1.姉さんと一緒





「……くん!ツっくん!」

「………ん〜……?」


ゆさゆさと体を揺さぶられる。

母さん……?

意識は浮上したものの、起きたくない俺はごろりとうつ伏せになる。

今日は休みだから思う存分寝たいんだよ、俺は。

日差しも俺の味方とばかりにぽかぽかと気持ちがいい。

一瞬覚めかけた意識もまた落ちていく……



と思ったんだけど、母さんはしつこかった。




「ツっくんてば起きて!起きなさい!起ーきーて!!起きて起きて起きて!!起きてよ、起きて!!もー、ほら!!諦めて起きなさーい!!!!」

「あー!!!!もう、うるさあああい!!!!」


ガクガクと全身を揺すられて耳元で騒がれたら寝るどころじゃない。

眠気もなにも吹き飛ばされた俺は飛び起き様に怒鳴った。


「なんだよ!!!!もう!!!!」

「や〜っと起きた。もう、ツっくんたら父さんに似て寝汚いんだから。」

「寝覚め最悪なこと言わないで……って。」

「?」


ぱちぱちと瞬き顔をしかめる。

―――おかしい。

なにがおかしいっていろいろおかしい。

まず地面についた手の下にある芝生。

………俺布団で寝てたよな……?なんで屋外にいるわけ。

そして周りは見たことない景色。

絵に描いたような大きな屋敷の、おはなしでしか見ないような大きな庭の一角の木陰に俺は寝ころんでいたらしい。

……どこだここは。ていうか日本か。いつ移動したんだ、いつ。


「どうしたの、ツっくん。そんな怖い顔して。台無しじゃない。」


深くなっていく眉間の皺をつんつんつつく母さんを見る。

これまたどこのおはなしですかと言いたくなるようなフリルいっぱいメルヘンいっぱいな服を着てる。

紫のボンネット、だっけ?にお揃いの裾の長いドレス。西洋人形みたいな格好。

……「年甲斐もない格好すんな」、と言いたいとこなんだけど。

言うべきとこなんだけど。

…………ものすごく違和感なく似合ってる。


「……母さん。」

「なあに?」

「すご〜くよく似合ってるよ、それ。」

「あら!ありがとう!」


立ち上がってくるりと回って見せる。本当に嬉しそうだ。

そういう服大好きだもんね〜、母さん。

「女の子が産まれたらお揃いの格好するのが夢だったの!」ってよく言ってたもん。

でも残念ながら子どもは俺だけで念願の女の子じゃなかったから夢は叶わなかったと。


「ちょっと無理があるかと思ったんだけど、まだ着れて良かったわ。」

「全然余裕だよ、母さん。まだまだイケるって。あと10年は余裕だよ。父さんもベタ褒め間違いなしだよ。惚れ直すに違いないよ、ラブラブだからね!もう一人、妹だって夢じゃないと思うんだ。


だから、俺巻き込むのヤメてくんない!?」


そう。

一番ツッコミたかった事項。

すーすーする足、纏わりつくひらひらの布地。

かさばってしょうがない腰下回り。窮屈なウェスト。

重くなった頭に視界にかかる長い髪、頭上にあるぴらぴら。

ものすご〜く懐かしくて二度と思い出したくなかった感触だ。


「相変わらずよく似合うわね!ツっくん!!」

「俺は相変わらず着たくなかったよ!!!!」


手を叩いて喜ぶ母さんに無駄と分かりつつそう怒鳴る。

俺もまた、おはなしの中の主人公が着るようなぴらぴらフリフリの服を着ている。

所謂、「不思議の国のアリス」のような格好だ。

寝る前は確かにパジャマだったのに……!!

因みにこれは初めての事じゃない。

母さんは叶わなかった夢を諦めずに、こうやってフリフリぴらぴらを息子に着せて夢を中途半端に実行していたのだ……

俺が小学校に入るまでこの苦行は続いた。

でもそれ以降は言わなくなったから気が済んだんだと思ってたのに……!!


「似合うからいいじゃない!」

「百歩譲って似合ったとしても中学生にもなってこれはない!!
もう二度と着まいと心に決めてたのに!!
辛すぎるよ!誰かに見られたら死ぬ!きっと死ぬ!死ぬしかない!恥ずかしすぎる!」

「ツっくんたら大げさな。大丈夫よ、似合ってるって笑ってくれるわ、みんな。」


だからそれが嫌なんだよ、それが!!!!









続く…





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