第三話 骸ってやつは本当に凄い。 あっという間に黒曜を征服したっていう手腕は伊達じゃない。 だって1日で馴染んでるしファンクラブ出来てるし… いくら記憶いじったっていってもこいつのは並じゃない。 このまま並盛の生徒会長も出来そうな人気ぶりだ。 つうか誰が目立ちたくないって?悪目立ちしすぎだ… これじゃすぐに雲雀さんにも見つかってたよ、きっと。 「むく…樺根。」 「外では骸で構いませんよ。で、なんです綱吉くん。」 流石に六道骸の名は有名すぎる。骸は樺根と名乗っていた。 周囲には獄寺くんと入れ替わったポジションになっているらしく、骸が四六時中俺と一緒にいても誰も気にしない。 だから昨日は帰りも家まで送ってもらい、今日も朝から一緒に登校していたのだ。 「骸ずっと俺に付いてくれてるけど…いいの?黒曜の生徒会長って聞いてたけど…」 「まあ、僕がいなくとも千種たちがいますし…今はそれより彼の方が気になります。」 骸がきつい目で前を見据える。 それを追って視線を飛ばせば校門に寄りかかる黒衣の麗人。背筋が凍る。 「!」 「…今日も風紀委員の立つ日なのですか?」 「ち、違う…」 かたかたと情けなく震える体を無視して歩く。 でも俺に気づいた雲雀さんが薄く笑うのを見てびくりと肩が跳ねてしまう。 ――分かった。なら…今、狩ろう。―― 昨日、同じ表情で言われたことを思い出す。 その言葉から雲雀さんは急に怖くなってもみくちゃの攻防が始まったのだ。 それまでは穏やかな雰囲気だったのに… 何が悪かったのか1日経った今でも俺には分からないままだ。 「ふむ…まあ、気にする事はありません。今日は僕も姿を隠していませんしね。」 「う、うん…」 分かっているけどやっぱり怖い… 昨日骸が来てくれなかったらどうなっていたのか。 舌なめずりして笑ったあの人の顔が離れない。 俺は無意識に骸の制服の端を掴んだ。 骸は気付いてたみたいだけど何も言わなかった。 校門まで来ると雲雀さんは身を起こしこちらに歩み寄る。 「やあ、沢田。樺根…だっけ?」 「ええ。おはようございます、委員長?」 「おはようございます…」 「ふうん。君、ちゃんと忠犬と同じで朝からこの子といるんだ。」 「いつ何時誰に襲われるとも分かりませんからね。」 怖くて顔が上げられない。 でも分かる。骸と話しててもあの黒瑪瑙はこちらを見ている。 俺は骸の斜め後ろに立って地面だけを視界に写す。 でも頭を優しく撫でられる感覚にその手の主を見上げてしまう。 「昨日はごめんね?驚かせちゃったね。今度はいじめたりしないからまたおいで。」 俺の髪を撫でて微笑む姿はとても優しい。 もう、怒ってないのかな? 「必ずおいでよ。君の忘れ物もあるし…ね。」 そうだ!手袋と鞭!! 忘れてた…雲雀さんに取られたままだった… グローブ無いと死ぬ気丸だけじゃ意味ないし…鞭は使うことあんま無いけどディーノさんに貰ったものだし。 あわわわわ…ど、どうしよ。 雲雀さんは最後にぽんぽんと俺の頭を軽く叩くと機嫌良さげに校舎に戻っていった。 …それだけ言うために居たのかな? 学ランが見えなくなってほっと息をつく俺に骸が怪訝そうに問いかける。 「忘れ物、ですか?何か大事なものならば僕が…」 「いや!いいって、急ぎじゃないし!」 素の骸と雲雀さんなんて会わせたら大事になるって! 昨日は大丈夫だったけど今日はどうなるか分かんないし。 「ならばいいですが。」 「うん、ありがとう。」 ――とは言ったものの。 「どーしよー…」 俺は階段の踊場で一人溜め息をついていた。 今は次の授業のために理科室へと移動中なのだが朝からずっとそのことで悩みっぱなしだ。 一人で行く度胸はないし、骸…に頼りたいけどでもなぁ…… あ〜!リボーンが居れば話早いのに! 「…君一人で何やってんですか。置いていきますよ?」 「あ〜!待って!」 先を歩いていた骸が手すりから身を乗り出して肩を竦めている。 その後ろにクラスの女子。 一緒に行動してくれるのは嬉しいんだけどこいつの周り取り巻き多くて居づらい。 今も樺根くん、樺根くんときゃぴきゃぴした声がしている。 獄寺くんより愛想いいから人が群がる群がる。 俺も周りにいる美形が一人二人なら「いいよな〜」と流せるけどこんなに多いと嘆きたくなってくる…つうか、うざい。 もう増えて欲しくない、マジで。 階段を上がりきる。理科室は廊下の端だ。 骸達はさっさと先を行くのでかなり距離が空いてしまった。 一緒に行くなら少しこっちのペースを考えてくれても * * * * 軽い。 荷物を抱え直して扉を蹴り開ける。 小さくて柔らかくてほわほわしてて…本当に美味しそう。 頬摺りすると小さく呻くのが子犬みたいだ。 目を閉じたままのこの子は更に幼く見えて可愛い。 でも目を見開いてふるふるってしてるのも好き。 可愛いものっていいよね。 無性に甘やかして可愛がってあげたくもなるし抱きしめて離したくなくなる。 「ん…んぅ…?」 どんな声で鳴いてくれるのか考えるだけでゾクゾクしちゃう。 さあ、目が覚めたら君はどうするのかな? 続く… |