30.本気の窮地かも





もみ合ってるうちにエプロンの肩紐が落ちた。頭のリボンもほどけたらしく垂れ下がってる。

これは本気でヤバいか!?


「白蘭!?ちょ、正気に戻れっての!」

「据え膳より抵抗される方が燃えるよね。」

「マジでどうした、お前!」


おかしすぎる。元から変だけど目がヤバいもん!

抵抗をかいくぐって白蘭の手が俺の襟元に触れる。一瞬ドキリとしたけど大丈夫、クロームの安全策があるから破けない。


ところが。


プチリ、と有り得ない音が胸のあたりでし始める。一つだけじゃない。プチリプチリと釦を外される音が………なんでだ!?

下を見れば縫い目もなにも存在しなかった筈の服の釦が外されている。


「!?」

「驚いてるね〜。綱吉クン。」

「な、なんで!?クロームが……」

「僕の『役』はクロームちゃんの管轄外なんだ。だから影響を受けないんだよ。」

「!クロームの言ってた勝手に入ってきた奴ってお前のことだったのか!?」

「ん〜、そうかな?ま、確かに呼ばれてないね。」


悪びれることなく言ってのけた白蘭がのしかかってくる。それを押し返しながら嫌な汗が浮かぶ。

今まで会ったメンバーと同じく浮かれた格好してたからそれは考えて無かった。そういやスペードもウサギにされてた。

でもあいつはこんな風に迫って来なかったから知らなかったけど。クロームの管轄外って安全策効かないのか!

服を脱がそうとする相手に足と手とで抵抗しているけれど白蘭はむしろ嬉しそうに笑いを深くするだけで堪えた様子は全然無い。


「実体じゃないのは残念だけど予行練習にはなるよね。その格好で抵抗されると凄く視覚的に盛り上がるし。」

「演出じゃないよ!?本気だけど!?」

「そうなんだ。じゃ僕も本気でいくね!」

「いかなくていいいぃ!!」


「本気」になったらしい白蘭は俺の片足を脇に挟んで固定するともう片方を肩に担ぎ上げた。手慣れすぎだ!

するりと捲れ上がるスカートを両手で抑えて下着を隠すも、顔が真っ赤になるのは止められない。格好が、恥ずかし過ぎる。


「うわあ。イケナイ雑誌の女の子みたいな感じだね綱吉クン。可愛い〜。」

「う、うるさい……」


上から来る視線に熱がこもった気がして、耐えられなくて顔を逸らす。

白蘭はまだまだ余裕そうだ。両手は自由なんだけど逃げられる気がしない。

けどいくら夢とはいえこの事態を受け入れるのは嫌だな!しかもただの夢なら忘れるのも可能だけど相手が本人だし!

するすると脚を撫でる白蘭の手を叩き落とす。

力を入れて上半身を浮かす。かなり腹筋辛い体勢だけど!

勢いを付けて起き上がると白蘭の首に手をかけて渾身の頭突きを繰り出す。


「あだっ!?」


衝撃はこっちにもあるけど不意打ちされた方がダメージはでかい。

白蘭もこれは予測出来なかったみたいで手を離すとぐらりと僅かに仰け反る。チャンスと捕まってた足を引き抜こうとするけれど。


「だーめだよ綱吉クン。」

「ふぎゃ!?」


両方の膝裏を捕まれて、より密着するように白蘭が体を寄せてきた。

膝が顔の横に付きそうな体勢にされているから凄い事になっている。スカートは咄嗟に抑えたけどこれは逆に……


「うーん、カメラが無いのが残念だね。凄いえっちい感じのが撮れたのに。」

「んなの、撮って、どうすんだ……!」

「楽しむに決まってるじゃん。夜にね。」


態度は余裕そうなのに目が熱っぽい白蘭が、つつと足をなで上げる。変な声が出そうで唇を強く噛む。

捲れたスカートの中に手を入れようとする白蘭を止めようとするともう片方の手が逆の太ももに触れる。

一瞬でその手が離れたから安心していると。


「へ。」


しゅるりという衣擦れの音と緩くなる締め付け。白蘭の指にある水色の紐は俺のスカートの中に続いていて。

間抜けなことに、俺はもう片方の下着の紐に白蘭が手をかけるまで思考が止まってしまっていた。慌てて奴の腕を両手で掴む。


「や、やめろってば!!正気でも正気じゃなくてもやめとけ!後悔するって!」

「今という機会を逃す方が後悔すると思うんだよね。」

「あ、やぁっ!」


いつものニヤニヤ笑いならともかく無表情で言うのがまた怖い。

前のボタンを外されたまま抵抗したせいで露出してしまった肩に白蘭が首にかぷりと噛みついたかと思うと、そのままじっくりと皮膚を舌でなぞりながら降りてくる。

止めたいけど相変わらず手は下着を外そうとしてるから首を振るくらいしか出来ない。


「へ、変なとこ舐めんなぁ……!」

「そんなやーらしぃ顔して言っても逆効果だよ、綱吉クン。」


何が白蘭を興奮させたのかさっぱり分かんないけどぎらぎらした目にびくりと体を震わせる。

そのままずいと近付いてきた顔に目を瞑ると。


「うくく……っ」

「?」


逃げられないと半ば諦めかけていたわけだが。笑いを耐えるような声がして、ぱちりと目を開く。すると俺の足を掴んだまま肩を震わせている白蘭。

相変わらず体勢は妖しいままなんだけど空気が違う。白蘭は堪えきれないという風に涙目で笑っている。


「ダメだ、もう無理……っ!」

「え、何がだっ…………て、うわああああああああ!!」


笑い続ける白蘭に問おうとして、バスリという音と共にまず頭上から道化の帽子が消えた。次の空気を裂く音では白蘭の頬に赤い筋。

そしてその次に白蘭が持ち上げた手が飛来物をはしりと掴む。

それを見てようやく俺は何が飛んできたのかに気付いた。


「な、それ!」

「やー、お見事。本当にサーカスに勧誘したくなっちゃう腕前だよね!」

「わっ」


白蘭が指に挟んだ飛来物――ナイフをくるくると回転させていると俺の頭上から、ばさりと降ってくる布。

それが大きなコートであることと、馴染んだ香りがすることに気付いた時には背後から来た人物に抱えられた後だった。


「あなたが的になるなら喜んで。」

「あははははは、殺気が痛い。すごく痛い。」


突然高くなった視線と不安定な体勢に相手の首に縋りついた。ぞくりと馴染んだ感覚が背筋を走る。

――ちゃんと本物だ。いつもより大きいけど。


「むくろ。」


コートから顔を出して、確認するように名前を呼ぶ。

作り物めいた顔が、ふわりと笑うと人間ぽくなる。


「なんですか、綱吉君。」









続く…





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