隠し刀(お試し)






…………重い。

ぱちりと目を開ける。

………和室…あ、そうか。雲雀さんの部屋か。

ついつい日差しが気持ちよくて寝、


「…ん?」


何か乗ってる。

うつ伏せで寝ていた俺の背に…

首だけ巡らしその重さの正体を見やる。


「………………」


ていっと寝返りを打ってソレを振り落とす。

すると体が丸いもんだからソレはゴロゴロと転がって壁に激突した。


「ブキッ!?」

「…おはようございます。」

「何するんだい。痛いじゃないか。」


少し涙目で起き上がった真っ黒なミニブタが恨めしげにこちらを睨む。

人の時ならともかくその姿で睨まれても怖くないです。

「はいはい」と両手を広げて見せるとトコトコと腕に駆け込んでくる。

抱き上げて壁にぶつけたところを撫でてやるとピルピルと耳を動かして鼻を鳴らす。


「もっと右。」

「はいはい…
枕にするのはいいんですけど寝ながらそっちになるのやめてくださいね、雲雀さん…かなり重いんで。」

「今度からはこのまま寝るよ。」

「乗らないでくださいって。」

「所有物に拒否権は無いよ」


…どんなに可愛くなってもこのふてぶてしさは変わらないんだな。

「ブキキッ!」と俺の腕の中で鳴くこの黒ミニブタ、実は歴とした人間なのだ。

名前は雲雀恭弥。

年は…………………………………多分、30はいってないと思う。うん。

なんでミニブタなのかと言うと、悪い魔法にかかったとか呪いとかじゃなくて多分この人の趣味なんだと思う…


「違うよ、失礼な!」

「おう!?ちょ…っ、心読むのやめてくださいってば!」

「ただ漏れなんだよ、君は。」


顎に短い前足によるブタパンチをお見舞いされた。

地味に痛いです、雲雀さん…


「やめてよね。僕にファンシーな趣味があるみたいじゃないか。
確かにミニブタを選んだのは僕だけどこんな格好してるそもそもの原因は君だろ!」

「へ?そうでしたっけ?」

「小さい君が目が怖いだの顔が怖いだのと泣き喚くから僕は仕方なく獣姿で生活することを余儀なくされたんだけど…」


…………………そんなこともあったっけかなぁ。

しみじみとしていたら後ろ足のキックが飛んできた。

もう!凶暴過ぎ!!







ぐいぐいとリードを持つ手を引かれながら歩く。

ぽてぽてと目の前を歩く丸い生き物の背に溜め息が漏れる。


「………雲雀さん、前から思ってたんですがこの図逆じゃないですか。」

「ペットは1日二回、朝と夕方に散歩するものだよ。合ってるじゃないか。」

「合ってますけど…」


これだと「雲雀さんが」じゃなくて「雲雀さんを」散歩してるようにしか見えないんですが。

そう訴えると雲雀さんは立ち止まって俺を振り返る。


「じゃあ君に首輪と鎖をつけて散歩すればいいのかな?」

「それじゃ雲雀さんが変態みたいじゃないですか…
じゃなくて、雲雀さん疲れません?俺抱っこしますよ?」

「ん。」


行儀良くお座りしてこちらを見上げるミニブタ。

中身が雲雀さんじゃなかったら抱き締めて頬摺りしたくなる可愛さ…

いいなあ。雲雀さんじゃないミニブタ欲しいなぁ。


「…君今なんか失礼なこと考えてなかった?」

「いえいえ。」


よっこらせと抱き上げる。

…気のせいじゃなく重い。いくら変化してるとはいえ元は成人男性だもんなぁ…

雲雀さんを抱えて夕暮れの道をゆっくりと歩いていると突然目の前が陰った。

顔をあげると、緑の学生服を来た…


「むく!」

「ただいま、綱吉。」

「遅いよ。寄り道してたんじゃないだろうね。」

「君は僕の父親ですか、某携帯会社の白犬ですか…委員会ですよ。」


むくは隣のアパートに住んでる雲雀さんの同業者で…俺の兄さんで父さんで友達なんだ。血は繋がってない。

元は妖狐だったんだけど、いろいろあって人に転生したらしい。

むくは俺の腕から雲雀さんを抱き上げると小脇に抱えてしまう。


「綱吉がヨタヨタしてるから何かと思えば…雲雀、君もっと小さいのになれないんですか。」

「これでも頑張って小型化してるんだよ。」


スタスタ歩くむくの後ろを小走りで追いかける。

足が長いから追いつくの大変…


「それはそうとこんな時間に何してたんですか、君たち。仕事の依頼でも来たんですか?」

「いや。あんまり暇だから綱吉の散歩にでも行こうかと。」


ピタリ、とむくの足が止まる。

急に纏う気が重苦しくなった。

…ヤバい、地雷踏んだかも…

むくはムンズと雲雀さんの首の後ろを掴むと自分の目の高さに吊り上げた。


「ひ〜ば〜り〜…綱吉をペット扱いするなとあ・れ・ほ・ど言っておいた筈ですが?」

「人を人とも思わないこの所業はどうなのさ。」

「黙らっしゃい。君が人の括りに入るとでも?この黒ブタめ。」


ピンとむくがミニブタの鼻を弾くとわしゃわしゃと短い足を振り回して雲雀さんが暴れ始めた。


「ブキ〜ッ!!ブキッ、ブキキキキキッ!!!!」

「クハハハハ!!そんな短いリーチでは届きませんよ、キョ・ウ・ちゃ・ん。」

「気持ち悪い呼び方するんじゃないよ、性悪狐!!」


………こんな時に何だけど。

雲雀さん可愛い〜…。ぴょこぴょこして可愛い。

内容はかなり不毛な争いしてるけど。

というか人間に戻ればいいのに…なんでこの人ブタのままなんだろうか。

俺もう雲雀さんの目つきの悪さにも慣れたのに。

あんまり激しく雲雀さんが鳴くもんだからご近所さんがこっち見てるよ…

恥ずかしいったらない!

俺はむくから雲雀さんを奪い返すとしっかりと腕に抱えた。


「雲雀さん、めです!むく兄も雲雀さんいじめるな!」

「ブキッ。」

「はいはい…全く…これではどっちが主人なのやら…」


ホントだよ…

俺はまだ唸ってるミニブタを抱っこし直した。

この人最近中身も動物化してきてるような気がするんだよね…


「綱吉が甘やかすから…君も何故好き好んでそんな格好をしてるんですか。」

「楽だよ、この生活。寝る・食べる・綱吉しかしなくていいし。
僕もう仕事以外はブタでいい。」

「もう勝手にしてください…人としての尊厳はせめて守ってくださいね…」


「ブキッ」と鳴くミニブタにむくは呆れたように溜め息をついた。







家に着いたらすぐに雲雀さんの足の裏を拭いてあげる。

床に降ろせば「風呂沸かしといて」とだけ言い残しのしのしと和室に向かっていく。

…寝る気だな。

案の定、鼻先で器用に襖を開けると中にぽてぽてと入っていく。

雲雀さんて一日中寝てるよな…そこは人型でもミニブタでも変わんない。

首輪とリードを片付けて、風呂場のスイッチを押す。

そうしてリビングに戻ってすぐにソファーに寝転がった。

腰と肩が…ミニブタ可愛いけど重いから疲れる…

きっと4本足だったらもっと楽だったんだろうなぁ。

二本足はどうにも負荷が掛かってよろしくない。


「………ふあぁ…」


そーいえば俺昼寝の途中だったのを雲雀さんに邪魔されたんだよなぁ…

いいや、風呂沸くまで寝ちゃえ。


* * * *


「……………」


いつまで経っても起こしに来ないと思ったら。

ソファーの上に丸くなって寝ている小動物。

こうしてるとまだまだ本性に近いね。

ソファーに前足をかけてつくつくと頬を鼻先でつついてみても動きもしない。


「全く…」


ぶるりと身を震わせる。

変化を解いて綱吉の両脇に手を差し入れてぶら下げる。

揺さぶってみても起きそうにない。

日が落ちると眠るあたりお子様だね…

仕方ないから綱吉を抱き上げて風呂場に向かう。

手間がかかるのは全然変わんないよこの子…

骸はああいうが僕に言わせれば手のかかるペットにしか思えない。


まあ、僕の責任だからこの子が一人前の人になるかお使いになるかするまでちゃんと面倒みるけどね。








END





とあるアニメにいる用心棒マスコット(?)のふてぶてしい可愛さを見て思いついた妄想です(笑)
「これ雲雀でいけんじゃね?」と思いまして。
で、猫はもうやったからふてぶてしくても可愛くて、更にはツナが抱えるにはちょっと大きめな生き物で実際にペットになるもの…ミニブタや!となったわけです。
始めは「パン君」のノリで考えてたんですがせっかくだからキリリクをいくつか取り入れて連載にできないかと。
いざ作り込むとなかなかに面白い案が浮かんだので試しでちょっと書いてみようかな〜、と。

今のところ決定しているレギュラーは作中の三人、あとは敵方に獄寺かディーノを。
うちの獄寺は今まで必ずツナ側に居たので敵方にしてみたら楽しいかな、と思ったり思わなかったり…
話は陰陽師…というか、とにかく術師系の内容で本編はきっと非日常な感じになるのでお試しは敢えて日常にスポットをあててみました。



これが次の連載候補の一つなのですがどうでしょう?
もち、どれか連載終わらせてからの話ですが
読みたいと思われるといいんですが…