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「「ってことでお邪魔します。」」

「………何しに来たの、君たち。」


休みにも関わらず響いたノック音。入室を促せば…なんでここにいるのか、この二人。

何が入っているのか骸と綱吉は大きな袋を担いでいる。


「見て分かりませんか、逃げてきたんです。」

「は?復讐者かい?」

「違いますよ…今日はバレンタインじゃないですか。休日だからと油断していたらこんなことに。」

「骸人気だねぇ。」

「綱吉も逃げてきたの。」

「んな訳無いじゃないですか…」


あ、死んだ魚みたいな目。

やさぐれた時によくこういう目するよね、この子。


「僕がいると収拾がつかないと千種たちに追い出されてしまいまして。つまらないので綱吉くんちに行ったんですが…」

「うち今飽和状態で。獄寺くんと山本も逃げて来てるし、ハルもいるしディーノさん達も来てるし。」

「なのでこっちに遊びに来ました。」


…応接室を避難所にするな。

でも追い出す理由も無いし、邪魔しないならいい。

許可を出せば二人は勝手知ったるなんとやらで綱吉はソファーに寝転がり、骸は簡易キッチンでごそごそと…多分紅茶でも入れているのだろう。


「雲雀さん、仕事あとどれくらいありますか?」

「無限に。でも期間は無いからただやりたくてやってるだけだよ。」


綱吉は行儀悪く足をバタバタさせながら持ってきた袋を漁り出す。

取り出したのはラッピングのついた箱。バレンタインにもらったものだろうか?さっきの態度だと全然貰えてないように聞こえたのに…

綱吉はがさごそと包装紙を取り去さり中身を開ける。


「うわ〜、豪華。雲雀さんって意外とモテモテですねぇ。」

「…僕のか、その袋の中身は。」

「げた箱スゴいことになってたんで回収してきました。」


ああ。いつも処理は委員会の連中に任せてるからね。こんなに来てたのは知らなかった。

他人事のようにテーブルにうず高く積まれていくチョコレート達を見やる。

綱吉は我が物顔で包装紙をバリバリと破いては中身を見て頻りに感心している。


「すごいなぁ…」

「君、それ開けてどうするの。毒入ってるかも知れないから食べるのはお勧めしないよ。」

「え!じゃあいつもどうしてるんですか?」

「さあ…捨ててるんじゃない?」

「勿体無い…でも多分、そういう嫌な感じはしないですよ?」


綱吉はくんくんと匂いを嗅いでそう言う。

そういえばこの子は感が獣よりいいんだったね。

ペンを置いてソファーに移動し箱の一つを取り上げてみる。

まあ僕もこんな足がつきそうな方法で毒を盛る奴なんて稀だとは思うけど。

そもそも悪意あるものは僕の前に来る前に草壁達が処理するし。

まあ、一番怖いのは悪意より好意の行き過ぎた物なんだけど。


……あ、ちょっといいこと思いついた。


「スゴいことになってますね。」


骸がカップを3つ持って戻ってきた。部屋の散らかりようを見て呆れた顔をしている。

綱吉が包装紙をポイポイと適当に投げ捨てるから仕方ない。


「雲雀さんこんなに貰ったのに全部捨てるんだって。」

「おや、勿体無い。」

「ね。」

「だったら君はどうしてるの?そっちの袋、君のだろ。」


骸が持ってきた袋もぎっしりとラッピングされた箱が詰まっている。

これ全部食べれるとは到底思えないけど…

しかしそう問えば骸は当然という顔で「食べますよ」と答えた。


「流石に一人では無いですが。」

「どうするんだい?」

「手作りは苦手なのでそういう品々はそこいらの連中に分け与えます。
残りは自分で食べますね。生菓子以外は日持ちしますし…チョコは嫌いではないので。」

「ふうん。……………綱吉、食べたいなら食べてもいいんだよ?」


ほら、と干し苺をチョコでコーティングしたのを詰まんで口元に押し付ける。

じぃっとそれを凝視していた綱吉がぱっと顔を輝かせぱくりとチョコに食らいつく。

…餌付けしてるみたいだね。

二つ目も詰まんでやればまたぱくり。面白くなって3つ4つと差し出す。

可愛い。子犬に餌やってるみたいだ。

でもそれを繰り返している内にとうとう苺が無くなってしまった。


「これでおしまい。」

「んむっ。」

「ほら、指もちゃんと綺麗にして。」


人差し指を綱吉の口に差し込む。チロチロと動く舌がいいね。

ちょっと奥まで入れれば苦しそうな表情になる。それがまたいやらしくて楽しい。


「いい子。」

「んっ…もう!何させるんですか!」

「ついね。ほらもう一個あげるから機嫌直して。」

「う〜…」


ボンボンを詰まんでやれば綱吉は唸りながらもまたぱくりと食らいついてくる。

餌に釣られるなんて本当にお馬鹿だね。可愛いけど。

5つくらいあげたところで綱吉の頬がほんのりと赤くなってきた。目もちょっとトロンとしている。


「…雲雀、それ…ただのウイスキーボンボンじゃないでしょう…」

「分かる?もっとアルコール度数の高い果実酒入りだよ。」


10個全部食べさせると自立できなくなったみたいでぽふりと背もたれに体を預けている。

綱吉が酒に弱くて良かった♪

駄目押しにウイスキーボンボンもブランデーチョコも与えてやる。

これくらいやればもういいかな?


* * * *


ああ…全くこの子はなんでこう毎度似たような手に引っかかるのか。

たわいないじゃれあいから奸計に入る雲雀も悪いが少しは学習しないと…

すっかり酔わされてくったりとしている綱吉くんを前にニィと笑う悪魔。

……………明日も休みですし、まあ余程のことがない限りは大丈夫だろう。

まあ、これを機に警戒と疑心というものをもっと学ぶといい。…一応度が過ぎたら止めるけれど。

紅茶を啜りながら見張っていると雲雀は嬉々としながら綱吉くんのブレザーとシャツのボタンを外していく。


「ひばりさ…?さむ…」

「じっとしてな。骸、そこの筆ペン取って。」

「…何する気ですか君。」

「ん?全身お経と腹に顔、どっちがいいかな?」


…知りません。

紅茶のカップを手になんとなしに目の前にあったボンボンをつまみ上げる。さっきまで雲雀が綱吉くんに与えていた物だ。

かなり強い酒の匂い。これは市販品…か?


「はい、綱吉ゴロン。動いたらお仕置きだよ。」

「ひゃっ…なに?やだっ、やだぁ…」

「そのうち癖になるよ。ほ〜ら。」

「ふにゃあっ!や〜!そこ、やっ…」

「ふうん?ここ?」

「ひうっ!」

「…………」


音声だけ聞いてるとかなり卑猥だ。実際は筆ペンで背中に落書きされてるだけだが。

何をするかと思えば…単なる悪戯か。全く…素直に可愛がれないのかこの男は。


カリッ


「!!」


無意識にかじりついたチョコレートボンボン。その中身が口にとろけ出すと同時に吐き出す。

なんだこれは!ブランデーの他に…!!


「雲雀!!これは…」

「あれ、気付いたの?」

「なんてものを食べさせてるんですか!」

「大丈夫、大丈夫。依存性無いの選んだから。」


舌にピリピリとくるのは恐らく薬物。

確かに毒では無いですが…泥酔と似たような症状になり前後不覚に陥る類のものだ。

何故こういう時に働かないのか、超直感。

綱吉くんは雲雀にのし掛かられてジタジタともがいているものの動きはかなり弱々しい。

………しかしこれは雲雀に送られて来たわけですよねぇ…用途は一体…


「考えるな、気色が悪い。」

「…そうですね、止めときます。」

「さあて、綱吉。下も脱ごうかvv」

「んっ…やで…」


散々背中に落書きした雲雀は綱吉くんのズボンに手をかける。だが綱吉くんはベルトを抑えて首を振る。

緩慢な動きだが抵抗してるということは理性は残ってる…?いや、ワザと残しているのか。雲雀はそういう人間だ。

案の定、綱吉くんが泣きそうな顔でもがくのをそれはそれはいい笑顔で見下ろしている。


「やっ、や〜っ!!」

「………」


目の色が変わってきた…舌なめずりしてる姿は何か獰猛な猫科の獣を思わせる。

危険信号だ。もう止めないと年齢指定が入ってしまう…

そろそろとソファーの後ろに回り込んで綱吉くんを犬の仔のように抱き上げる。


「はい、そこまで!」

「ちっ…邪魔しないでよ、その気になってるのに。」

「今なるな。」

「むく、とめんのおそいぃ…」

「はいはい。怖かった、怖かった。」


首にすがりつく綱吉くんを宥めていると恨みがましい視線が。

顔怖いですよ、風紀委員長。


「…これからが楽しいのに。」

「君だけでしょう。」

「君も混ざればいいじゃない。」

「全体に公開出来ない内容にしてどうするんですか…」


心惹かれるお誘いですがそれはまたの機会に。









続く…





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