5.高すぎる塔と大きな門





「…っ……はっ……はぁっ……っ…長いっ!!」



肺が痛い。荒くなった呼吸はなかなか落ち着かない。

俺は今し方降りてきた階段を振り返った。

なんだってこんなに長いんだ、この塔の階段!!降りても降りても終わらないんだから!

上から見た時はそこまで高く感じなかったのに!!

こんなに長いなら自分の体力考えて駆け下りたりなんかしなかった……最後はなんか意地みたいになってたし。

ようやく地上に着いた時にはこの有り様だ。


「はあっ……」


どさり、と最下段に腰掛ける。ちょっと休憩……


「………………」


すすす、と足を閉じる。いつもの調子で座ると中が見えるの忘れてた……

息が落ち着くまで、行き交う人達や街並みを眺める。

さて、後先考えずに塔から降りてきたはいいけど、まずはどこに向かえばいいのやら。

すっかり忘れてたけど攻略本があるならこの世界の地図くらい、あったのかもしれない。確認すれば良かった……

もう一度この階段を戻るのは体力的に無理だ。でも宛てもなく歩くのもなぁ……

こういう時に役に立って欲しいんだけど、超直感。

あれは戦闘やら命に関わる危機以外にはイマイチ反応してくれない。

あとやたら骸にも反応するけどあれは存在自体が危険だってことなのかなんなのか……


「はぁ……」


ぼーっとそんなことを考えている間に、大分呼吸が落ち着いてきた。歩く分には支障はないくらいに。


「……う〜ん……」


立ち上がって、塔を見上げる。

確か、あそこから見て……山本はあっちの方向に走っていった筈だ。

宛てが無いなら取りあえず、童話に倣って白ウサギを追いかけようと思う。


* * * *


……正直。

これは俺でもつらいもんがある。


「っ………………」


太い木の枝の上にしゃがみこんで頭を抱える。

下を見れば目に痛い装飾品たち。

趣味じゃないかと聞かれれば、まあ悪くは無いとは思う。思うが、少し外れてる。

見る分には悪くないが自分で身に着けるかと言われたらな……


「っ……はぁ……」


確かに、俺は言った。

「ウサギは嫌だ」と全力で拒否した。

……あん時、あっさり「うん、分かった」と言うクロームをもっと問い詰めるべきだったと思う。

あとあいつの俺に対する認識を理解した。

多大な誤解を受けてることだけは痛く理解した。じゃなかったら嫌がらせの類に違いない。

一番の問題は格好じゃねぇ。

俺自身に付いてしまっている『付属品』だ。


「……………………」


ユラユラと揺れるそれ。見てたらうずうずしてきたので先端をひっつかむ。

……やっぱ、触感があった。飾り物じゃない。


「………悪夢だ………」


* * * *


真っ直ぐに、ひたすら真っ直ぐに進んで行く。

とっくに街並みは消えてどこかの森に入っている。

森の中は、夢だけあって不気味さは無い。

日の光がさんさんと降り注いでるし、リスやら小鳥やらウサギ――本物の――やらがぴょこぴょこいるせいかもしれない。

なかなか可愛い感じの森だ。やっぱクロームも女の子だもんなぁ〜……

森の中には赤茶のタイルが敷かれた道が続く。

なんとなく、これに沿って歩いて行けばいいんじゃないかと思う。

迷う心配もないし、急ぐわけでもないからのんびりと森の景色を楽しみながら歩く。

さっきまでは早く終わって欲しいと思ってたけど………これ、悪くないかも。


「……あ。」


てくてく歩いていると、森の終わりが見えてきた。

木々の隙間から見える建造物。目を凝らすと大きな二つの門が聳えている。

すんごい立派な、おはなしのお城とかについてそうな門だ。近くで見るとより凄い。

門扉の隙間から中を覗いてみると、城並みの大きさの建物があった。

天辺についてるのは、シルクハット。……ホテル、じゃないよな。なんかの店か会社……?

馬鹿でかいけど……なんの屋敷だ、あれ?あそこに山本がいるのかな……

確かめたいところだけど門は閉まってるし……

てか普通、こんな凄い門なら門番とかいそうなもんだけど誰もいないのも変じゃない?

明らかに不審者な俺が門に張り付いてるのに誰も見咎めないし。


「………夢とはいえ不用心過ぎる気がするけど。」


さて、どうしたものか。

ここは諦めて他を探すって手もあるけど、せめて地図みたいなものが欲しいんだよなぁ……

誰か通りかかったりすればいいん














カチリ。










慣れたくないのに聞き慣れ過ぎた音と後頭部に突きつけられた堅い感触。

思考も体も凍りついて動けない。迂闊に動けば命に関わる。

だって頭に押し付けられるこの感触は「家庭教師」によって日常と化している。


「ようやくお出ましか。」

「!」


こっ……………

この声、は………

ぐりぐりと頭に押し付けられた銃の感触よりも後ろに立っているであろう人間に戦慄が走る。



ふ、振り返りたくない……っ!!!!









続く…





←back■next→