カカオ0%






酷い目にあった…

落書きを消すためにまたシャツを脱ぐ。

まだ頭がふわふわする。解毒はしてもらったけどアルコールは本物だったからなぁ。

よく酒飲むと記憶無くしたり性格変わる人いるけど俺はだるくなるだけで全部覚えてるからあんまり好きじゃないんだ。


「…………」

「どしたの、むくろ。」


濡れたタオルを持ったまま俺の背を見つめる骸。

…なんだろ?


「『祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理を現す。』…達筆ですね、雲雀。」

「そう?」

「……………」


俺の背中、平家物語なんだ。道理で長かったわけだ…雲雀さんなら全文暗記してても俺驚かない。


「はい、もういいですよ。」

「ん、ありがとー。」


ぬるま湯で背中の文字を消してもらってから改めて服を着直す。

……あ〜…クラクラする…


「だるいなら横になるといい。水はいりますか?」

「ふわふわしてるだけだからいい…寝ちゃう…」

「気にせずに眠るといいよ。」

「雲雀さんが居る前じゃ寝れません。」


俺がこうなった元凶はニンマリ笑って両手を広げている。

誰が行くもんか。

俺はバリバリと包装紙を投げ捨てながら雲雀さん宛てのプレゼントを全部開ける。

綺麗好きな雲雀さんの住処を散らかして憂さ晴らし。普段俺がやられてることに比べれば可愛いもんだよ!

片付けるのは雲雀さんじゃないけど。

机の上に山になった菓子類。可愛らしい手作りのから一体どこで買ったのか聞きたくなる高級品まで。スゴいなぁ…


「このケーキ美味しそう、だけど…」

「やめなさい、この臭いは覚えがあります。全身が痺れますよ。」

「これは?」

「一般生徒の作ったのは無害だよ。アルコール入りは薬混ぜやすいみたいだから危険。」

「そうですね。学生では手が届かなそうなものには大体何か。痺れ薬に筋弛緩剤に…せいよ、いえ分かりましたから睨まないでください。」

「なんで雲雀さんのは薬入りのがあるんですか?恨み買ってるから?」

「「…………」」


ちょっと疑問を口にしただけなんだけど。

雲雀さんがびしりと固まってなんだか気まずそうに骸が目を反らす。

なんか聞いちゃいけなかった?

首傾げてたら二人に頭撫でられた。


「そうだね。きっと恨まれてるからだ。そういうことにしようね。」

「綱吉くんはまだまだ子どものままでいましょうね。」

「うんうん、よしよし。」

「??」


雲雀さんにがっしり抱き込まれて頬摺りされた。

……何?


「雲雀、やっぱりこれは処分した方がいいみたいですね。」

「あとで処理させるよ…とりあえずその袋にでもまとめといて。」

「大丈夫なのも食べないんですか?」

「分けるの面倒だからね。」

「チョコなら僕のをあげますから。気に入ったの食べていいですよ。」


テーブルの上を片付けながら骸がもう一つの袋を指差す。

わざわざ黒曜から持ってきたんだよ、あれ。

チョコもらったら分けてくれるって前から骸言ってたもんね。にしても律儀だなぁ…

袋を引き寄せてガサガサと包みを開く。

雲雀さんと違って骸のは可愛らしいラッピングのだけだ。山本と獄寺くんと同じ。

でも量はかなり多い…モテモテだな、骸も。


「アップルパイ、凄い手造りだぁ!」

「なんで麦チョコ…?」

「あ、それとっといてください。クローム用に。」


手の込んだのから見慣れたパッケージの板チョコまで凄いバリエーション。

一際大きな箱を開いてみる。

うわ。なんだ、これ…

ペットボトルくらいあるペンギンチョコ。こんなのも売ってるの?


「綱吉くん、それ気に入ったんですか?」

「ん。」


がぷっ。


迷わず頭から食らいつく。

あ、中は空洞なんだ。結構おいしい。


* * * *


ガプガプペンギンに食らいつく綱吉くん。

酒に酔ってるから目がトロンとしている。

…ひまわりの種に夢中になってるハムスターみたいだ。


「ちょっと失礼。」

「んむ。」


脇に手を差し込んで膝に乗せる。

綱吉くんはペンギンをかじるのをやめてきょとんと僕を見上げる。

でもにっこりと笑ってみせるとまたかじかじとやり始めた。

もう最近では膝に乗せても降りようとしないし抱き上げても暴れることは無くなった。

アルコールの効果もあるとは思いますが躾成功ですね♪


「クフフっ。」

「僕がやると逃げるくせに…」


僕の膝の上で飼い犬のように大人しくしている綱吉くんに雲雀は不満げだ。

けれど綱吉くんにしてみれば当然の反応だろう。

雲雀のは主に誘拐手段だし、抱き上げるというより「担ぎ上げる」だし、膝に乗せるのも拘束目的が多い。

逃げを打つのも仕方がないのでは。


「骸はペット扱いはしてもイジメないですもん。」

「餌付けしてるのになぁ…懐かないんだよね。」

「餌付けと言ってる時点で大いに間違ってますよ。気付いてます?」


それでも懲りずに遊びに来てるわけだから充分懐かれてると思うのだが。

ペンギンに食らいつく小さな白熊の頭に顎を乗せる。サイズ、丁度いいです。


「君の場合愛情表現が歪みすぎなんです。こんな子犬にそれを理解しろという方が無理です。」

「だって鳴き声が可愛いんだよ。」

「少しは自重なさいこの鬼畜。」

「良識人ぶるな、夜行鬼畜。」


僕は君と違って良識人ですよ、失礼な。

綱吉くんは僕らが言い合っている間もカリカリカリカリとペンギンを一心不乱にかじっている。

僕もチョコレートは好きだがこんなにずっと同じものをかじっていたら流石に飽きる。

…全部食べきる気なのだろうか。鼻血出しても知りませんよ。


「綱吉、それ美味しいの?」

「ん!」

「…そう。僕は胸焼けしそうだよ。」


甘いものが苦手な雲雀はげんなりして頭の無くなったペンギンを見ている。

まあ、僕も甘過ぎるのは…そうですね…

目に付いた箱を手繰り寄せる。シックな群青の箱に卵型のチョコレート。有名なブランドのものだ。

口に入れ歯で噛み崩す。中身はリキュールとチェリー。甘さと酸味、喉を焼くアルコール。

――この位が丁度いい。


「骸、それ美味しい?」


二つ目に手を伸ばすと綱吉くんがペンギンから顔をあげてじぃっとこちらを見上げている。

君、さっきアルコール入りのチョコのせいで酷い目にあったのもう忘れたんですか?

本当に学ばない、………そうだ、いいことを思いつきました。


「ええ。美味しいですよ。綱吉くんも欲しいですか?」

「うん。」


ならば仕方ない。

そう装いながら口にチョコレートを放り込む。

そうして綱吉くんの顎に指を添えて上向かせた。

いつもの彼ならこの時点で気付いただろう。しかし綱吉くんは相変わらずトロンとした表情のままだ。

口中のチョコレートを噛み砕く。


「んむっ…」


口唇を重ね合わせる。舌先で唇を開かせチョコレートを全て流し込む。

甘味が口に広がると引っ込んでいた舌がそれに惹かれそろそろと上がってきた。

そこをねらい舌を絡めとる。


「んっ、んう…ん…む……っ」


チョコレートが溶けきるまで小さな口中をなぶり、楽しむ。

ペンギンチョコのせいでミルクチョコの甘ったるさまで感じるがこの子のものだと思えばそれも心地良い。


「っはぁ…」

「どうですか?美味しかったでしょう?」


すこし頬を染めてこくんと綱吉くんが頷く。

頭を撫でてやると気持ちよさそうに目を閉じる。今にもゴロゴロと喉を鳴らしそう。

…可愛い。食べたいくらい可愛い。飼いたいです、この子。持って帰ったらダメだろうか。

そんなことを考えていたら膝の上の体温が消える。

猫か何かのように綱吉くんを抱え雲雀が半目でこちらを睨む。


「ダメに決まってる。」

「人の心読まないでください。」

「読んでない。顔に書いてあったよ。」


おや。僕も修練が足りないようですね。









END




期待された方も多かったようですが無理です、その展開にはできません…
だってこれ書いてたの現場だから(笑)
当日思いついちゃったんですよ、急に。
でも相変わらず暗黒ズはこっちの都合も構わず卑猥な方へ卑猥な方へと…

だからそっち行くなって言ってるだろ〜?!







とか言ってたんですが…