第二話






「……」


戻って来ない。何をしてるんだ、一体。

10分経過したあたりで僕は立ち上がった。

向かうは応接室。

正直こうなるような気はしていた。

雲雀恭弥はかなりボンゴレを気に入っている。

おそらく、玩具の意味で。

あの感じは一人きりなのをいいことに守る代わりに遊ぶ気だ。

廊下を曲がると学ラン軍団。見張りか。

あまり事は荒立てたくはないな…幻覚を見せて姿を消す。

まああれでも守護者なわけだし危害は加えられはしないだろう。

それに少し雲雀に揉まれた方が彼の特訓にもなる筈だ。




…と思っていたのだが。



がちゃり。


「……………………」


予想外の事態に僕は幻術の霧を出すのも忘れ固まった。


「あれ、君。」

「ん〜!!んん〜!!!!」


ネクタイで猿轡をされ僕が入ってきた事にすら気付かないほどじたばたと暴れるボンゴレ。

その体にのし掛かって後ろ手にした腕と体を平然とした顔で縛り付けている男。


「………………何してんだあぁーっ!!!!」


槍を取り出し自称秩序に振り下ろす。

ひょいと交わされた隙に沢田綱吉の細い体を抱え上げる。


「無事ですか、ボンゴレ!」


猿轡をはずしてやる。僕を見て安堵したのかじわじわと涙目になっていく。

…なんだか臆病な子犬みたいですね。ポメラニアン?


「ふ、ふぇ…骸…もう、だ、駄目かと思った〜…」

「…一体何があったらこんな事態になるのですか、君は。」

「だって、必死に抵抗したけど…っ雲雀さん強くてぇ…グローブ投げられるし、鞭取られるし…」


そういえば君縛ってるこれ前に見たことあるな…

解きながらそう思っていると「ちょっと」という声がした。


「なんで君がここにいんの。髪まともだし。なんの仮装?」

「ボンゴレの護衛ですよ…服装違反は君がうるさそうですから。それよりこれはどういった趣向です?」


鞭を解いてやるとボンゴレは慌てて僕の背後に隠れる。

雲雀はそれを薄ら笑いを浮かべて横目で追う。

…僕が言うのもなんだが気味が悪い、この男。


「…美味しそう。」

「は?」

「護衛?僕がいるのにかい?いらないだろう、君帰ったら?」


雲雀は馬鹿にしたように顎で扉を指す。

しかしボンゴレがしっかと僕の背中に張り付いてブレザーを離そうとしない。

首だけ巡らせれば必死に首を横に振っている。

雲雀は怯える彼を細めた目で見据え手を伸ばす。


「綱吉。こっちにおいで。」

「っ!」

「今話しているのは僕だ。何をしていたのか聞いている。」

「…………」


ますます恐怖で青ざめるボンゴレを雲雀の目から隠してやる。

雲雀は不愉快そうに舌打ちするとどかりとソファに腰を落とした。


「あ〜あ。全くやっと来た機会だってのにとんだ邪魔だ。仔兎を狩って遊べると思ったのに。」

「っ!」

「……ボンゴレ、あまり強く掴むと皺が…」


振り返ってはたと気付いた。

彼のシャツはボタンを2つ残して全て無くなっていた。隙間から見える肌に…


「!」

「わ、何!?」


シャツを開く。腹にくっきり残る青黒い太い線…トンファーの、跡?


「何故、こんな跡が…」

「抵抗するからさ。」

「殴ったのか!?守護者であるものがこの子を!」

「……ああ、なる程。だから断ったわけか。」

「?」

「守る代わりに僕といろと言ったらその子は骸がいるから大丈夫だと言ったんだ。

生意気なこと言うから少しいじめてやろうとしたんだけど…」


雲雀が自身の頬を撫でる。少し赤い。

…一発入れたのか?やるじゃないですか、沢田綱吉。

しかしそれが原因で雲雀に反撃を喰らったのか…


「とんだ守護者ですね。」

「その子を渡せ、六道。お前はいらない。僕だけで充分だ。」

「しかしボンゴレは行きたくない様ですよ。

第一、守るべきものに暴力を奮うような男に彼は渡せません。

君の場合それ以上の危険性がありますし、ね…」


震えの止まらない小さな体にブレザーをかけてやる。

もっと早く来れば良かったか…まさかこの男がこの子をそういった目で見ていたとは。


「しばらく僕が彼に付きます。なに、ずっとではありません。危険性がないと判断すれば帰りますよ。」

「…そう。好きにすれば?」


つまらなそうに雲雀は顔を背ける。

視線がずれたことでやっと沢田綱吉の肩から力が抜けた。

早くここから離れた方がいいか…

彼の肩を庇うように抱え足早に扉を目指す。

ノブに手をかけた所で「沢田綱吉。」と声がかかる。


「また…ね。」


ぱたん。


* * * *


この日はその後何事もなく1日が終わった。

しかし。

その翌日からが大変だったのだ…








続く…





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