第一話






「綱吉。」

「ひいいいい!?」


俺は飛び上がって驚いた拍子に机をたおしてしまった。

雲雀さん!?


「君霊感は強い方?」

「と、ととと突然なんですか!」


ビビった!!ビビった!!

いきなりなんなんだこの人!!心臓口から飛び出るかと思った!

俺がバクバクと激しい鼓動を繰り返す胸を押さえていると雲雀さんが片眉を跳ね上げてこちらを睨む。


「その態度は失礼じゃないの。人を化け物か何かのように。」

「びっくりしますよ!誰もいないと思ってるのに背後から声かけられたら!!」


そうなのだ。

俺は今、夜の学校にいて忘れ物の辞書を探していたところなのだ。

明日から夏休みなわけで当然誰もいないと思っていたら雲雀さんが残っていたらしい。

足音でもさせてくれればいいのに…ホント驚いた…


「で、綱吉。君霊感は強い?」

「そ…それなりに…」


超直感と関係あるのかそういう感は昔からある。

霊体験には事欠かない。

去年なんか幽霊にあっちの世界連れてかれそうになったし…


「それは良かった。」

「は?」

「映画の学校の怪談は全部見たかい?」

「まあ…」

「あれ意外に面白いよね。僕は2が気に入ってるよ。」

「はあ…」


つかつかと先に立って歩き出す雲雀さん。

俺は訳が分からないままその後を追いかける。

しかし教室を出た瞬間、ふと違和感を覚えた。

雲雀さんにじゃなく、その「扉」に。


「?」

「比較的に新しい学校には七不思議とか怪談とか無いんだけど並盛は結構そういうの多くてね。

もとの土地が良くなかったのかな。」

「ああ、墓場とか戦場とかですか?でもそういうのってよくある…」

「そう、よくある。まあ噂で終わりだよね、大体が。」

「はあ…って雲雀さん、今それ話題にするの止めてください…タイムリー過ぎます…」

「ああ、そうだったね。まあ仕方がない、人間怖いと口数が増えるから。」

「……………はい?」


口数増えてるのは俺じゃなくて雲雀さん…

そう思っていると雲雀さんがくるりと振り向いた。


「君、暗い中先に立って歩くのと背後気にしながら歩くのとどっちがマシ?」

「え!?えと…」


…………どっちも嫌だからお化け屋敷じゃ真ん中歩くけど…背中ぞくぞくする方が嫌かなぁ。

一番後ろだけはやだ。

そういうと雲雀さんは「ふ〜ん」と言いながらしげしげと俺を見つめる。


「…逆だね。」

「ふえ?」

「ならいい。君先に歩いて。僕が後ろ歩く。」

「はい!?なんでそうなるんですか!!」

「だって怖いじゃない。」

「雲雀さん怖いものあったんですか!」

「人の子だもん。」


そうだったんだ。


「学校の怪談見たんじゃないですか!?」

「あれそんな怖くないし。」


雲雀さんはがっしりと俺の両肩を掴み電車ごっこのような恰好を取る。

廊下をぐいぐいと押されながら進んでいく。

……何やってんだ、俺たち。


「雲雀さん、これどこ向かってるんですか?」

「取りあえず出れそうなところを探してるんだ。」

「…………職員玄関開いてましたけど。」


俺が言うと肩を押す力が弱まった。

後ろを振り向くときょとんとした顔の雲雀さん。


「……君もしかしてまだ気付いてない?」

「はい?」

「僕ら今閉じ込められてるんだよ。」

「へ?」


何言ってるんだ?

今日は見たいテレビがあるから早く帰らないと…

そう思いながら廊下から見える教室の時計を見る。


「!」


あれ?

…なんで時計の針が無いんだ…?

俺は携帯を取り出す。

「0:00」を表示してフリーズしてしまっていた。電波は圏外。

…なんで?

俺はゆっくりと雲雀さんを見上げた。


「校内見て回ったけど中にいる生きた人間は君と僕だけみたいだね。

君の教室行くまでにいろいろ遭遇しちゃったよ。」

「い、生きた人間って…」


ごくりと唾液を嚥下する。

ま、まさか…


「僕らは今身を持って学校の怪談を体験学習してるんだよ。

貴重な経験が出来て良かったね、綱吉。」

「いやあああああああぁぁ!!!!」


『まっさか〜』と流せない己の境遇を呪いたい!!


「試したんだけど外に通じる戸は開かないし窓もビクともしない。

割ろうとしてもだめだね。」

「な…なぜこんな事に。」

「さっき校内喫煙者相手に狩りしてたら勢いで裏の祠壊しちゃった。」


なんですと!?


「な、ななななななな!?」

「うん、なんか悪いもの封じてあったみたいだから大騒ぎだね。」

「他人事みたいにしてる場合ですかーっ!!」

「ごめんね。」

「謝ったーっっ!!」

「まあとにかくだ。そんなこんなで今に至るわけだよ。」

「なんかきれいにまとめられた…」

「とにかく怖いのもう嫌だから出口探して、綱吉。」


あなたのせいでしょうが!!

うう…なんで俺まで巻き込まれちゃったんだ…

俺はびったりとくっついた雲雀さんを引きずるようにして歩き出した。








続く…





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