第一話






何が悪いと言えば彼の運というかなんというか…

本当にタイミングが最悪だった。



アルコバレーノは沢田一家と旅行へ。

刀の彼は祖父の法事に父親の実家へ。更にそのまま部活の合宿に合流。

その留守に襲ってきた刺客からボンゴレを庇い爆弾少年は入院中。


沢田綱吉は一人きりだった。

しかし、刺客の心配はいらなかった。

いくら仮とはいえまだ彼の側には雲がいる。

守護者としてではなくても彼は街の秩序を名乗っているのだ、不審者を放っておく筈がない。

不良?いいや。その心配もしていない。

いくら彼が普段のままと言ってもいくつもの試練を乗り越えたのだ。

常人になんとかできるとは思えない。

それな今はあの丸薬がある。

この間の刺客も言ってしまえば彼らの敵ではなかった。

あれは卑怯な手を使い一般人を巻き込もうとしたので獄寺隼人が怪我をしてまで倒さなくてはいけなくなっただけだ。



そう、天敵とも言える存在はそれではない。

今警戒しなければならないのは…




「って止めなさい!!」

「骸!骸ぉ!」


壁に縫い止められてじわりと大きな目に水滴が浮かんでいる。

君もすぐに泣くんじゃない!!だからそいつが喜ぶんですよ!!

そう思っている側からそれはそれは楽しそうな顔をした奴がボンゴレの首にかぶりついた。


「やだやだやだやだ!!うわ〜ん!骸!!助けて〜!!」

「小さい生き物がもがく姿っていいよね。」

「僕に同意を求めないでください。ボンゴレを離しなさい!」


雲雀恭弥。ボンゴレを守護する雲、の筈…
それが今や沢田綱吉にとっての天敵と化した。

僕は幻覚の蛇を雲雀に放つ。奴が飛び退いた隙にボンゴレを背後に隠す。


「ふぇ…」

「ったく油断の隙もない…」

「ふ〜ん、随分懐いたじゃない。どうやって慣らしたの?」

「あなたのおかげですよっ!」


僕にしがみつく沢田綱吉を面白くなさそうに見てそういう雲雀に嫌みを込めて返す。

一人きりで虐められているのを庇ってやれば懐かない訳がない。


「まあいいや。小動物が駄目なら君を咬み殺す。」

「は!できるものならばね!!」


* * * *


事の起こりは三日前。

ボンゴレの近くにいた最後の砦が入院した次の日だった。

アルコバレーノから「沢田綱吉の身辺警護」を命じられていた僕は並盛にいた。

遠くから見張るだけではいざという時動きにくい。僕は並盛中にしばらく潜入することにしたのだ。


「…という訳ですから今日からしばらくよろしく、沢田綱吉。」

「う…は、はい。」

「…なんですかじろじろと。」

「いや、ごめん。でもなんか…骸じゃないみたい…」


そういう彼の視線の先は僕の頭頂部。

房をなくしいつもの分け目も真ん中で一本の筋にしている。

ピアスはもちろん全て外し穴も塞いだ。

眼鏡の下の右目も幻覚で左と同じ青にしている。

そして纏うのは黒曜ではなく並盛の制服。

僕も自分じゃないようで嫌ですよ。

しかしこうしないと並盛中では浮きすぎる。

自称秩序のお陰で服装は徹底されていますからね。

一匹例外がいますがあれはボンゴレ以外の言うことを聞くとは思えませんし。


「変ですか?」

「へ?いつもが変だけど。」


…言うじゃないですか。


「かっこいいな〜と思って。」

「ほう。」

「ああ、でも。」


クスッと笑って彼は僕を見上げる。


「やっぱり、いつものが似合うや。それにあっちのも悪くないよ。」


そのままスタスタ歩いていく背中を見送る。

…不覚にも今のはきた。

顔が紅潮するのが分かる。そういわれるのは悪い気がしない。

僕は熱が引くのを待って小柄な背中を追いかけた。


「そういえばうちにくるのはいいけどどういう設定?転校生?」

「いえ。目立つのは得策ではないのでずっといたことにします。

本来は君の一つ上ですが離れては意味がない。獄寺隼人の席を借りましょう。」

「分かった。って骸、あとも一つの問題って解決してる?」

「問題?」

「風紀委員長様の許可は得ているのかと聞いているのですよ…」

「ああ、忘れてました…」


そういえばそうだった。

すっかり失念していたが奴をどうにか納得させなければ顔を会わせる度デスマッチになってしまう。

…だからといってどうやって納得させる、いやそれ以前に会話しろというのか。


「………………………幻覚で見えなくしておけばいいんじゃないですか。」

「アバウト過ぎだぞ、お前。いいけどなら校門前から消しとけよ。遅刻の取り締まりで今日いるぞ。」

「はいはい。」


朝から…不良の癖に。

いや、違うか。制裁と称して一般生徒を暴行するのはやっぱり不良だからか。

いやな秩序だ。


そうして歩いていると校門が見えてきた。

ここからでも見える学ラン軍団。


本当にいる。


僕ら――彼らの目には沢田綱吉一人きりだが――が校門を潜ると黒い集団から一番小柄な男が歩み寄ってきた。


「沢田綱吉。」

「はいっっ!?」

「今日は遅刻せずに来たね。」

「う…」


…君遅刻常習犯なんですか?


「ところで沢田。君今一人なんだって?」

「え?」

「野球部の彼からそう電話があったよ。今君が一人きりだから守ってくれって。」

「や、山本…」


余計なことを…!!

そう思っているのは明白だ。僕自身もそう思う。


「というわけだから今から君ちょっと応接室おいで。」

「へ…?」

「早くしなよ。」


そういうと雲雀恭弥はボンゴレに是とも否とも言わせずさっさと踵を返す。

その後を追いかけようとするボンゴレを慌てて引き止める。


「ちょ、待ちなさい!」

「あでで!」

「行くつもりですか?」

「まあ、なんか用事あるみたいだし…骸先に教室行ってて。クラスは知ってるだろ。」

「まあ…」

「大丈夫、すぐ戻るから!」


…この時君を一人にしたのがそもそもの間違いでした。








続く…