第一話






母さん、父さん、今まで育ててくれてありがとう。

俺もうここまでのようです。

目の前にグルグルいいながら上機嫌に目を細める黒猫。

俺は部屋の角に追い詰められてもう震えるしかない。

ああ、次に生まれるときは食物連鎖の下の方じゃない生き物に…!!


「雲雀いい加減にしたらどうです。その子は君の餌じゃない。」

「駄目、食べたい。凄く美味しそう…」


たしたしと尾を揺らしながらのんびり寝そべる大きな黒い犬。

名前は骸って言うらしい。

その犬は俺を狙う猫が窘めても聞かないのを見ると一声吠えた。

と、同時にバタバタと走る足音。


「骸、何吠えて…って雲雀ぃ〜!!またお前か!!」


部屋に入ってきたのは銀髪の男の子。獄寺隼人って言って一応俺達の飼い主。

彼は慌てて走りよると俺を救い上げてくれた。


「大丈夫か?怪我無いか?」

「うん…」

「雲雀!!てめぇ、餌は充分やってんだろうが!!」

「生きてるのがいい。ネズミが好物なの知ってるでしょ。」

「なら外で捕ってきやがれ!!つうかこれはネズミじゃねぇ、ハムスターだ!!」

「同じ同じ。そうだ、ちょっとかじってみれば違いが判るかも。ほら、それ降ろしなよ、獄寺隼人。」

「アホか!!」


獄寺くんは優しい手つきで鳥かごみたいに天井から吊ってあるケージに俺を入れる。

ふあ〜…助かった…


「全く…君だって元は猫の癖に。」

「俺は育ちがいいからネズミなんか食ったことはねぇんだよ…」


動物と話してる彼、獄寺くんは実は人間ではない。

長生きした猫の妖怪?なんだっけ、猫又…だとかで今は人間世界に溶け込んで生活を送っているのだそうだ。

彼と話してる雲雀さんて猫も同様にただの猫ではないんだって。

今は猫の格好してるけど…なんか格が違うとかで獄寺くんより雲雀さんの方が偉いらしい。

あの寝てばっかの犬は…今日会ったばっかりで良く分かんないけどやっぱ只の犬じゃないんだろうな…

俺がじいっと見入ってると黒犬がのそりと起き上がる。


「君が動物を飼うなんて意外です。しかも小動物なんて。」

「うるせーな。」


ケージの隙間からひまわりの種が差し込まれる。俺は喜んでそれに飛びついた。

かしかしやってたらトローンとした顔の獄寺くん。


「…なんて顔してんですか。」

「可愛い生物ってのは見てるだけでいいんだよ。お前らに付き合って荒んだ心が癒やしを必要としてだな、」


長々と解説を始める獄寺くん。

そうなのだ。

俺はこの家で唯一の『ただの』ハムスターなのだ。彼に買われて昨日、この家に来た。

来て早々食われかけたりしたわけだが。


………今も下を黒猫がウロウロしてるよ〜!!


「確かに可愛いですね。でも美味しそうにしか見えてないのがいるみたいですが…」

「だからお前呼んだんだよ…俺いない間に綱吉が食われないよう見ててくれ…」

「まあいいでしょう。でも僕も…ですけど。」

「このサイズじゃ食い甲斐ねぇだろ。」

「そうですね。どっちかと言えば猫の方が食いでがあります。」

「だろうな。」

「何、やろうっての?」

「冗談…貴方なんか食べたら食中毒で死んでしまいますよ…」


雲雀さんが飛び上がったと思ったら俺のケージに…!!うわ〜ん、怖い〜!!

隙間から前足突っ込んできた〜!!わわわ!!爪、爪!!


「ふえええん!!怖いぃ〜!!やだやだ!!お店帰るぅ〜!!!!」

「やめろっつってんだろ!!綱吉がストレスで死んだらどうすんだ!!てめぇ、首輪で繋ぐぞ!?」

「噛むだけだから。甘噛み。」

「見え透いた嘘つくんじゃねえええぇ!!」

「…え、これ、僕が一週間ツッコミしなきゃいけないんですか。」








続く…





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