第二話






「作りもの…?」

「他に言いようがないんです。

童話の世界と呼んでもいいけれど。多分作りものの方があっていると思うので。」


アリスの足元に白い二足歩行の兎が立っている。

普通のより大分大きい。一丁前に燕尾服なんか着ていて可愛い。

それがぴょんこぴょんこ俺の周りを飛び回る。


「うん、現実の人だ。そういう匂いがします。」

「じゃあ、貴方達に頼むのがいいわね。」


アリスと白兎は二人(?)で納得している。
何の話?

どうなっているのかイマイチ分からず立ち尽くしていると白兎にズボンをぐいぐいと引っ張られた。

骸もアリスに腕を引かれている。


「さあ、そうと決まれば急ぎましょう!!」

「早く探しに行かないと!」

「え、ちょ…っ」

「待ちなさい、訳が分かりません!まず説明しなさい!」


骸が引っ張られまいと腕を引きながら声を荒げた。

それにきょとんとした顔でアリスが目を瞬かせる。


「説明?貴方達、分かっててここに来たんじゃないの?」

「何がなんだかさっぱり」

「突然こちらに放り込まれたもので。」

「狼を探しに行くんです。」


ぴょこぴょこと飛び跳ねながら兎がキィキィと叫ぶ。

元気なヤツだなぁ…疲れないのかなぁ…


「世界の隙間に落ちた狼を探して欲しいんです!

アリスしか出来ないけどアリスもここの住人だから世界を飛ぶと困るんです!」

「「?」」


なんか必死に訴えているのは分かるんだけど意味がさっぱり…?

アリスと狼??関連が無い気がするんだけど…

世界の隙間とかちんぷんかんぷんだ。

骸も眉根を寄せて首を捻っている。


「…ごめんなさい。

この世界、みんなこんなだから私は慣れたけど…意味が分からないでしょう。」

「ええ。どうやら説明は君に頼んだ方が良さそうだ。」

「ここは現実の世界で書かれた物語の世界なの。

その中でも…例えば「白雪姫」の領域、

「シンデレラ」の領域と言うように話毎に領域が区切られていて、他の領域と交わることはめったにないの。

でも例外のキャラクターも存在してそのキャラクターは好きに別の領域に行く事が出来るのよ。

例えば、私の様に現実に明確なモデルが存在するキャラクターだったり、狼の様に様々な話に登場するキャラクターだったり。」


そう言えば聞いたことある。

不思議の国のアリスはアリス=リデルっていうモデルの女の子が居たって。


「世界の隙間って言うのは?」

「領域から領域へ移動する狭間は何もないの。そこに落ちるとどこの領域に飛ばされるか…

普通はそれでも直ぐに元の世界に戻ればなんともないんだけど、狼は何かあったのかどこの自分の領域にも戻ってなくて。」

「もしや、挿し絵がおかしかったのは…」

「狼が世界から消えてしまったからよ。

今は絵だけだけどこのまま狼が戻らないと次は文章から狼の名が消えるわ。

狼が消えた話は滅茶苦茶になる。

他の話にも歪みは広がり、そしてこの世界が崩壊する。」

「待って待って!」


な、なんかお話みたいな展開に…いやお話だけど!

なんで狼が消えただけでそんな大騒動に!?

兎がぴょんと飛びついてきたのを抱き止める。

彼は丸い瞳で俺を見つめ真面目な顔で話し始める。


「それは狼がこの世界に必要不可欠な存在だからです。

狼がどれだけの話に現れるか、国境を越えてどれだけの悪を表してきたか、あなた方は知っていますか?

少女を虜にした世界の姫君達も、少年の心を掴んで話さない主人公達、どんな人気のキャラクターも彼にはかないません。」

「読者に嫌われる悪。でもそれが無くてはお話にならない。

だから私の所に狼探しの話が来たの。私も世界を渡れるキャラクターだから。でも問題があって…」

「問題?」

「私がこの領域から出ると狼と同じになっちゃうの。挿し絵から私が消えて…さっき言った通りに。

それに私の場合挿し絵から消えた時点で大事になるの。」


そうか。

お話の主人公消えたらもっと大騒ぎだよなぁ…


「だからお願い!貴方達に狼を探して欲しいの。」

「アリスと同じ世界の人なら、領域を好きに行き来できるんです!」

「そう言われても…」


ちらりと見ると骸は話を聞いているのかいないのか、空を見たまま黙っている。

俺は、馴染みあるお話の世界に来られて、キャラクター達にも会えて嬉しいし、困ってるなら助けてあげたい。

でも骸はどうなんだろ?嫌なら無理矢理巻き込めないけど…

でも俺一人で出来る事なんてたかがしれてるし…

そう思っていると骸が自然な動作で視線を俺に寄越す。目が会うとニコ〜っと笑う。

…なんですか。


「いいですよ。僕は探してあげても。」

「へ!?」


意外だ。「くだらない」とか言うと思ってたのに。

骸はしかし芝居がかった悲しそうな表情をし、俺の肩に触れる。


「僕はいいのですが主が何と言うか…彼が駄目だと言うなら僕は従うしかありません。」

「は!?」


なんだそのフリは!!

そんなこと言うから…ほらなんか至近距離から小動物の眼差し攻撃が…!!

そんな目で見ないで!!俺が悪者みたいじゃないか!!

本物の兎だから尚質悪い!!耳までしなだれて…

くそう、フゥ太といい!!なんなんだ!!


「探してください。お願いします〜…」

「分かった。分かったから!!ウルウルしないで!泣かないで!!」


きゅぴんと耳が立つ。

…分かりやすい。可愛いけど。

兎は喜んで俺の腕から飛び降りるとアリスの周りをピョンコピョンコ飛び跳ねる。

アリスも嬉しそうだ。


「ありがと。良かった。」

「礼には及びません。」


お前が言うな。








続く…





←back■next→