第四話






カッと目を見開いた。


…良かった、不意打ちだから成功したか…

下を見下ろせばネクタイで腕を拘束されてシャツをはだけらた沢田綱吉。

怯えきって目を閉じ泣いている彼の頭を何度も撫でてやる。


「…もう大丈夫ですよ、ボンゴレ。綱吉くん。」

「ひっく…ふぇ…ひ、ばりさ…」

「彼なら眠って貰いました。」


彼はビクビクとしながら僕の顔を見つめる。

…いや正確には僕のじゃないが。

やがて違和感に気付いたのだろう。

両手を伸ばしすがりついてきた。


「っくろ…っ!!骸!!」

「はいはい。怖かったですね。」


憑依弾がまさかここで役に立つとは。

僕は雲雀恭弥の腕で小さな体を抱きしめてやる。

すんすん言っているのが子犬のよう。

全く、本当にポメラニアンみたいですね。

本当に僕の一つ下なんですか、君。


「…ところでここ何処ですか。」

「風紀委員の部屋…応接室だと骸が来るからって…」


見つからないと思ったら…応接室だけじゃないんですか、あの男の領域は。

全く呆れる。こんなとこにまで上等のソファがある。


「今から僕の体で迎えに行きます。それまでここにいなさい。」

「うん…」


ネクタイを解いてソファからボンゴレを立たせる。

外れていたフックとファスナーを直してやる。

そしてそこに横になり目を閉じる。

と、くいくいと服を引かれる感触。目を開ければ捨て犬のような顔のポメラニアン。


「はやく、来てね。」

「!!」


ガバリと身を起こす。

が、ボンゴレの姿はなく周りの風景が変わっている。


「…………」


衝撃で元の体に戻ってしまいました…未だ嘗て無い失態。

二度目の敗北感…天然小動物め。

僕は顔に熱が集中するのを誤魔化す為に窓から外に飛び出した。

あの部屋は確か3階のあの辺り…

地を蹴り飛び上がる。窓を開ければ驚いた顔の沢田綱吉。


「早っ。」

「真下でしたからね。」

「骸、早く行こう。なんか今にも起きそうなんだよ雲雀さん!呻いてるし!」

「ああ、それ大丈夫ですよ。ちょっと仕返しに悪夢見せてるだけなんで。」

「うわぁ…」


まあ、これに懲りるような人間なら楽なんですけど…無理でしょうね。


「…にしても君、すごい事になってますね…」


点々と付いている赤い跡。シャツで隠れるところはいいとしても首にもかなり…


…………………


なんでしょう。無性に腹立たしいんですが。


「何が?え、どこか破けてる?」

「いいえ。体です。」

「へ?」

「キスマーク凄いですけど。」

「ふぇ…?ほわーっ!!!!」


ガラスに写った体を見てボンゴレが叫ぶ。

…気付かなかったんですか。


「どどどどうしよ〜…」

「すぐに泣くな…」

「骸〜…」


ぐすぐす泣いてるのを見て思う。

本当に小動物のようだ。愛くるしくさえ感じる。


君、気付いてますか?

雲雀と僕の立場が逆になったかもしれないという事を。

認めたくないが彼と僕はとてもよく似ている。

君を外敵から、全てから守りたくもなるが同時に自分の事だけを見るように…取り返しのつかないことをしたくもなる。

雲雀が脅威になっていなければ、守る必要がなければきっと僕がそうなっていた。

そうしたら彼が身を張り君を守るのだろう。


「…消して、あげましょうか。」

「え…」

「幻覚で。それくらい簡単ですよ?」


少し芽生えた悪戯心。

笑って手を伸ばせば首を傾げる子犬のような君。


「骸?」


首筋に唇を押し付ける。そうして赤い跡を消すと次の跡へ。

ひくりと喉が震える。でも逃げない体に笑みが零れる。

調子に乗ってペロリと舐めてやれば小さな悲鳴が上がる。


「な、ななな何して!?」

「雲雀が君を美味しそうと言ってたじゃないですか。」

「試すなよ!」

「くふっ。」


見える場所の跡は全て消した。

…さて。こちらはどうしましょうか。


「綱吉くん。お腹にも胸にもキスマークありますけどどうします?」

「…体育、あるし…その…」

「はい?」

「着替え…っ!あるから消して!」


真っ赤になりながらそういうこの子に暖かな感情が起こる。

可愛い。

両腕を掴んで体をゆっくりと引き寄せる。

上から一つ一つ赤い跡を唇で辿る。

ぎゅっと目を閉じて震える姿はなんだかいけないことをしている気分にさせる。


「はい、終わりです。」


ちゅっと最後だけ音を立てて離すと彼は耳まで赤くしてうずくまってしまった。

おやおや。


「う〜!!」

「どうしました?真っ赤ですよ?」

「うるさい!!天然タラシ!!」


すっかり元気になったようだ。

僕はくしゃりと彼の髪を撫でると手を掴んで歩き出す。

この時間の授業はもう無理ですね。諦めますか。


「早退しようかとも思いましたが…大丈夫なようですね。」

「あの、骸!」

「なんですか?」

「あの、あ…ありがと…。」


それは、何に対する礼でしょうか?


「…どういたしまして」






























…といい感じになっていますがこれで終えてくれないのが雲雀恭弥だ…

僕の苦労はこれで終わりではなかった。


正直にいうならこの時無理矢理にでも綱吉くんを連れて早退するんでした…








続く…





←back■next→