴は苛立ちを隠さない顔でドカリと椅子に腰を下ろし手にしたチラシを弾く。


「この不穏な時期に!『王を慰める為』?その王が鑑賞できる状態ではないと言うのに!」

「大臣どもが権力者に媚びを売るのは仕方ないだろう……どうした、お前らしくもない。」


鼻で笑って皮肉の一つもいうところだろ。

だが奴は苛々としたまま憎々しげに俺を睨みつける。

俺に当たるな、俺に。

よほど「俺」と王を出汁にして簒奪者の機嫌を取ろうとする行為が気に召さないようだ。


「ここに『お前自身』がいればあの腑抜け共の好きにはさせていないかったというのに……!」

「諦めろ。ここにいるのは『綱吉』で城を脱出したのが『ジョット』だ。」


わざとらしく茶の髪を払い、綱吉の真似をしてにこりと笑って見せる。

そしてその後でニヤリと素の顔で笑えば奴は頭が冷えたのか呆れたのか判断の付かない溜め息をこれ見よがしにつく。


「お前には適いませんよ……まったく。」

「当然だ。」


産まれた時からの立場が無ければ役者になりたかったんだ、本当はな。

ふと、床に落ちているチラシを拾い上げる。

……サーカスと言うからどこのかと思えば。


「異能技団を呼んだのか……ご機嫌取りに大盤振る舞いだな。人気のショーを貸し切りとは。」


チラシを見て懐かしさに和む。

前に忍びで見に行ったことを思い出すな……


「流石に王と王子本人がいないのに大々的にはやれませんよ。
内密に、団長とトップクラスの連中だけを呼んだようですね。」

「団長か……」


にんまりと笑う、若いのに真っ白な髪の男を思い出す。


「こんな子供騙しがあの男の気に入るとは思えないが……」

「そうか?なかなか見物だったぞ。一度見てみたらどうだ。」

「何を暢気な!まだ綱吉も見つかっていないと言うのに!」

「そんな躍起にならなくてもあいつなら大丈夫だろう。元々はあちらの」

「そういう問題ではない!!」

「……冗談だ、冗談。」


石頭め……


* * * *


「ったく……」


ガタゴトと揺れる荷台の振動に眠気が襲ってくる。

ぼーっと後ろ向きに流れる街並みを見やり、持っていた手配書を投げ出す。

無意識に探す色が有るはずもなく、視界にあるのは黒髪の人間ばかり。まあ金髪のままなわけねぇよなぁ……

一体どこに隠れてやがんだ、こいつは。


「隊長〜。そんなとこで寝ないでくださいよ。」

「しゃきっとしてください、しゃきっと!」

「……うるせぇ、俺の勝手だぁ!」


戻るだけでも憂鬱だってんだ、今だけでも好きにさせやがれ!

やかましい部下どもを無視して馬車の荷台に横になる。

あ〜……空が青いな、おい……


「………」


投げ出した手配書をもう一度手に取る。

描かれているのは少年の顔。今は『流行り病で療養中』の筈の人物。


「腑に落ちねぇんだよなぁ…」


誰に言うでもない独り言だ。

このガキが『御印』を置いて一人で逃げ出した……紛れもない事実。

事実なんだがどおおおおにも腑に落ちねぇ。


「ん…?」


橋に差し掛かったところで視界の端で鮮やかな色を捕らえる。

そちらを向けば白やら青やらピンクやら、派手な髪色の人間が数人、更にド派手な馬車を取り囲んでいた。

……この国には黒髪と一握りの金髪しかいねぇ。異人のサーカス団か……?


「似たような物ですが……あれですよ、今話題の異能技団ですよ。」

「ああ……噂は聞いてるなぁ。」


あれがそうなのか……

興味を惹かれて見ていると、幌馬車の影から一人、子供が出て来た。

着ているのは本で見るような遥か遠くの国の民族衣装……国境関係なしのようだな、本当に。


「あんな小さいのにもう決まってるのかぁ……」

「?なにがだ?」


両手いっぱいに道具を抱えている桃色の服のガキを目で負いながら気の毒そうに言う部下。

団員にガキがいるのは不思議なことじゃねぇと思うが……


「あ〜…隊長は北からいらしたからご存知無いんですね。
あの国の女性はああいった格好で顔を隠す事を義務づけられていて、服の色にも決まり事があるそうなんです。」

「ほお。」


そいつは初耳だ。

横を通過する時に他にも女団員が居たのが見えたが同じ格好の奴はいなかった。


「で、なにが『決まってる』んだ?」

「それはですね……」


* * * *


まったりと一人東屋で寛いでいる白髪頭に後ろから飛びかかる。


「びゃくらああああああああああああんんん!!!!」

「うぐっ!?」


首に腕を引っ掛けてぐいぐいと締め上げれば不意打ちに驚いた白蘭が珍しく慌てた声を出す。

けど許すかああああああ!!!!


「ちょ!?綱吉クンてば…死ぬ死ぬ、マジで…っ!!」

「よおおくも騙したなこの野郎!!」


腕を緩めずにいるといよいよ苦しくなったらしい白蘭が本気の力で俺を投げ飛ばした。

着地地点はトランポリンの上だったから怪我しないようにはしてくれたらしい。


「も、本当に激しいな……っ、騙してなんかないじゃない、ちゃんと連れてきてあげたじゃん。」

「それじゃない。これ!!」


着てる服の胸元を引っ張る。

案の定、明後日の方向を見て頬を掻く白蘭。

やっぱ分かっててこの色着せたのかこの野郎………

知らなかったとはいえここまで歩いてきたから恥ずかし過ぎる!!

顔隠して無かったら俺、大河に飛び込んでた!


「えーと。………あっちの設営は進んでるかな〜。」

「白蘭!」

「しー、綱吉クン。喋っちゃダメだよ。大人しくしてないと怪しまれちゃうよ。」

「う………」


それ言われると反論できない……その為にこの格好したんだから。

俺が黙り込んだのを見て白蘭は「じゃね」とそそくさと去っていく。

……逃げ足早い。


「ったく……はあ。」


白蘭の居た東屋に座り、城を見上げる。

来てはみたものの、ジョットの安否も分からないままだ。

内部を知っていても入ることができなきゃ意味がない。

こないだまで居たのになぁ……今は遠く感じる。

あの時、無理矢理にでも連れてくれば良かった。


「……王位よりもお前のが大事なのに……」








「誰だ、てめぇ。」

「!!」


重く、のし掛かるような声。

立ち上がって振り返れば入り口に背も肩幅もある大きな男がいた。

知らない人間……城に居た時には一度も会ったことのない人だ……簒奪者の一派か。

横を向いて、ベールで顔を隠す。

相手は一つしかない出入り口の真ん中に仁王立ちしてるから脇をすり抜けることも出来ない。

どっかに行ってくれることを期待しても大男はそこから動こうとしない。

それどころかズカズカとこちらに向かってくる。


「……流れ者どもの仲間か。」


こくんと頷いて見せる。

上からの強い視線に冷や汗が噴き出る。なんか、すんごい見られてる……!
もしかして、怪しまれてる!?

どうしたらいいか分からなくて動けない。相手も動く気配はない。


「………てめぇ。」


身を縮めていると大きな手が顎にかかった。

振り払う間もなく顔を上向かされる。


「っ!」


まずっ!顔はヤバい!!

逃れようと首を振るけどがっちり固定されてる。

指を外そうと手をかけても全く意味をなさない。


「ふん。」


なんだか笑いを含むような声に、背筋が冷える。

反らしていた目線を上げると相手の顔が目の前にあった。


「!!」


顔中に広がる酷い傷跡と初めて見る赤い目。

赤い瞳の人間なんてこの国には一人しかいない。

なんでこんなところに……いやそれよりこれ、顔の布捲られたらバレる!!

なりふり構ってられない!ここから離れないと……!

思いきり腕を振り上げて拘束を解くと東屋から飛び出す。

でも。


「あ……っ!!」

「逃がすかよ。」


予想外に相手のリーチのが長かった。

手首を掴まれて引き寄せられる。片腕でがっちりと体を捕らえられれば身動きは取れない。








「困るなぁ、閣下。」

「!」


後ろから腰に回された腕。逆に引っ張られて抱き込まれる。

上を見上げれば馴染みのある藤色のチャロアイト。

白蘭の腕にしがみつくと安堵感が満ちる。

来て、くれた……!


「僕の大事な子に手を出すなんて。」

「「だから」に決まってんだろうが。」


射竦めるような視線に体が強張る。

獰猛な顔で笑う、王族の命を握る悪魔。


それが、簒奪の首謀者ザンザスとの初の遭遇だった。









END





大体の流れはこんな感じにする予定です。
本編で書き込みたいのでなるべく詳細を書きこまないようにいろいろぼかしてあります。
名前の無いキャラがだれかはみなさんの想像にお任せします(笑)

ついつい書き込むのを切り捨て削除しスリムアップを図りなんとかここまでにしたよ……
セクハラにコントに説明に山ほどやりたいことあるからなぁ…
本番はここまで行くのに何話使ことになるのか。

イメージ画:猫村さん