attention!



本編をお読みになる前にいくつか注意点をば。

まずまだ明かせませんが一人、主要人物で病む(?)キャラがいます。

そして捏造の前世ネタを含みます。
現世はともかく前世は酷い性格のキャラがいる…やも。

それからもうひとつ。

ちょい他CPの匂いがするかもしれません。
でも私、綱受け以外絶対駄目だから!!匂いだけ!描写しないしできないから!

以上が大丈夫な方は本編へどうぞ。



















零話










目が、覚める。

パチパチと瞬き、ようやくここが自室なことを思い出す。


……夢か。


変な夢。

夜中に自分がなんであんなところ…










…………………あれ。


どこにいたんだっけ?


……………………


「?」


今まで覚えてたのに…ど忘れしちゃったみたい。

なんかもやもやするけど、ただの夢…だよな??


「………着替えよ。」


夢って思い出せないもんだし。

気にするだけ無駄だよな。

まあ、なんだか楽しい夢、だったような気がするから惜しいけど。

俺はもそもそと布団から出て昨日脱いで椅子に掛けたままだった制服を手に取った。

いつもはリボーンがうるさいしちゃんとハンガーにかけるんだけど。

昨日はなんか疲れて…


「?」


ベッドからに降り立って気付いた。

はらはらと床に散る小さな花びらたち。

白い花弁を拾い上げる。

…桜かな?

花に詳しくなくてもそれくらいは分かる。

……なんでこんなに…チビたちの悪戯か?

ってか偽物…だよな?だって今夏…



「ツッく〜ん!いい加減起きないと遅刻するわよ〜!」

「あ、うん!起きてる起きてる!!」


もう、こんな時間だ。

このまま散らかしておくとリボーンがうるさいだろうけど、遅刻したら雲雀さんが怖い…

…帰ってからやろう。

あ〜あ…掃除面倒くさいなぁ…


* * * *








もう、遅い。

もう終わってしまった。



長い長い階段の先にポツンと立つ鳥居。

それを見上げ、ふと自嘲の笑みを浮かべる。


らしくない。

何を感傷的になっているのか。

そんな昔の事を今更…馬鹿らしい。


けれど、少しだけ湧いた心地良い懐かしさから階段に足をかける。

一歩一歩登りながら幼い時を過ごしたここでの日々を思い出す。

視界をはらはらと風にのり舞う花びら。

もうそんな時期だったのか…

この神社の桜は周りより大分早く花開く。

そういえば、あのときも桜が咲いていたな…


最後の段を上がり、久しい遊び場を見渡す。

……懐かしいな。

こうやって桜を見上げていると決まって…


「!」


どん、と腰に何かがぶつかる。

そう…こうやってあの子が僕に飛びついてきて…








まさか。








淡い期待が蘇る。

そんな…まさか。いや、もしそうなら…

相手の肩をつかみゆっくりと振り返る。



そこには――――











* * * *


「!!」


はっとして顔を上げる。


………よりによって校門前で立ったままうたた寝していたらしい。

僕としたことが…遅刻取り締まり中だっていうのに。

幸いにも予鈴前の校門には風紀委員以外の生徒はいない。

誰にも見られていなかったようだ。


「委員長、そろそろ。」

「うん。」


予鈴が鳴り響く。もう間に合わないからね、今から来るのは遅刻確定者だけだ。

校門の外に居た委員が門内に走り込んでいく。

草壁が片手を上げると僕を残して門が閉じられる。

一礼し去っていく委員と草壁を一瞥すると門柱に背を預ける。

あとは獲物がくるのを待つばかり、だ…


「ふう…」


…暑い。今日は涼しいかと思ったんだけど。

羽織っていた学ランを脱いで肩にかける。

空を見上げればどんよりと曇っている。

からりとした暑さならまだしもこの重たい湿気混じりの暑さ…

太陽が無いときくらい涼しくならないのかね、この国の気候は…

こめかみに浮かぶ汗を拭い校舎の時計を見上げる。


「…遅い…」


あの問題児三人衆の真ん中を今日は見ていない。

遅刻ならまだしもサボりだったら……… どうしてくれようか。


「ん…」


目の前にはらはらと白いものが落ちてきた。

無意識に手を伸ばしそれを捕まえる。

開いた手のひらに乗っていたのは…


「さく、ら…?」


* * * *


「ヤバッ…!」


遅刻確定じゃんか〜!!

弁当を学校指定の鞄に押し込み通学路をひた走る。

なんで二度寝しちゃったんだ、俺!?

確かに起きてたのに、気付いたらベッドの上でリボーンに銃を突きつけられていた。

しかもキッチリ制服に着替えて、だ。

寝起きでぼんやりしていた眼前にリボーンが時計を突きつけてきて、俺は絶叫して鞄を引っ付かみ家を飛び出してきた訳だ。


「ひ〜っ!!」


キーンコーンカーンコーン…


げ!予鈴!?

もう絶対風紀委員か雲雀さんがいる…いっそサボった方がいいんじゃなかろうか。


正直、雲雀さんだったら顔を合わせるのもちょっと憂鬱だし…


迷いながらも通学路を走り抜けて校門を目指す。

そうだ!

もし雲雀さんがいたら獄寺くんの言ってた「抜け穴」を使おう。


ズクン…


「?」


胸の真ん中に不意に走った違和感。

…なに?

スピードを緩めて胸に手を当ててみる。


「………」


なんとも無い…よな?

訝しみながらまた走り出す。角を曲がりグラウンドの金網が見えたあたりで速度を落とす。

そろそろ危ないかな…?

身を低くして並んで植えられた木の影に隠れて俺はそろりと校門前の様子を窺う。


「あ…」


いない…なんだ。

拍子抜けしてその場に立ち上がる。

珍しいなぁ…雲雀さんがいないにしても風紀委員の誰かがいると思ったのに。

そのまま正面に出ようとしてはっと足を止める。

…もしかするとどこかに隠れてて安心して姿を見せた遅刻者を襲う計画かも…

あの雲雀さんなら有り得ないことは無い気がする…

そろりそろりと警戒しながら校門に向かう。

いざとなったら方向転換して逃げる。

逃げ足の速さなら自信あるし。…自慢にならないけど。


「…あれ…」


校門前につくとちらちらと風に乗って白いものが降ってきた。

雪みたいだけど…あ、また…

いくつも降ってくる雪を拾い上げる。

やっぱり、今朝見たのと同じ花びらだ…校内から…?

閉じられた門の前に立って中を覗き込む。


「!」


桜。

満開の桜だ。

グランドとアスファルトの通路を囲むように植えられた桜の木々に散る寸前のような花が咲き誇っている。

もう衣替えも済んだこの時期に…


「まさか骸の幻覚…じゃないよな…」


鍵のかかっていない門は少し重かったけれど簡単に開いた。

木に近付いてみても骸がいる感じはしないし…やっぱり、本物っぽい。


「すごい…」


こんなに綺麗に咲いてるの、初めて見た。

風がそよぐ度に花吹雪が校庭に降る。

そっと幹に触れれば暖かい…それが心地よくて両手を広げて木を抱き締める。
















「君は桜が好きかい?」
















「!」



何時の間にか、後ろに雲雀さんが立っていた。

げ…っ!

トンファーが飛んでくるかと身構えたけれど雲雀さんは至極機嫌がいいらしい。

腕を組んだまま桜を見上げて微笑んでいる。


「ねぇ、桜は好き?」

「…好き、だと思いますけど…」


嫌いな人間の方が珍しいんじゃないかなぁ?

………あ、これもしかしてまた雲雀さんの我が儘で実現させたのかな?

あり得そう…っていうか、それ以外に思いつかないよ…


「今でも?」

「へ?」

「今でも好き?桜。」

「そりゃ……」


ズクン


「っ!?」


心臓を貫くような痛み。

胸を押さえて木にもたれ掛かる。

呼吸がつらい…!!なんで…?

ずるずると地面に座り込む。視界に黒い足が入った。

顔を上げれば笑ったまま俺を見下ろす雲雀さん。

前髪のせいで目元は見えなかった。ただつり上がった口元だけが見える。


「っは…はぁっ…ふ…」


苦しい。痛い…つらい。

胸を両手で押さえたまま、目の前の人を見上げる。

雲雀さんがゆっくりと腕を伸ばす。

白い手が降りてくる。

その手が








































「沢田綱吉!!」

「!」


鋭い声に名を呼ばれ目を開く。

目を開けば視界に入る緑の制服。そのまま顔を上げれば


「…む、くろ。」

「っ…はあ〜」


気が抜けたように息を吐き出し骸は不機嫌な顔で俺を睨みつけた。


「何故こんなところで寝ているんですか君は。」

「え?」


骸の後ろに広がるのは見慣れた天井ではなく、藍色の空。

ぱちくりと瞬き辺りを見渡す。

………あ、ここ…神社だ。

起き上がれば固い地面の上に寝ていたせいか体が痛んだ。

頬に生温い風があたる。

こっちが現実…てことは…今のが、夢?


「まったく紛らわしい…」

「?」

「そんなものを持っているから一瞬自殺かと…」


骸の視線の先、右手を見れば抜き身の小刀……――

突差に手を引っ込めれば小刀が地面を転がった。


「なに…これ…」

「さて…ね。それもですが君に聞きたい事があります。」


ぐっと骸に両肩を掴まれた。

怖いくらいに無表情な顔。


「君の体に傷は無かった。













これは一体誰の血なんですか?」

「…………」



月光を反射する刀身。

その銀を濡らす鮮血。






―――訳が分からない。

戸惑う俺の頭上で夢と同じく満開に狂い咲いた桜がさわさわとざわめいていた。








続く…





next→