12.習性と本性と猫





「ほれ。」
「?」

シャマルが差し出してきたもの。
つい受け取ってしまったけれど、疑問符を頭に浮かべながらシャマルを見るとにか〜、と笑っている。

「なに、これ。」
「いいから振ってみろ。面白ぇから。」
「っ……!!シャマル、てめ……っ」
「?」

振る?振ればいいの?
シャマルの意図は分からないけど用途は分かる。
俺は慌てた獄寺くんの目の前でひょいひょいと「それ」を振って見せる。

「くっ!」

振り出すと同時に顔を反らして右手を必死に押さえつける獄寺くん。
顔を反らしてるんだけど、気になって仕方がないみたいでちらちらとこちらを見ている。
ひょいひょいと振る度に耳はヒコヒコするし、尻尾もゆらゆらと揺れている。
……なるほど。これ確かに面白い。

「…………10代目……それ止めてください……」
「やだ。」

天井を見上げて顔を覆う獄寺くんの顎の下でちょこちょこと「それ」を揺らす。
シャマルに渡されたのは猫じゃらし。
まさかと思ってたんだけど、獄寺くんも反応せずにはいられないらしい。
人の理性で保ってるけどものすごーく、うずうずしてる。さすが猫。

「あっはっはっはっ!!!!はーっはっはっはっ!!ひ〜!!!!」
「シャマル……!!てんめぇ……!!いい加減にしやがれぇ!!!!」

* * * *

立ち話もなんだから、と案内された屋敷。
ソファーに腰を落ち着けると、従業員らしき人がお茶を持ってきてくれた。
これまたシャマルと同色の服を着ているけど、なんて目に痛いんだ。
オーナーの趣味か、クロームの趣味かが気になるな、と思いながら見ていると、下から「ああ、そうだ、10代目」と声がする。

「ムカつきますがこのエロオヤジは一応、この遊園地のオーナーで領主なんです。」
「! ここも領地なんだ。」
「はい。なんで、跳ね馬たちもここまではそう簡単には入っては来れない筈です。」
「へえ……」

シャマルがねぇ。
今度は俺の方が目の前の「領主」をジロジロと無遠慮に見る番だ。
遊園地の領地ってあたりはメルヘンだと思うけどそこにこのエロオヤジってのがよく分からない。メルヘンが一気に崩される。
大体、「オーナー」って器と格好じゃないよ……ピエロか大道芸人だよ、どう見ても。

「痛てて……お前、なんか失礼なこと考えてるだろ。」
「そんなことないよ。ありきたりな感想だと思うけど。」
「じゃあその小馬鹿にした目をやめろ。ったく俺はなぁ、ここじゃ爵位もあるお貴族様なんだぞ!偉いんだ!!」
「あーはいはい。」

ひらひらと手を振って適当に受け流す。
自称「お貴族様」は顔にいくつも引っかき傷付けまくってて威厳の欠片も無い。
そのお偉い地位を利用して悪どい事をしでかさないよう祈るだけだ。

「ったく、本気で引っかきやがって!」
「怒らせるからだよ……」
「それはボンゴレ坊主もだろーが!」

ブチブチと文句を言い続けるシャマルを余所に、引っ掻いた張本人はソファーに寝っ転がって俺の腰に引っ付きながらご機嫌にゴロゴロ喉を鳴らしている。
あんなに猫じゃらしにじゃれるの我慢してたのに……猫の本性を一度剥き出しにしたら装う気が完全に失せたようだ。
もう獄寺くんというより猫だ。髪と耳を撫でると気持ちよさそうにしてる。

「すっかり開き直りやがって……おい、隼人。お前人間止める気か。」
「んな訳あるか。」
「あはは、だよね。でも獄寺くんみたいな猫なら俺、飼ってもいいな。」
「10代目の猫……」
「やめとけ。今ちょっとそれもいいかもと思ってるだろ。」

うっとりとしたような響きのつぶやきにシャマルがすかさずツッコミを入れる。
……俺もちょっと本気だけど。
ゴロゴロ言ってる猫の耳を撫でる。手触り最高。ずっと触ってたい。
それに獄寺くんの破天荒振りは猫なくらいが丁度いいと思うんだ。猫なら可愛い……って。

「はあ。」
「?どうしました?」
「いや。……毒されてるなと思って。」

見上げてくる獄寺くんが訝しげに眉を寄せる。
ピンクでパンクな格好の親友とその下に広がる青いスカート。
なんてことだ、このふざけた悪夢を受け入れてしまうところだった。
猫な獄寺くんがいいなんて……いや確かに普段の素行が悪すぎるけど、この人!
今は大分猫に偏ってきてるから普段からは有り得ないくらい甘えてくる。
可愛いは可愛いけど現実に帰った獄寺くんが思い出してはのた打ち回りそうな気がする……
獄寺くんの傷が浅いうちに、俺がこれ以上悪夢な世界に馴染む前に目を覚ましたいところだ。

「シャマル、ここからハートの城って帽子屋領通らずに行ける?」
「行けるには行けるぜ。だが安全が保証出来るのは園内だけだ。」
「城まで大分距離がありますし……あの様子だと多分あいつら諦めてねぇと思うんスよね。」
「そっか……」

ディーノさんたちには目的地がバレてる。先回りはまず間違いなくされてる。
まさかこんなことになるとは思ってなかったからなぁ……
天井を仰いでどうしたものかと考えているとさわさわと顎の下を何かが擽った。
はしり、と掴めばピンクの尻尾が手の中でうねる。

「じゅーだいめ。任せてください。俺が案内しますよ。」
「え……」
「安心してください。跳ね馬だろーがザンザスだろーが指一本触れさせませんから。必ず城までお連れします。」
「あ、ありがと……」

猫らしく笑う獄寺くんはなんだか何時もより頼もしく見える。
なんでだろ……こう、ちょっとぞわぞわもするんだけど。

「………丁度いい。纏めてウサギ鍋にしてくれる。纏めてな……」
「?なんか言った?」
「いいえ〜。」

ぐりぐりと額を擦り寄せる猫。
う〜ん……やっぱり獄寺くんの猫いいなぁ……
ぽふぽふと頭を撫でているとシャマルがあからさまに呆れたため息を吐く。

「坊主。お前ちょっと身内に甘すぎるぞ。」
「は?」
「……猫も肉食ってな。何言っても無駄だろうが覚えとけ。」
「??」









続く…





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