DAY3:突然ですが





「明日から実家に帰らせてもらいます。」

「………………………………………はあ!?」


うつらうつらと船を漕いでいた綱吉くんが飛び起きた。いい反応だ。


「い、いいいいきなりなに…!?」

「クフフフフ。」

「あ、お前その笑い方、さては冗談…」

「おおマジです。」


にっこり笑って言うと綱吉くんが疑いの目を向けてきた。

今日は最寄りのホールにて1日飼い殺しのとても退屈な現場だ。

朝8時半入りしてはじめに簡単な仕込みをしたらあとは夜8時までひたすら待ち。

三人で一時間ごとに交代で照明を操作する卓についているが特に操作することもなく暇で仕方がない。

僕は適当にちゃかちゃかと背景の光の色を変えながら携帯を指差す。


「今気がついたんですが僕、明日から25まで休みなんですよ。」

「連休?やったじゃん。」

「なので実家に…」

「お前の実家ってどこだよ!黒曜?隣町だろ、休みじゃなくても帰れるだろ!」

「違うよ、木更津だよ。」

「「どわっ!!」」


ぬっ、と僕らの間から頭を出す雲雀。

君今までそこのソファーで爆睡してたはず…


「起きてるなら起きてるって言ってくださいよ!」

「なんだい、交代だから起きてあげたのに…文句あるならまた寝るよ。」

「あなたさっきから順番関係なく爆睡してるじゃないですか。」

「椅子に座って寝るのと横になって寝るのは違うんだよ。」

「同じだ!」

「…寝てることに変わりはないのでは。」


僕らのツッコミもどこ吹く風で雲雀は卓の前に陣取ると大あくびをした。

僕と後ろに追いやられた綱吉くんがくいくいと袖を引く。


「骸、木更津帰っちゃうの?」

「はい。ですが4日間だけですよ。」

「……俺も行く。」


むう、と唸り綱吉くんがそう呟いた。

驚いたのは僕だ。彼もここのところ働き詰めだった。折角の休み、体を休め無くては。彼も疲れているのに。

僕が彼を諭そうと口を開くと違う方向からこれまた驚く言葉が飛んできた。


「僕も行く。」

「何故。」

「わんこ見たい。」

「写真ありますよ。」

「黒いのと茶色のわふわふ…」

「来るな。」


実家には犬が二匹いる。

そういえば以前愛犬を待ち受けにしていたら雲雀がキラキラした目で見てたな…

まだ覚えていたか…


「…と言っても来るんでしょうね…仕方ない。いいですよ…」

「やった♪」

「夕飯はハンバーグか寿司でよろしく。」

「庭で狸と戯れてろ。」


どこまでも図々しい男だ。実家では大人しくしていてくれ…るわけないな。

被害収縮を計らなくては。


「ねねっ、骸の家行ったら犬撫でていい?」

「いいですけど…押し倒されないように気をつけてくださいね。茶色の方が全ての意味でアグレッシブなので。」

「大丈夫!!慣れてるから…」


あ、またなんか魚の目してる。


「ところで骸の家には狸が出るの?」

「違いますよ。月夜に庭に狸が出ると有名な寺が木更津にあるもので。」

「証城寺だろ。」

「!よく知ってますね。」


童謡としては有名だが寺が何処にあるかはあまり知られていないのに。

雲雀は億劫そうにステージを暗転させるとこちらを向く。


「狸可愛い。」

「…君言葉のキャッチボールする気はありますか。」

「綱吉に垂れ目そっくり。」

「え。」

「それは同意見ですが。」


インカムから声がする。雲雀はステージに目を戻すと明かりを入れる。

もう振り返らないということは雲雀の中で会話は終わったことになっているようだ。

「会話」だったのか謎だが。


「明日何時?」

「決めてません。こちらでやりたいこともありますし。」

「…ふあ〜」

「休み空けの予定は聞いてますか?」

「あ〜ふ…」

「メッセ。骸と一緒。」

「ふあああ〜…」

「……………」

「……………」

「ふあ…」


欠伸を繰り返す雲雀の頭に油性ペンを投げつける。


「寝るな。仕事しろ。」

「僕の仕事は寝る・食べる・暴力だから。」


…久しぶりに拳で人を殴りたくなった。












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