第一話









突然、それはやってきた。


「!!」

「骸様?」

「骸さん!?」


全身の血管に氷を流されたような不快感。

思わず本を取り落とした。ぐらりと体が揺らぐ。


「…なんでもありません。」

「顔色が良くないようですが。」

「疲れたのでしょう。今日は早退します。」

「…承知しました。」


怪訝そうな顔をするも何も聞かない千種。

あれのそういう聡さが気に入っているのだ。

心配げな顔のクロームの頭を撫で教室を後にする。

今は春の日差しが心地良い時期なのだが外にでても相変わらずこの悪寒はやまない。


「……嫌な、気配を感じますね。」


不快だ。たまらなく。

この感覚は幼少の頃によく襲われた。

右目を移植されて以来収まっていたが…今になって何故。


* * * *


「沢田〜、知ってるか?」


朝教室に入るとクラスで噂好きと有名な男子に手招きされた。

全く好きだよな〜…


「何?」

「転校生だよ、転校生!こないだ3年に来た!」


なんだ、そのことか。それなら俺も知ってる。


「ああ…なんか凄い美人なんだって?」

「いや、それもなんだけど!すげぇぜ、今朝校門前で雲雀さんと真っ向、正面激突したんだ!」

「ほぇ!?」


あの雲雀さんと…?

な、何がどうなってそうなったんだ!?凄っ!!


「ちっす。」

「おはよ、山本。」


ぽんと肩をたたかれていつもの挨拶を交わす。


「山本、知ってるか、噂の転校生!」

「あ〜、見たぜ。朝雲雀とやり合ってんの。」

「うわ、本当に戦ってたんだ…あの雲雀さんと渡り合うなんて…」

「ちょっ、沢田!!いる!?」


女子の呼び声に慌てて立ち上がる。

声の方を見ると廊下に立ち苛立たしげに手招きする怖い顔の集団。

…行きたくない雰囲気なんですが。

尻込みしてると山本に腕を掴まれた。ニカッと笑うのが眩しい。


「俺も行くから心配すんなって。」


うあああ、山本ぉ〜!

ほんと、いい奴!!俺の親友最高!!

俺は腕を引かれるまま怖い顔の集団に近づいた。

彼女らは山本も来たことで少し雰囲気が柔らかくなったもののやっぱなんか怒ってるみたい。


「えと…何?」

「これ。」

「?」

「渡して欲しいって言われたのよ。」


女子に差し出されたのは淡い緑の封筒。

俺が両手で受け取ると彼女らはずずいと身を乗り出してきた。


「言っとくけどそれはそういう意味の手紙じゃないんだからね!」

「先輩があんたなんか相手にするわけ無いんだから!!」

「ダメツナ!あんた二ノ宮様になんか無礼なことしたら承知しないわよ!」

「は…はいっ」


………なんで俺責められてんの。

彼女らはまだまだ何か言いたかったようだがちらちらと山本を見て頬を染めるとそのまま踵を返した。

最後の一人が「すっぽかしたらどうなるか分かってるんでしょうね。」と囁く。


…何の話!?


「何渡されたんだ?」

「さあ…」


ガサガサと小さな封筒を開ける。白いレースのような縁取りの便箋が一枚、入っている。

…まさか、ラブレター…


「はないな…」

「ん?」

「や、こっちの話。」


カサリと紙を開く。

…あれ、この香り…どこかで…

どこで嗅いだのか。少し気になったが今は手紙だ。


『沢田綱吉くんへ。

君の知人について聞きたいことがあります。

放課後、音楽室に来てください。

できたら一人で。友達は連れてこないで。

そんなに時間は取らせません。


待っています。』



流れるように書かれた綺麗な文字。なんか、筆で書いたみたいなそういう綺麗さだ。

最後に『二ノ宮』と書かれている。

誰…?


「知人?だれだ?」

「さあ…この二ノ宮って人も誰だか。」

「それ転校生の名前ッスよ。」


脇から飛んできた声に首を巡らせれば獄寺くん。なんだかとっても不機嫌…?

でも俺が彼に向き直るといつもの笑みに戻る。


「おはようございます!」

「おはよ。ね、なんで転校生の名前知ってるの?」


年上はみんな敵という彼は他人にあまり関心が無いはずなのに。

…俺が絡めば別なんだけど。


「朝校門前で雲雀がそう言ってたんで。

全く非常識な奴らッスよ、朝から喧嘩なんかしやがって。

人が気持ちよく寝てるってのに。」

「なんでわざわざ学校来て二度寝してんの君は。よく雲雀さんに見つからなかったね…」

「あ、屋上にいたんで。」


そんなとこから校門の声が聞こえるの…君は鉄腕ア〇ムか…


「んで?どうすんだ、ツナ。」

「う〜ん…先輩の呼び出しだし…一応行くよ。ヤバそうな雰囲気だったら逃げる。」

「ご安心を。俺も行きますよ!」

「や…一人でって言われたし。」

「そんなことを……ん?」


俺の肩を掴んでガクガク揺らしていた獄寺くんが動きを止めた。じぃっと俺を見ている。

なんだ?

疑問に思っていると髪に顔を近づけてきた。


「………10代目、香か何か付けてます?」

「ふえ?」

「や…違うな。いつもの香りだ。」

「何やってんだ?」


なんですか、いつもの匂いって。俺なんも付けてないよ。

獄寺くんは俺の手元を見て眉をしかめる。

ガッと俺の手を掴むと自分の口元に引き寄
せる。


「ご、獄寺くん…!?」

「………………これだ。」

「手紙?それがどうかしたの?」

「分かりませんか、10代目。」


獄寺くんは真剣な顔で俺の目を覗き込む。

そこから感じられるのは静かな怒りの感情。


「この香り。これはヤツが…骸が付けていたのと同じものなんです。」









続く…





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