22.安全性など無い 「う゛おい!!」 「!!」 短い叫び声にはっとなる。 スクアーロを見れば顎で「こっちに来い」と示される。 い、いけないいけない……命より大事なものなんて無いのに何を血迷ってるんだ俺は。 下を見ないようにしてそそくさとウサギから離れる。 「ちっ」と舌打ちが聞こえたのは気のせいだと思いたい…… 「何をふらふら惑わされてやがる。」 「ごめん……つい。」 「悪徳商法とかにも君ひっかかりやすそうだね。 そのまま綱吉が頷いてくれたら小動物が三匹になったのに。」 「雲雀さん……」 そんな心底がっかりしたような顔されても嫌です。 さっきのぐったりしたスペードと同じ目に合わされるなんて御免だし。 それに『滞在地』なんて関係ない。俺はこのままこの悪夢の世界ですごす気ないし。 早いとこ骸見つけてクロームなんとかしてもらわないといけない。俺はもう早く起きたい。 「もう領地は3つとも見たんでしょう?」 「そうだけど……」 「森には行ったのかしら?今いろいろ入り交じってるからこの国には『有り得ないもの』がある筈だけど。」 「有り得ないもの?」 ルッスーリアの言葉をオウム返しに呟いて、スクアーロを見る。 事実を婉曲せずに教えてくれるのはやっぱこの人だけだし。 けどこの場で一番信用出来るのがかつての敵ってのもどうなんだろうか。 「ここは「ハートの国」だ。さっきも言った三つの領地と独立した時計塔からなる。 だが他にもクローバー、ダイヤ、スペードの国が存在している。 国によっては別の城があったり塔が統治していたり、駅やら墓地やらがあったりする。 今は沢田を巻き込むのにあの霧がいろいろ『いじった』からな。国の境目があやふやになってやがる。」 「あやふやって?」 「『有り得ないもの』が出現するようになる。森でクジラが泳いだり、城の庭に砂イルカが出たりするようになる。」 「はあ!?」 なんだ砂イルカって。クジラが森を泳ぐって。 それバカでかいモグラなんじゃないの!? どんだけ現実離れしてんだ。夢なのはわかってるけど!! 「あ〜……まあ信じらんねえのも無理はねぇがそこは「不思議の国」ってことで流せ。」 「海産物がいるかいないかはこの際どうでもいいんだよ、綱吉。 彼が言いたいのは今この国に無いはずの『領地』とも繋がってるんじゃないかってことだよ。」 「へ?領地?わっ!?」 すすすと近付いてきた雲雀さんが俺の脇の下に両手を差し入れる。 そして高い高いをされるように持ち上げられて抗議の声をあげようとしたらそれより先に「あー!!」と高い声が二つ。 「なんだよ雲雀〜!いじわるすんなよ!」 「戻しなさい、雲雀恭弥!」 俺の浮いた足の下でぎゃいぎゃい騒ぐ白黒ウサギーズ。 いつの間にこんな近くに…… ぴょこぴょこ跳ねる姿は可愛いけれど一体何をしようとしてたんだろうか。 黒ウサギの手にあるミニチュア鎌に不安しか起こらない。 幼児みたいに雲雀さんの片腕に座る形で抱え上げられても床に降りる気は起きない。 「てめぇらいい加減にしやがれぇ!!」 「!?な!お、降ろしなさい、時計男!」 「時計『屋』だ!!」 飛び跳ねる二匹の襟首をスクアーロが掴みぶら下げる。 ブラブラ揺れる程に暴れるスペードと恨めしげにこちらを見ている山本。 ウサギだけど怖い。なんか怖い。 「ずりぃ!!ずりぃぞ雲雀!!ちょっとデッカいからって!!」 「ふん、見た目の勝負に走るからだよ。僕は実力行使派なんだ。」 「実力って言うかただの力押しじゃねぇの。」 「事後でも了承とれればいいじゃない。」 「脅したのは入らないぜ。」 あ、またなんか雲行きが怪しくなってきた。なんかこう、胸がざわつく感じが。 や、やっぱ降りようかな〜。ウサギ二匹より騎士のが危ない気がする。 そう考えながらそろりと雲雀さんの肩に手を置く。押そうとか抵抗しようと思ったわけじゃなくて、体が不安定だからただ置いただけ。 「!」 手を払われたと思った時にはがっちりと体に巻き付く腕。ぴたりと雲雀さんにくっついた状態で固定される。 慌てて上体を離そうとしても雲雀さんは抱き込んだ手を緩めてくれそうにない。 「ひ、雲雀さん?」 「なに?落としたりしないから安心しなよ。」 バクバクと、嫌な感じに激しくなる心臓の音。 落としてくれた方が安心できる!! 「雲雀、ツナが怯えてるぜ〜。実力行使しても怯えさせてるんじゃ結果は出ないんじゃね?」 「お友達ごっこから脱却できない君らには結果以前の問題だと思うけど。」 「急いては事を仕損じるってな。」 「鳶が山ほどいるのに悠長だね、君たち。僕は機会を逃す気はないよ。夢でもね。」 「だからって屋外はどうかと思うぜ。初回からあおムグッ。」 「何を言う気だ、てめぇは!!」 スクアーロが山本の口を慌てた様子で抑えつける。相当焦ってたみたいで放り出されたスペードが「おわっ!?」と悲鳴を上げる。 「てめぇ……ガキのくせにんな言葉どこで……」 「そりゃ男の人生の教科書に決まってんじゃね?」 「まだお前には不要の教科書だろぉがぁ!!」 スクアーロ、ものすっごい慌てようなんだけど。 「あお」?あおおに?んな訳ないか。なに言おうとしたんだろ、山本。 ガクガクぶらぶら揺らされながらもいつもの調子を崩さない親友を見やる。 「っ!スクアーロ!!」 説教モードのスクアーロの頭上で振りかぶられた鎌。それが真っ直ぐに振り下ろされる。 次の瞬間に金属同士がぶつかり合う音。 俺が叫ぶより早く、スクアーロは動いていた。 「てめっ……!」 「この私を小物の如くつまみ上げ放り投げるなど許せません。」 鎌を手に人型に戻ったスペードが怒り心頭といった顔でスクアーロに襲いかかる。 スクアーロも工具を手に鎌を防いでいる。 「そんなもので私の攻撃が防げるとでも?舐められたものですね!」 「舐めてんのは、てめぇだぁ!!」 スクアーロの工具が光る。そして響く破裂音。飛び退いたスペードの頬に赤い筋が。 いつの間にか、スクアーロの手には工具ではなく短い銃があった。 「なんか面白いことになってきたね。」 「そんな呑気なこと……!!」」 「うん。言ってる場合じゃないね。」 「!」 体が宙に浮いたのと、銃撃音がしたのは同時だった。 視界には銃を構える人型の山本と剣を抜く雲雀さん。 「あん、危ない。」 「わわ……」 雲雀さんに放り投げられたことに気付いたのはルッスーリアに受け止められてからだった。 雲雀さんの位置から玉座までって距離あったよね!?どんな腕力だ……!! 「あ、ありがと。」 「いいえ〜。ちょっと、タケちゃん。危ないじゃないの!お姫さまに当たったらどうするの。」 「責任取って嫁にします。」 「なら安心ね。」 「どこが!?」 もしかしてさっきのは山本が撃った音!? 雲雀さんはともかく俺撃たれたら死んじゃうよ!?夢でもそんな体験したくない! 「なんの真似だい?山本武。」 「さっき言ったろ?『ちょっとタンマ』って。そろそろ続きやろうぜ。」 ニコニコと笑いながら全然にこやかじゃないオーラを出す山本。手にした銃が光ったと思うと剣に変わる。 あれってさっきの金時計……? 「あらあら。モテる女は辛いわねぇ。」 「『辛い』のは否定しない……」 カンカンキンキンパンパンと響く戦闘音。 確かに平穏とは真逆だ。絶対城には滞在しないと心に決めた。うん。もう揺らがない。 横を見るとこの騒動の中、優雅に紅茶を飲んでいるモヒカンの女王様。慣れすぎだよ、この状況に…… じっと見ていると俺の視線に気付いたルッスーリアがカップを手に尋ねてくる。 「ツナちゃんも飲む?」 「いや、いいです……お構いなく。」 「そお?でも勝負がつくまでまだ当分かかるわよ?」 「へ?なんで?」 「みんな慣れてない武器だもの。いつものようにとはいかないわ。スペちゃんは幻術使ってズルしてるけど。」 「ああ。」 クロームの拘りでみんな格好だけでなく武器も『ゲーム』の中のものに変えられている。 それでも引けを取らない面々……銃器に関しては経験者だらけってとこがホント流石マフィアだ。 「でもザンザスは自分の銃使ってたけどなぁ。」 「ボスもやっぱりいるの、ここに。」 「うん、帽子屋領に居た。」 「…………」 ズズ、と行儀悪く紅茶をすする女王様。グラサンでやっぱり表情は読めない。 「帽子屋……で、配役はなにかしら?」 「…………ボスでは、無かった。」 「ってことはオプション付きの方かしら。」 「山本よりは似合ってたよ。」 慰めになるのかならないのか自分でも微妙だと思う。 けどルッスーリアは予想した反応と違ってうっとりしたような声音で笑う。 「ふふ、ウサギ耳のボス……素敵だわ。」 「す!?てき、かな……?」 「ボスならどんな格好も似合うわよ〜ぉ。是非見てみたいわぁ。」 スクアーロとは真逆の反応……いや、いいならいいんだ。人の趣味にまでケチをつける気は俺にはない。 やっぱりヴァリアーはすごいと思う。いろんな意味で。 そしてやっぱりスクアーロは転職を考えた方がいいと思う…… 続く… |