祝ってあげるね





玄関で靴に足を突っ込んでトントンと爪先を打つ。

床に置いた紙袋を取ろうと振り向くと丁度二階から降りてきたビアンキが不思議そうな顔でこちらを見ている。


「あら、ツナ出掛けるの?」

「うん…安全地帯に。」

「?」


休みだってのに普段ぐうたらしてる俺が朝から出掛けようとしてるんだもんね。そりゃ不思議に思うだろう。


「今日は骸の誕生日なんだ。」

「……ああ、それで。」


納得した顔のビアンキは、早く行けとばかりに手をひらひらさせる。

酷いな〜…厄介事にならないようにしようとしてるのに。


「早く行きなさい。骸が来たら山本武のところにでも行ったと伝えておくわ。」

「……ビアンキ、山本になんか恨みがあるの…?」

「リボーンに贔屓されてるのが気に食わないのよ。」


………哀れ、山本。

でも骸は多分来ないから大丈夫……ていうか俺が今から行こうとしてる安全地帯が骸のとこだしね。

今日警戒するべきなのは主役じゃなくて秩序の方だ……

ビアンキに俺の部屋の窓の鍵を締めないようにお願いして扉を開ける。

ガラス割られたら困る…気温はまああったかくても雨風凌げないのはきつい……

雲雀さん、去年も散々追い回して妨害してきたから今年も気を…


「おはよー!!綱吉クン!!」

「ぎにゃあああああああ!!!!」


ドアノブを回した瞬間に物凄い勢いで扉が開く。

ノブを掴んでた俺は引っ張られてよろめいた体をがっしりとホールドされた。

何が起きたか頭が理解する前に目の前に来たのは元強敵の顔。

反射的に悲鳴も出るよ!!!!


「よっし、お邪魔しました〜。」

「ちょ、ちょっと!ちょっと待てえええ!!!!」


「夕飯までには帰りなさい」と扉を閉めるビアンキに「は〜い」といい返事で人を担ぎ上げてすたすた歩き出す白蘭。

違う!!そうじゃない!!そうじゃないだろ!!


「ん?ああ、ごめんごめん。よっと…………これで前見えるよね。」

「うん、って違う!!」


肩から降ろしてくれるのかと思いきや、小脇に抱えられる体勢にされた。

前は見えるけどなにも改善されてない!!むしろさっきの方がマシ!!

小脇に抱えられるとか扱いが屈辱過ぎる!!俺そこまで小型じゃない!!!!

バシバシと腕を叩きながら俺を抱える相手を見上げる。


「白蘭!!降ろせっての!!朝からなんなんだよ!!!!」

「朝だからじゃない。綱吉クン、普段はぐうたら寝てるけど今日は早く行かないと逃げちゃうって聞いてたからね。」

「………………」


『今日は』?

俺は黙って白蘭の服を漁る。

「エッチ〜」とか嬉しそうな声はスルーだ、スルー。

そして案の定、ジャケットのポケットから出て来た藤色のリボン。


「………お前、いつから骸と仲良くなったんだ?」

「あっは、分かっちゃった?そうそう、とびきりの誕生日プレゼント用意しようと思ってさ!」


とびきり……喜んでいいのか。

いや、ダメだな。ダメだ。

普通の感覚を忘れるな、俺。そこ忘れたら終わりだ。まわりに流されちゃいけない。

リボンをそっと持ってた紙袋の中に落とし込む。


「あ、でもね。逆だよ、綱吉クン。」

「なにが?」

「骸クン本人はどうでも良さげなんだけど周りの子達が殺気立っちゃっててさぁ。
特にクロームちゃんがね、もう般若だよ般若!
僕はみんなと仲良くしたいだけなのに……」


首を振って息を吐き出す白蘭は最後、本音が漏れたことに気付いてるのかな……

そういえば助けて貰ったからか山本の話にはちょこちょこ白蘭のこと出てくるし、よく会ってるみたいだし…

俺の所には迷惑しかかけに来ないけどね、今とか。


「で?なんで誕生日なんだ?山本から聞いた?」

「違うよ、親切なメル友からの助言だよ。」

「…………………メル友?」

「『あいつの一番欲しがってるものプレゼントに持って行けば男の友情が深まるよ』って。」

「……貸して。」


白蘭から携帯を受け取って、メール本文ではなく送信者を見る。

もちろん、答えは言うまでもない。

またもや先手を打たれた……何故次から次へと碌でもない作戦思いつくんだ、あの人……

俺は黙って携帯を返すと首の力を抜いた。

いろんな意味で脱力した……あとこの体勢、地味に首とかが疲れる。


「っはあああああああ!!!!!!」

「あ、来た。」

「は?ってうああああああ!?」


白蘭が足を一歩引くと同時にズドンと目の前に落ちるミサイルとクレーター……ってこれミサイルじゃない!!!!


「クローム!?」

「あ、ボス……」


緑のミサイルに見えたのは三つ叉剣装備したクロームだった。

言っとくけど幻覚で見えたとかじゃなくてマジクローム。

そんくらいの勢いで突っ込んできたんだよ、頭上から。

しかも俺に気付く前の顔が一瞬般若に見えた…………あれ例えじゃなくて本当だったんだ……

ということはさっきの太い叫び声もまさか……

見上げればほんのり赤らんだ頬のクロームは可愛らしく小首を傾げている。

…………聞き間違いだ、うん。そうに違いない。


「ボス?なんでその末生りと一緒にいるの?」

「は?え?うらなり??」

「こんな血色のいい僕を捕まえて!クロームちゃんたら酷いぃ!」


だから「うらなり」ってなんだ。

困惑する俺を余所にクロームはポンと手をたたく。

俺が手にしてる紙袋を指差し嬉しそうに笑う。


「それ、もしかして骸様に?」

「う、うん…」

「良かった!私、ボスを迎えに来たの。
雲の人に取られちゃう前に一緒にお祝いして貰おうと思って。
でもボスがプレゼント用意してくれてると思わなかった…!」


きらきらした笑顔に良心が痛む。

ごめんね、クローム……これただの好意だけじゃなくて雲雀さんから匿って貰う賄賂も兼ねてるんだ……

誤魔化すようににへらと笑うとクロームの顔から笑顔が抜ける。

何か怒らせたかと思ったけどそうじゃないみたい。

クロームの目はぎらついた光を宿して白蘭を見据えている。

変わらず可愛らしい仕草なのに抜けた表情と眼光が怖い。怖すぎる……!


「それで末生りはボス抱えてどこ行くの。」

「え、骸クンの誕生日祝…」


ズドッ!!


「ひえええ!?」


脇の電柱に突き刺さる骸の槍。

モーション無しでクロームが投げつけたのだ。


「聞こえなかったわ。もう一回言って?」

「だからー、骸クンの…」

「言うな!!もう口開くな、お前!」


にっこり笑うクロームとか怖い怖い怖い!!!!

雲雀さんの笑顔の比じゃない怖さ!!!!

ところが巻き添えの俺がこんなに怖がってるってのに殺気の標的はどこ吹く風で俺を胸の前に抱え直す。


「よしよし。ほらぁ、クロームちゃんが怖いから怯えちゃってるじゃない。」

「大丈夫、ボス。末生りしか狙ってないから。ボスには掠り傷は付けないわ。今、それ狩って助けるから少し待っててね。」


こんな状況なのに発言がとっても男前に感じるうちの紅一点……

でも待って、こんなとこで戦闘なんかしたら雲雀さんが飛んでくる…!!!!


「ストオオオオオップ!!!!!!」

「んなあ!?」


ズガン、とまた凄い音させて頭上から緑のミサイルとクレーター……


「あ、骸だ。」

「!?綱吉くん!?なにやってんですか、君。」


骸は着地すると同時にぺちんと今にも突っ込んできそうだったクロームの額を抑える。

訳がわからないとばかりに顔をしかめてる骸に紙袋から取り出した藤色のリボンロールを見せる。

すると納得した顔で「ああ」と頷く。


「大体のことは理解しました……
朝っぱらからクロームと犬だけならともかく低血圧の千種までいないからおかしいとは思ってました……」

「え…他の二人は見てないよ…?」

「犬と千種なら雲の人の足止めに行ってる……」


…………………二人の無事を祈ろう。

大人しくなったクロームから手を離して骸は腕を組んで白蘭を睨む。


「で?僕は個人情報をばらまいた記憶はないのですが……
なぜ、あなたが僕の生誕日を知っているのでしょうか。」

「昨日ディーノクンとアフタヌーンティーしてたら教えてくれた。」

「え!?雲雀さんに聞いたんじゃ……」

「違う違う。何も用意してなかったから雲雀ちゃんにアドバイスして貰おうかなって。」


広い交友関係だな!!!!なんでそんな仲良くなってるんだ!!

しかもまたディーノさんか!!なんなんだ、あそこのお騒がせ師弟は!!!!

ギリギリと手の中のリボンに爪立てて心の中のいつか復讐リストに二人の名前を並べる。


「僕としてはあそこの連携より余所のファミリーのボスに僕の情報が漏れてる事の方が気になるんですが……
まあ、その問題は後にして。」

「うん?」


骸はスタスタと歩み寄ると俺の手から紙袋とリボンを取り上げそれぞれを白蘭とクロームの手に乗せる。


「??骸??」

「はい、綱吉くん。」


目の前で手を広げて微笑む骸にいつもの癖で腕を伸ばして首にしがみつく。

「あ、しまった、外だ」と気付いた時には既に人形のように抱えられた後だった。


「しまった…条件反射で……」

「クフフフフフフフ!」


上機嫌な骸にすりすりとぬいぐるみにするように頬擦りされる。

もういつもの事過ぎて抵抗する気も起こらない。


「なかなか気の利いたプレゼントです。」

「あ〜。ダメだよ、骸くん。まだラッピングしてない。」

「おや。本当だ。」


白々しいぞ、二人とも……

白蘭はリボンをピンと張り、両端を持って俺の腰から脇、首に向かってリボンをぐるぐると巻きつける。

最後首の後ろで蝶々結びにすると「完璧♪」とご機嫌だ。

やっぱりこうなるのか……


「さ、戻りましょうか。」

「戻るってまさか黒曜にか?」

「他にどこに行けと?大丈夫ですよ、今の君はうさぎさんです。」


またぬいぐるみか……まあいいや。どうせ行くつもりだったんだし。

俺は骸の首に腕を回して肩に頭を乗せて体を安定させる。

こうなったら着くまで離してくれないだろうし。

一眠りしちゃえ〜……











オマケ


前を歩く骸クンにしがみついて完全にリラックス状態の綱吉クン。

エラく僕の時と態度違うよね。

骸クンも慣れた感じで片手で綱吉クン抱えてスタスタと歩いている。



でもひとつ気になることが。



「クロームちゃん」

「なに、末生りの人。」


相変わらず刺だらけだなぁ……

敵意無いから打ち解けようよ。もうちょっと。


「さっき綱吉クンにぬいぐるみの幻覚被せたって言ってたけど。」

「言ってたよ。」

「……まったく『見えない』んだけど。」

「見えないわ。」

「…………」


オウム返しして欲しい訳じゃないんだけど。

据わった目を向けるとクロームちゃんも据わった目を向けてきた。


「見えるわけない。だって言っただけで骸様なにもしてないから。」

「え、それって嘘…」

「並盛町出たらちゃんと幻覚被せる。」


だから大丈夫と言い切るクロームちゃん。

………それ、綱吉クン的にはハイパーアウトじゃない?







END









ツアー中に書くのは無理だろうと先月のうちに書いておきました☆
予想通り現在の私は瀕死です……
「末生り」の意味は是非辞書を引ていただきたい(笑)
この状態のクロームを見れるのは生理的に受け付けないグロ様と骸瀕死においやった白蘭だけになります。