第十一話






「うん、大分良くなってきたみたいだね。」

「カミコロスヨ!」

「お前なぁ…」


ちょこちょこと布団の上を跳ね回るヒバードを捕まえて籠にいれる。

まだ羽が全快したわけじゃないから飛ばせるわけにはいかないもん。

雲雀さんはつまらなそうに本を閉じた。


「飽きた。」

「え!もう読んじゃったんですか!?」

「違う、本飽きた。」

「…ゲームでもします?」

「運動でもいいよ。さあ、おいで綱吉。」

「病院です。」


きらきら笑顔で両腕を開く雲雀さんの腕を叩く。

安静の意味分かってますか、雲雀さん。


リアル学校の怪談から二週間が過ぎた。

俺は大した怪我はしてなかったけど腹の傷をぱっくり開いた雲雀さんはしばらく入院することになった。

俺は「暇」と病院から抜け出そうとばかりする雲雀さんのストッパーになるべく毎日お見舞いに来ている。


「ねえ、そう言えば昨日封印し直したんだよね。あれどうだったの?」

「問題無く終わったそうです。全部封印の下です。」


昨日、術師の人が来て草壁さん立ち会いの元、森の封印を頑丈にし直してくれたそうだ。

あの日『まだやることがある』って言って森の入り口に戻った雲雀さんが拾い上げた…

鎌の片割れとがっしりと逃げないように踏みつけていた悪霊の左腕。

悪霊の忘れ物も全てその時に封じてくれたらしい。


「カモフラージュの祠も頑丈なのにしてくれるそうです。」

「そう。これであの人も安心して眠れるんじゃない?」


雲雀さんがちらりと視線を流す先にあるのは古いアルバム。


「!見つかったんですか?」

「母がね。知っていたよ。」


厚いアルバムを丁寧に開く。

あった!

スーツ姿でピシッとした立ち姿。

間違いない。

あの夜一緒に居て何度も助けてくれた『先生』がそこにいた。


「本当に雲雀さんの親戚だったんですね…」

「雲雀夏奈子。大伯母にあたる。」


明るい中で見ればよく分かる。

顔は…それほど似てないけど雰囲気が雲雀さんそっくりだ。


「並盛中が好きで仕方なくて教師になったそうだよ。

でも赴任して3年目の夏に行方不明になった。

そうして並盛の怪談が五つから七つになった。」

「七つ…?」

「『窓に張り付く女教師』、『夜の校舎で起こる神隠し』さ。」

「それが…七つ目…」


悪霊が「どこでも出来る」って言ってたのはそういうことか。

思い出して背筋が凍る。

殺されて死体が出なければ俺もその七つ目に…

でも、それなら先生は…


「そう。被害者だったんだ。悪霊に殺された、ね。」

「なんで…」

「そりゃあいつが『雲雀家』を恨んでいるからさ。」


トン、と雲雀さんがアルバムを指で叩く。


「あの悪霊についての文献は無いから確かじゃないけどね。祖父が言っていたんだ。

並盛中の土地は昔うちのものだった事があるらしい。

当時その家にいた息子が血の魅力に取り付かれて夜な夜な人を殺していた。

それを知った家人が彼を殺害して森に埋めた。だけど奴の執念も強くてね。

一族に復讐するために悪霊になった。

だから封じを作って出れないようにした。

でも学校が出来たのは予想外だったのかも知れないけど。」

「それで、先生が…」

「最初で最後の被害者だね。」

「?」


最後?

俺が首を傾げていると雲雀さんがアルバムを立ててそれの上に肘を突く。


「あの人は並盛が好きだったんだよ?そして君は彼女が「ここにいる」と言って森の中で消えたと言ったね。」

「はい。」

「あの森のどこかにいるんだよ、雲雀夏奈子は。

行方不明になったんじゃない、彼女自身の意思で。

またあの悪霊が解き放たれた時の為に。」




――ここにいるよ、ずっと。あいつが消える日まで――




そういう意味だったんだ…


「なんたって君のこと知らせる為にあの人ここまで来たからね。」

「へ。」

「流石に僕も寿命が縮んだよ。窓に血みどろの人間が張り付いてたのにはね…」


そりゃ怖い…

でもやっと分かった、ヒバードの言ってた「外の雲雀と中の雲雀」の意味が。

先生と悪霊のことだったんだね。

ヒバードの籠を持ち上げるとヒバードはふるふると体を揺すって歌い出した。


「ミ〜ド〜リ〜タナ〜ビク〜ナ〜ミ〜モ〜リ〜ノ〜♪」

「あ、そう言えば。」

「なに?」

「ヒバードが並盛中の校歌じゃない歌を歌ってたんですけど…」

「どんな?」

「えっと…なんかヒバリがどうのとか…」

「ああ。」


雲雀さんが指揮をするように指を横に振るとヒバードは校歌をやめてあの歌を歌い出した。


「みど〜りを〜はる〜かに〜み〜わ〜た〜せ〜ば〜♪」

「あ!そう、これです!何の歌なんですか?」

「小学校校歌。」


校歌大好きだな、この人…

歌い続けるヒバード。

他にも歌えそうだな…


「これ僕は好きなんだけど両親も祖父もこれ聞くと「萎える」っていって嫌がるんだ。」

「なえ…?」

「ひ〜ばりがう〜たうよた〜からかに〜♪」
「そうそう、ここがイヤなんだって。」

「……」


なるほど。

だから悪霊雲雀さんに向かって歌ってたワケね…お陰で助かったけど。

俺は籠の間から指を差し込むとヒバードの頭を掻いてやった。


「ヒバードが居てくれて良かった。こいつのお陰で凄く助かったんです。」

「そう。ならご褒美あげないとね。」


雲雀さんが籠をつつくと「ピ!」とヒバードが元気にさえずった。


「じゃ、そろそろ俺帰ります。」

「エンガワ食べたい。」

「また突然…明日山本に言って持って来ますよ。」

「うん。じゃあね。」

「お邪魔しました〜…」


扉を閉めようとしてあることを思い出した。

ずっと疑問に思っていたことだ。

俺はそれを聞くために閉じかけた扉をまた開いた。


「あの、雲雀さん。」

「なんだい?」

「悪霊雲雀さんが言ってたんですけど…雲雀さん怖いのが駄目って本当ですか?」

「……………」


雲雀さんは一瞬目を見開いて、でもすぐに楽しそうな猫みたいな顔をする。

首を傾げて上機嫌な声で


「さあて、どうだろうね?」


と笑って答えた。






………結局真相は分からず終いだ。













END






最後の三話は怒涛で書き上げました…何故なら夏企画だというのに秋が深まってしまっていたから(笑)

「先生」は当初全然出す予定はありませんでした。しかしこう、勢いでだ〜っと…そしたら美味しいとこ全部かっさらわれた…

悪霊の設定は「鬼の鏡」と差別するために悪人にしました。書き込むと愛着が湧いて収拾つかなくてなるのでさらっと。
ヤンデレは「鬼の鏡」で思う存分書きます。

雲雀とツナが絡むシーンがあまり書けなかったのが残念でならないです…

でもツナファンとしてはヒバードとのほこほこ話が書けて幸せでした。

しかし小説は全て設定もなにもかも行き当たりばったりで書いていましたが「相場」ほど暴走特急な話は無いですな。




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