一界 「ほむくるっ!」


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片手に小刀を持ったまま行き倒れている馬鹿、いえジョット。

また紛らわしい格好を……ランタンの製作中に寝落ちただけだろうが。

その脇ではつなよしがご機嫌に顔を刻まれたデカカボチャにへばりついて尻尾を振っている。


「みゃ〜、みゃみゃ〜♪」


大きなカボチャのてっぺんにガジガジと食いつくつなよし。

美味しいとは思えないんですが……。


「つなよし。あとで調理してあげますから放しなさい。」

「みゃ?」

「煮た方が甘くて美味しいですよ?」

「ぴみゃ!」


パタパタと尾を振るつなよし。

カボチャにはくっきり歯形ついちゃってますけどね……まあランタンとしては問題ないか。

寝たいだけ寝させてやろうとまだ片目が空いていないジャック・オ・ランタンとジョットを放置して大広間へと向かう。


「………うわあ。」


天井からつり下げられたおばけやジャック、魔女の飾り。

壁には雰囲気のある黒と緑の布地を等間隔で弛ませて留めてある。

窓ガラスには蛍光のコウモリや猫のプレート。

シャンデリアには蜘蛛の巣のようなレースが引っかかり、電球まで怪しい色合いのものに変わっている。

大広間内はすっかりハロウィン仕様の飾り付けを施されていた。

もう充分な気がするが飾り付けをしているスクアーロはまだやりたりないようでカボチャやらコウモリやらの飾りを抱えて壁を睨んでいる。

拘りだしたら止まらないのは知っていましたが……ここまでとは。


「戻すのが大変そうですね……」

「ぴみゃ。」


気付かれないようにそっと扉をしめる。

巻き込まれたら堪らない。


日本育ちの僕らにはハロウィンなど無縁の行事だ。

しかし今年は屋敷の主が久しぶりに戻ってくる。

それだけならば別段騒ぐことも無いのだが彼女が孫娘も伴って帰ってくると知り、何故かジョットが「子どもがいるならハロウィンパーティーだ!!」と張り切りだしてしまったのだ。

因みにジョットが死んでたのは寝ずにジャック・オ・ランタンを3日間彫り続けていたからだ。

その労力を本職に向けるべきだと僕は思っている……


居間に入るとカタカタという稼動音。

どこから引っ張り出して来たのか年代物のペダル式ミシンで黒い衣装を縫う雲雀が。


「借りてるよ。」

「構いませんが……そんなものよく見つけましたね。」

「布地探して納戸漁ってたら出て来た。」


……人んちという遠慮はないのか。

呆れかえる僕を余所につなよしは肩から降りると雲雀の足元までちょろちょろと走っていく。

雲雀の足に組み付きカタカタ動く新しい「おもちゃ」にキラキラした目を向ける。


「ぴみゃ!」

「ん?ダメだよ、危ないからね。」


ミシンを動かす足を止め雲雀はよじ登ろうとするつなよしを毛糸玉の籠に入れた。

すっかり扱いが手慣れている……

籠に入れられたつなよしはミシンのことなど忘れて毛糸玉にじゃれついている。


「みゃっ!みゃっ!みゃう!」

「つなよし……絡まっても知りませんよ。」


ほつれた毛糸の端をくわえてコロコロと回転させている。

あれはミイラ状態決定だな……


「そういえばこの子の仮装どうするの?」

微笑ましいが結果の見えた光景に苦笑していると雲雀にそう尋ねられる。
その問いに僕は――――



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