DAY5:「相場」ラストスパート!





9/16 13:00頃。


カタカタカタカタカタ…


「雲雀、そこ違います!」

「ん?」

「悪霊の腕は右ではなく左腕!何回間違える気ですか!」

「あれ、そうだっけ。」


デスクトップから目を離し携帯でmixiの「日記を読む」から過去の「相場は夜と決まってる」を探す。

あ…ホントだ。


「うっかり。」

「してないで先を書け!急げ!」

「綱吉、この締め切り間近の編集者を黙らせて。」

「今俺も忙しいです…」


骸のノートパソコンから過去の「相場」を読み返し設定を練り書き出す作業をしている綱吉は振り向きもしない。

僕は仕方ないのでイヤホンを耳に突っ込み骸の声を遮断した。


3日間のツアーが終わり帰ってきた僕らは1日だけ休みを貰うことができた。

のんびりしようと思っていたんだけどサイト拍手に来た一つのコメントのお陰でそれがパァになってしまった。


『サイト更新まだですか(汗)』


この一言を見た骸が「何が何でも明日(9/16)中に「相場」を完結させる」ってやる気になっちゃってね…

こうやって三人で締め切り間近の漫画家みたいなことになってるってわけ。


「綱吉くん、封印の欠片二つ目は。」

「填めないで。そこで一回邪魔が入ってピンチ、で一回切って。次、最終話。その冒頭で封印完成させる。」

「ってよ。どうするの。」

「…人体模型を使いましょう。そこで間に合わないと諦めかけて、ヒバードの鳴き声ではっとする、という内容で。」

「分かった。」


設定・話の方向を決めるのが綱吉、細かいネタを挟んで文の訂正をするのが骸、形にするのが僕の役目。

まあ、いつもじゃないけどね。

後編3を終わらせて新しいメールタイトルに「最終話」と打ち込む。


「窓ぺったんは意外な設定だね。始めに綱吉追わせたのは伏線だったの?」

「いえ、その時思いつきました。」

「…また君は突拍子も無い…」

「苦情は後!!ほら、骸は矛盾する話繋げて。」

「くっ…僕が一番貧乏くじを引いている気がする…!」


あながち間違ってないよ、それ。

綱吉の設定は本当に突拍子無いから最初と最後で食い違うところが出てくる。

それをどうにか繋がるようにネタを出すんだから一番苦労してるのは多分あいつだ。


カタカタカタカタカタカタ…


「でさ、骸。」

「なんですか。」

「先生なんだけど実は雲雀さんの親戚って設定にしたいんだよね。」

「は!?」

「大丈夫だよ!ちゃんと繋がる設定考えたから!」

「…聞きましょう。」


僕が嬉々として戦闘シーンを書いている間、後ろで綱吉と骸がラストの打ち合わせをしている。

…まあ、それほど書くのは苦じゃない内容だ。安心した。


「どう?」

「…まあいいでしょう。」

「で先生の名前なんだけどさ。雲雀さんの名前と似たのにしようかと思ったけどそれも面白く無いでしょう?」

「恭子は止めてよ。」

「分かってますよ!」


パラパラと漢和辞典を開いて骸が唸る。

僕はとりあえず「恭」が使われなきゃいいや。他人の真似は御免だよ。


「夏は…「か」とも読むんですね。」

「骸?」

「そうですね、「夏奈子」なんてどうでしょう。年代的にもおかしくは無いのでは?」

「どうですか。」

「悪くないね。」


メモ帳に「夏奈子」と書き込む。

さて、本編だ。全て封じて先生と別れのシーン。


「これ、最後綱吉くんが先生の正体に気づいた方がいいんじゃないですか?」

「このままさよならしても薄っぺらいよね。」

「任せます〜、俺後日談で今手一杯です…」


一話を読み返しながら目を擦る綱吉。

君ずっと画面見てるもんね…

最終話は骸と話して書いていく。大筋はもう決まってたから余計なことは書かず僕と綱吉が校門を出たところで終わらせる。


「後日談は?」

「僕が書きます。綱吉くんは後書きを。」

「僕は。」

「マックへ昼を買いにGO!」

「正気?」

「大いに。」


今度はパシリか。

僕が見るからに嫌そうな顔をしていると「冗談です」と骸が手を振った。


「でも空腹なのは事実ですが。」

「じゃあ息抜きに外行きましょうか。」


急に元気になった綱吉の提案で僕らは外に昼食に出ることにした。










昼過ぎのマックは結構人で溢れてる。

僕らは注文前に隅のテーブルを占拠しておく。


「三人で行くことも無いでしょう。僕が買ってきますよ。何にしますか。」

「月見セット!コーラで。あとシャカシャカポテトのチーズ。」

「チキンフィレオ。ポテトLでqooがいい。」


骸がレジに向かうのを見送って綱吉がノートパソコンを開く。だかだかとキーボードを打つ姿は真剣そのものだ。

僕もやるか…

携帯からメールでさっき転送した「最終話」を読み返す。


「…綱吉。」

「なんですか?」

「今気付いたんだけど悪霊の左腕と鎌片方はどうしたの。」

「あ!」


綱吉がしまったという顔で僕を見る。

気持ちは分かる。今更完成した文にそのネタを差し挟むとなるとまた500文字は膨らんでしまう。

ぶっちゃけ書き直すの面倒臭い。


「後日談に入れれば?」

「…そうします。」


カタカタカタカタ…


「捗ってます?」

「「ぼちぼち。」」


盆を二つ持って骸が戻ってきた。こんもりと食料の乗ったそれを置くと綱吉の隣に腰を降ろした。


「どこまで行きました?」

「まだ全然。やっと先生の話になったとこ。」

「後はやりますよ。先に食べててください。」

「うん、ありがと。」


ポテトをパクつきながらまた携帯でmixiを開く。日記の返事もしないとね。

…ん。座敷童の正解者は無し、と。まあ世の中はくだらない事項で溢れているからね。知らなくても生きていけるよ。

カチカチとやっているとバーガーにかぷついたまま綱吉が携帯を覗き込んできた。


「日記ですか?」

「うん。」

「ついでにサイト拍手の返事もしてくれると助かるのですが。」

「それは君担当だろ。」


まあ返事も楽しいけどね。今は指が疲れたよ。

それにこいつの方が文章を打つのは早いし。

現に僕が返事書いてる間に後日談を終わらせてしまったし。


「早っ!」

「これくらい、ね?」

「この調子で残りの連載もよろしく。」

「それは無いでしょう…」


骸がうんざりした顔でシェイク(勿論チョコ味)に手を伸ばす。


さて、「相場」も完結したことだし。

僕らは顔を見合わせると頷き合った。綱吉がぴょこんと立ち上がる。


「ここを見てくれている人達にだけ「相場」本編で説明しきれなかったネタ解説をします。」

「まずは職員室で綱吉くんと偽雲雀が会った悪霊。あれは影です。
夏奈子教諭が言っていましたが悪霊の本体は鎌に宿っています。なので同時に二人の悪霊が存在できたのです。」

「それと職員室でなった電話。これは外から僕がかけてたんだ。綱吉の携帯は圏外にされてたからね。」

「ヒバードが音楽室に入れたのは先生のお陰。作中でヒバードの呼ぶ「ヒバリ」はほとんど先生の事。俺が見えてない時もヒバードにはずっと先生が見えてたんだ。」

「途中で偽雲雀が二回居なくなって居ましたがあれは雲雀が学校内に入ってきたのを迎え撃っていたからです。怪我もそれが理由ですね。」

「綱吉が手洗い場で見た悪霊、あれは多分あいつも予想外だった筈。あいつ自身も知らなかったけど鏡に写ると悪霊は本性が写り込むんだ。」

「そしてヒバードが悪霊の正体を知りながらずっととぼけていた理由。」

「時間稼ぎ、ですね。本物の雲雀が着くまでの。」

「そう。でも悪霊が俺を殺そうとしたから雲雀さんが追いつく前に暴くことになっちゃったんだ。」

「本当に賢い子だよ。綱吉も見習って。」

「ぐ…」


まあ、こんなとこかな。すっきりした。

僕はポテトの最後の一本をくわえた。


「ところで雲雀。」

「何。」

「結局ホラー駄目なんですか、平気なんですか。」

「それはさぁ…」







企業秘密だよ。当たり前じゃない。






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※当たり前ですが実際は私一人で作業してます。
そしてオンラインのパソコンなんてヴァリアークオリティなものを当時は持ってなかったので全部携帯でやってました。












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