第二話









「も〜!獄寺くんったらしつこい!」


彼を説得するのにかなり時間を使ってしまった。

先輩待ってるかなぁ…怒ってないといいんだけど。

廊下を走る。風紀委員に見つかったら怒られるけど…人待たせてるし今は見逃して欲しい。

にしても。

山本も獄寺くんも心配してくれるのは嬉しいけど…大袈裟だよ。

骸は相変わらずよくわかんないヤツだけど初めて会ったときの凶々しい感じ無くなったし。

それに。

…笑っちゃ悪いけどあいつあんなクールな顔して縫いぐるみとか好きなんだよ!?

クロームに聞いちゃった。

もうこれ知ったらイメージ総崩れだよね。
きっと山本が知ったら一緒に意外だよなって笑ってくれる。

獄寺くんはまだ骸のこと許せないかもしれないけれど。

でも少しづつ変わっていってくれたら、いいな。


着いた、音楽室!

重い防音の二枚扉を押し開ける。


「すいません、せんぱ…」


…………………………


ありゃ?


「こんにちは。沢田綱吉くん。」

「こ…んにちは?」


思わず語尾が疑問系になってしまった。

二ノ宮先輩は窓辺に立っていた。逆光で顔は見えないけど。


…頭部のシルエットがとーっても見覚えあるんですが。後頭部のツンツンとか。

でも声は違う…別人?


「突然呼び出してすみません。驚いたでしょう?」

「!!」


先輩がカーテンを引いた事でその姿が見えるようになる。

驚いて開いた唇から勝手に相手の名がこぼれ落ちた。


「骸…!?」

「いいえ。違います。」


先輩は不快気に眉を寄せる。その顔までそっくりそのまま骸だ。

でも落ち着いてみれば髪の毛茶色いし、襟足長いし…目は両方青いし…

それに、なんだか全体的に骸より柔らかい感じ…

でも今は怒ってる〜!

俺は慌てて頭を下げた。


「ご、ごめんなさい!俺が知ってるヤツに似てたから!」

「いえ、僕の方こそすみません。ただあの男と似ていると言われると少し…ね。」

「ほんとごめんなさい!」


謝ったらまた元の表情に戻った。

…なんか見た目はホストっぽいけど爽やかな感じの人だ。

こうやって落ち着いてみると顔の造作も背丈も同じ筈なのに全然骸と違う。

雰囲気?表情?なんだろ、とにかく違うんだ。

…ってあれ。「あの男」って事は骸知ってるのかな…?親戚?兄弟?でも骸に血縁なんて…


「初めまして。二ノ宮 命(みこと)といいます。」

「沢田綱吉ですっ。」

「知ってます。」

「ふえっ。」


間の抜けた声を出したらくすくすと笑われた。


「あの、俺に聞きたいことって…」

「ん?ああ。それね…本当は君を呼び出すただの口実だったんですけど…」


先輩は俺の近くにまで歩いてくるとぽふぽふと俺の頭を軽く叩く。

そうして不思議そうに首を傾げると俺の頬を両手で挟んで顔を上向ける。

…身長差あるから首痛いです。


「ん〜…おかしいですね…」

「何がですかっ」


俺的には今の状況がおかしいですよっ!!


「君、男の子ですよね、確かに。」

「生まれた時から13年間ずっと男やってますが。」

「ですよねぇ。う〜ん…」

「わきゃっ!」


突然抱き締められた。

いや、驚く。ほんと驚いた。

でも!でもそんなことより…!!


「ん〜。初めてですよ、こんな事。」


俺も初めてですよっっ!!


俺は解放されるとフラフラとその場に崩れ落ちる。二ノ宮先輩はそれを腕を掴んで支えてくれた。


「おや、真っ赤ですね。」

「に、二ノ宮…先輩…」

「はい?」

「あの…先輩ってもしかして…」


俺が恐る恐る尋ねると先輩はそれはそれは綺麗な笑顔を返してくれた。






んな…マジ、ですか…!?!!


* * * *


「…………」


体調最っ悪ですよ…この一週間動くのも億劫だ…

僕はベッドからどうにか起きあがると一人掛け用のソファに移動した。

学校はどうでもいいですが流石に引きこもり続けると飽きてくる。

千種たちも異変に気付いているだろう、何も説明する気はないが。


「あれが…近くにいる時のようだ…」


もう生涯二度と思い出すことはないと思っていたのに。

ああ、それにしても気分が悪い。どうしたものか。


「骸様。」


ああ…クロームが呼んでいる。顔を傾けてそちらを見やる。


「骸様、大丈夫?」

「…平気ですよ。昔はよくなりましたから。どうしました?」

「ボスが来てるの。でも、帰ってもらった方がいい?」

「…いいえ。ここに連れてきなさい。」


この時。何故か不思議と思ったのだ。

この体調の悪さを彼なら治せると。

クロームが駆けてゆく。程なくして軽い足音が2つ。

音が近づくにつれて少し身が軽くなっていく気がする。


「骸!?大丈夫なのか!?」

「あまり…珍しいですね、君が来るなんて。」

「いつもそっちから来るから…ってうわ、熱あんじゃん!」


彼が僕に触れた事で少し寒気が薄らいだ。

やはり気のせいではないようだ。

わたわたと看病しようとしているボンゴレの腕をひっつかみその細い体を引き寄せる。


「あっ…!」

「少し、黙っててください。」


腕の中に閉じ込めて抱きしめる。

ずっと止まなかった耳なりも全身を包んでいた倦怠感もあっと言う間に立ち消えた。


「はあ…」

「骸様?」

「大丈夫です。全く君が特効薬だったとは。」

「何の話だよ!」


解放してやれば真っ赤な顔の沢田綱吉。

初ですねぇ…


「ったく命さんといいお前といい…なんなんだよ…」

「…みこ、と…」


何故。

何故君がその名を。

僕はボンゴレの両腕を掴み揺さぶる。

まさか…まさか。


「ボンゴレ、あれに会ったのか…!?あいつが…いるのか!?日本に!」

「う、うん。一週間前に転校してきて…」


…なんてことだ!

まさかそんな近くにいるとは!


「骸?」

「あれに、僕の居場所を言いましたか?」

「…聞かれたけど。なんか言ったらいけない気がしたから。」

「ふ…こんなところで超直感に救われるとは。」

「骸、なんでそんなに悲しい顔するんだ…?お前命さんとどういう関係なんだよ!」


悲しい?

そんな顔を僕はしていただろうか。


「…もう大体察しはついているんじゃないですか?」

「…………命さんと、お前は…」

「そうですよ。あれは僕と同じ日に生まれた























双子の、姉ですよ。」









続く…





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