第三話 「昔話をしましょうか。」 立ち尽くすボンゴレを椅子に座らせる。 クロームは心得たもので僕がそう言うと静かに部屋を出ていく。 彼らにはあの過去を知られたくない。 「骸、お前双子って…」 「まず、質問の前に僕の話を聞いてください。」 * * * * 僕は日本人ととある国のハーフです。 イタリアとは全く関係無いのです。どこの国かは聞かないでください。 僕らはそのある国の、ある神懸かりな…巫女や神事に強く繋がりのある一族に産まれました。 母が日本人だったのですが彼女はたまたま霊力が強かったのを利用されただけだったらしく僕らを産んで直ぐに亡くなっています。 産まれた時に記憶があるという人間がいるでしょう?僕らがそれでした。 だから僕は全て覚えているのです。 僕らはその一族直系の唯一の子孫でした。 なんでも力が強すぎて子どもがなかなか授からないのだとか。 しかし直系の子孫、次期当主となるのは一人だけ。二人もいらない。 だから彼らは選んだ。 崇める神と同じ女であるあちらを。 僕はいらない存在となった。 それでも直ぐには殺されなかった。 理由は強力な霊力。 彼女と僕は全く同じだけの力を有していた。 彼らはその力を次期当主に与えたかった。 僕はその儀式が行われるまでの生命を保証された。 5年。 僕らが5歳を迎えるその日に僕は心臓を彼女に捧げなければいけない。 僕は贄として丁重に屋敷の奥に監禁されて育った。 彼女は日本人である母を意識してか「命」と言う名を授けられた。 僕には名はなかった。 よく、「六道 骸」という名を偽名だという人間がいますがとんでもない。 これは贄でも研究番号でもなく僕という存在を表す紛れもない唯一の名です。 話が逸れました。 僕は彼女と、彼女も僕とは力の波長が合わずよく体調を崩しました。 命は光。僕は闇。無理もありません。 しかしだからこそ一族は僕の力が欲しかった。 光と闇を取り込む混沌。 それこそが彼らが崇める女神の象徴であったから。 だが彼らは失念していた。 君は分かっていると思いますがこの六道骸がそんなところで大人しく死を待つとでも? 4歳を迎えて半年が過ぎた頃、僕は屋敷を抜け出した。 まあその後イタリアでマフィアの子供狩りに合ってしまうわけですが。 情けないことにね。 しかしその後も彼女とは7歳になるまで繋がっていた。 テレパシーとでも言うのでしょうか。 夢でお互いが何をしているのか、何を思っているのかが分かるのです。 彼らは死に物狂いで僕を探していた。 多分、今も諦めていない。 命は年を重ねるに連れ異性を異様に嫌うようになった。 処女である女神の性をそのまま映したかのように。 そうして繋がりが切れる間近には僕に対する殺意が色濃くなっていた。 自分と全く同じ「男」が存在することが彼女には許せないようだった。 僕がマフィアを憎むのと同じように彼女は僕を憎みこの心臓を欲しているのだ。 * * * * 「だから僕は実は天涯孤独な訳ではないのです。」 「そんな…!!」 混乱してますね。そういう顔だ。 僕も二度と関わる事はないと思っていたが…連中の執着は並みではないらしい。 「それにしても僕には不思議なことがあります。」 「何…?」 「君が無傷でここにいることです。」 恐らく、僕は今ボンゴレの力に守られている。 だから彼女はここまで近づけてもこれ以上僕を探ることが出来ない。 「なので多分今日君に接触したのは殺害が目的だったのではないかと…」 さあっと青くなるボンゴレ。 まあ、今の君なら死ぬことは無いと思いますけど。 それとあともう一つ。 「君さっき命に抱きつかれたって言ってましたよね?」 「うん…それで女の人って分かったんだけど。」 「妙です。」 「?」 「あれが男の装いをしているのは信仰する神を真似ているからです。 そして同じように異性を嫌っている。触れるなんてとても。」 「…そうなの?」 「幼少の頃何気なく触れた男を惨殺してますよ、あの女。」 「ひぃっ…!!」 本当に妙だ。 ……………ん? 「ボンゴレ。」 「ん?」 「ちょっと失礼。」 「へ?」 ブチブチッ!! 「わきゃ〜っ!!!!」 ブレザーとYシャツを力任せに開く。 何か、感じると思ったら…!! 「…沢田綱吉。」 「な、何?」 「君もどうやら贄に選ばれてしまったようです。」 「ふえ!?」 トン、と心臓の上に指を這わせる。 百合の形をした精巧すぎる銀色の痣。 それが彼の胸に浮かび上がる。 「百合は女神の寵愛を示す。今一族の崇める神は当主。神は彼女自身。つまりこれは所有印です。」 「しょ…」 「『貴方は私の物。未来永劫逃がさない』、そういう証です。」 「…つまり。」 「君、あいつに伴侶に撰ばれたんですよ。もう逃げられない。」 続く… |