33.ゲームスタート





「もうやだ。俺クロームが起きるまでここにいる。夢終わるまで動かない。っていうか骸なんとかしてくれよ。クロームの暴走止められるのお前だけだろ。」

「あー…………それなんですが。」


なんだか、珍しく言いよどんでる骸。不思議に思って体を起こすと骸は額に指を当てて嫌そうな顔をしている。

なんか、こう認めたくないとかそんな感じの。プライドが傷付いたみたいな。


「どうしたんだ?」

「………止められないんです。これ。」

「は!?なんで!?クロームの先生みたいなもんだろ、骸!」

「人には得手不得手があるんです。幻術はまだまだ負けませんが……夢に関してだけはどうやらあの子の上を行く者はそういないらしい。
といっても夢の内容を自在に出来るというだけで実際に何かが出来るわけでは無いんですが。これも長い夢に感じますが実際は一晩だけのものの筈です。」


一晩だけってとこに安心はしたけど、ならこれはクロームの気が済むまで終わらないって事なんじゃ……

さああと青ざめる俺に骸が首を振る。


「これは君の夢にも繋がっている。だからルールがある。だから終わらせられます。君はクロームのルールをクリアすればいい。」

「それって、この乙女ゲームでエンドを迎えろってのか?野郎とラブラブを目指せってか?」

「安心しなさい。このゲームは全年齢指定です。」

「それでもさ……」

「そういうシーンは暗転になるからクロームには見えません。」

「意味ねぇ!」


見えなくてもあるんじゃないか!クロームに対して全年齢指定なだけじゃん!俺にも適応しようよ、そこ!

はっきり言ってあのメンバー相手にグローブ無しで対抗できる自信は無い。ここは恐怖を耐えてバッドエンドを狙うしか無いのか。

そう考えかけて、はっとした。そういえば俺にはクロームの安全策があった。

雲雀さんですら服を破けなかったのだ。適応外の白蘭さえ気をつければなんとかなるかも。


「スペードはあんなだから大丈夫そうだし……」

「綱吉くん、君が何を考えてるのかは大体分かるんですが多分ゲーム攻略に入ったら効きませんよ。」

「なんでだよ。」

「『同意なら邪魔しない』とクロームが。キャライベント入ったら多分、本命認定されます。あの子に。」

「妨害大歓迎だけど!?」


どうあっても俺をそっちの人にしたいの、クローム……夢とはいえそれはちょっと、いやかなり嫌だ。次から相手の顔まともに見れないよ。

しかしゲーム終わらせないと夢から出られない。クローム自体は捕まらないし、骸にもどうにも出来ない。

腕を組んでううむと唸る。何かないか、何か……出来たら恋愛エンドはやりたくない。


「やっぱりバッドエンドしか無いのかな……」

「おや。バッド狙いだと思ってましたが。」

「やだよ、夢とはいえ殺されるエンドなんて。」

「ん?いえ、ありますよ。恋愛にならずに殺害されないバッドエンド。」

「あるの!?ってかそれバッドじゃなくないか?」

「疑似恋愛求めてゲーム始めて何も起こらないなんて乙女にとってはバッドなんでしょう。」

「なるほど。」


納得した。確かに。

骸は攻略本の内容を全て覚えているらしく、その救いのバッドエンドの行き方を細かく教えてくれた。

俺にもようやく希望の光が見えてきた……まだ先は長いけど。この長すぎる悪夢を終わらせるにはゲームをするしかない。

国を一望出来る丘に立って下を見下ろす。まずは、滞在地だ。そこを決めるところから始めないと。


「どこを選んでも希望のエンドには到達できます。しかし気をつけてください。逆も然りです。これは超分岐多発の恋愛ゲーム。どこから誰の攻略に入ってもおかしくない。
それと君の生活かかってますしあと何より本物のゲームと違って攻略対象がアクティブですんでよく考えて選ぶのがいいでしょう。」

「うん。」


ハートの城でそれは痛感した。あそこは遠慮したい。

でも帽子屋もディーノさんたちが怖い。滞在したらまず城とは違う意味での身の安全が保障されないし時計塔はダメって言われたし。シャマルには歓迎されないだろうけど遊園地が一番妥当かなぁ。


「あ、でもGの美術館のが安心かも。」

「言い忘れてましたが。」

「なに?」

「君がこのワンダーワールドで会った中で攻略対象外なのはドクターとルッスーリアだけですから。」

「え。」


俺の後ろに立つ骸を振り返る。にっこりと笑う相手を呆然と見上げる。

ってことは、Gもだけどスペードも……スクアーロも骸もそうってことになるんじゃ。背筋を嫌な汗が伝う。


「あんまり信じすぎると後悔しますから。」

「え、じゃあ今までの話……」

「嘘ではありませんよ。救いのエンドは存在します。」


にや、と笑う骸。なんか途端に意地悪げになる。

さっきの攻略法、全部本当って訳ではないらしい。「信じすぎるな」ってのは確かに大袈裟じゃないのかも。

すっかり大人の雰囲気に呑まれて忘れかけてたけど骸は実際かなり人が悪いし意地悪なことがある。


「夢とはいえ他の男とくっつかれるのは面白く無いので今は協力しますが。」

「お前怖い。」


本音出た、本音。だよな、骸が純粋な善意で動く訳ないよな。

それにクロームは骸贔屓だし一番警戒すべき相手かも。結局信じられるのは自分だけだ。

ふ、と短く息を吐き出してもう一度丘から下を見下ろす。

左側にあるのはハートの城領。手前側にある帽子屋領。右側にある大きな遊園地領。中心部に聳える時計塔。

それらの領の間に広がる森は時たまサーカスのテントや他の国にも通じるらしい。


「よし。」


ぱんと手を打ってから頬を二回叩く。覚悟は決めた。あそこにしよう。


「決まりましたか。」

「うん。俺の滞在地は……――」








END





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