第四話 「狩る…やっぱさっきのは聞き間違いじゃなかったのかよ。」 「安心するといい。生け捕りです。」 「当たり前だ!!」 話成り立たないっての!! こいつ…穏便に話終わらせてくれる気あるのか… 「さて、では王子の行動を探りますか。 引きこもりならば引きずりだして連れて行けばいいだけですけど。」 「あ、待てよ!」 ぶつぶつ呟きながら足早に武器庫から出ていく骸。 追いかけようとしてふと棚にかかった剣類が目に入る。 …そういえば、俺何も持ってないな。 骸はいざとなればあのトライデントがあるけど、俺はリボーンいないし… 「…………」 俺は少し悩んで大振りの狩猟ナイフを手に取る。 童話の住人を傷付けることはしたくないけど、持っていくべきだと何か予感めいたものが頭の中で囁いている。 俺はブレザーに隠れるように背中側のベルトにそれをねじ込み、武器庫を後にした。 骸は…と、いた。 小走りで先を行く長身に追いつく。 「骸、お前早い…」 「綱吉くん。」 「ん?」 「時計。時間がないので移動します。」 「どこに。」 内ポケットから鎖を引き出す。 金色の時計を手のひらに乗せて差し出せば骸が手を重ねてくる。 「厩舎に。行きますよ!」 瞬きの間に景色が変わる。 思いたったら即だな… なんか、白兎が時計くれた時になんで俺に「絶対にあなたが持っててください」て言ってたのかが分かる。 こいつ一人で動き回って俺絶対置いてかれる。 今も骸はキョロキョロと厩舎の中を見回してウロウロしてる。 …何探してるんだ。 「馬を一頭失敬します。」 「はあ!?なんで馬泥棒!?」 「借りるだけです、人聞きの悪い。 必要になるからに決まっているでしょう。 王子連れて瞬間移動は出来ません。」 「あ、そうか。」 時計は登場人物には効かないって言ってたなそういえば… 一頭一頭に触れていき、骸は灰色の馬を選んだ。 「ふむ。彼にしましょう。 さて、綱吉くん。僕は今からこの馬の準備をします。」 「うん。」 「なのでその間に一仕事片付けてきてもらえますか。」 「…なに。」 ずい、とロープを押し付けられ、そしてあの三つ叉の短剣をそっと手渡された。 骸はとてもいい顔で笑う。 「背後から忍び寄ってこれで縛って動けなくした後ぷっすり。 それだけでいいんです。」 「誰を。」 「王子を。」 「できるか!」 「あ、死なない程度でいいんですよ?」 「良くねぇよ。」 「乗っ取った方が簡単ですし。」 「過程が難題だ。」 それにお前が王子になってどうすんだよ… そう言ったら「湖ついたら戻りますよ」と返された。 でもなぁ… 「確かに担いでいくよりは効率的だけどさぁ…怪我させんのは…」 「ぷっすりは冗談です。かすり傷でいいんです。この話が終われば傷は消えますよ。」 「…………」 「ほら急いでください、夜になっちゃいますよ?」 「…分かったよ」 他にいい案なんて浮かばないし。 時計を握り締め「城のどこかにいる王子の元へ」と呟く。 また瞬きの間に景色が変わった。 「…どこだここ。」 城の構造なんて分からないけど…映画や絵本で見た感じからいって…城の入り口かな…? 大きな広間に豪奢な扉、そして赤い絨毯の敷かれたバカでかい階段。 誰もいない…王子のところにって言ったのになぁ… 「!」 話し声がする。誰か来た! 俺は慌てて階段の影に隠れる。 「…だからさ、今から行かないか。」 「しかし主役が抜け出したとあっては…」 「大丈夫だって、ジーク!」 ジーク。 確か、白鳥の王子の名前はジークフリートだった! 俺は手すりの隙間から階段を降りてくる人物達を覗き見る。 赤やら紫やらの色とりどりの服を身につける少年の中で、一人だけ真っ白な服を来た如何にも王子な雰囲気の人物。 彼か… でも周り6人いるし…あの中に飛び込んでも傷つける前に取り押さえられちゃうよ… 王子一人になってくれないかなぁ… 俺はジリジリしながらしばらく様子を見ることにした。 「ぱーっと行って夜になる前に帰れば舞踏会には間に合うだろ。」 「皆で会える機会も最近は減ってしまいましたし…」 「雪が降ったらみんな獲物冬眠するしさ。」 「この祝いの席でジークの狩りの成果をご覧になれば女王陛下だってお喜びになるに違いないって!」 「!」 そうか、狩りだ。 王子は友人達と白鳥狩りに行って、そんでオデットに会うんだよな… 彼が湖に来なかったのは狩りに出なかったからかな?今も乗り気じゃ無さそうだし。 こうなったら何が何でも王子と契約して… 「分かった、行こう。」 ん? あれ…承諾、した…? 友人達は「そうこなくちゃ!」と王子の肩を叩いている。 俺は肩透かしを食らったような気分になった。 なんだ。行くならそれで問題ないや。 でもなんで湖に来なかったんだ?事故?そうなら先回りして原因をなくさないと。 って俺が一人で悩んでもしょうがない…骸のとこに一回戻ろう。 俺はそろりと階段から離れる。 「どこを狩り場にする気だ?」 「祝い事に相応しい獲物がいいよなぁ…」 「鷹…いや白鳥が陛下はお好きだったよな。生け捕りにして」 「いや。それよりもっと素晴らしい獲物がいますよ。」 ん? …なんか雲行きが怪しくなってきた… 俺は元いた場所に戻るとまた手すりの隙間から彼らを覗き見た。 「森に出没している人喰い狼。これを仕留めて殿下の武勇伝に加えられては?」 「おお!いいなそれ!」 「湖やめて森にしようか。」 「ジーク、どうする?」 王子は少し悩んでいたが友人達の視線を受けて縦に首を振った。 俺はあんぐりて口を開けて呆けてしまう。 …歪みって…そういうことなんだ…!! * * * * 「隊長、任務失敗しました。」 「君、以外と余裕ありますね。」 敬礼してそうのたまう少年に笑ってしまった。 まあいい。正直他人を傷つけることなど彼に出来るとは思ってはいなかった。 ただ王子がどこにいるのか見張りが欲しかっただけだ。計画に支障はない。 ……と思っていたのだが綱吉くんが持ってきた報告に僕は頭が痛くなってしまった。 「なる程。何故狼が原因で話が歪むのかと思っていましたが…納得です。」 「だろ。止めようにも王子は取り巻き達とずっと行動してるから近づく隙もないし。」 「仕方ありません。先回りしてそこを捕まえましょう。」 森なら障害物も多い。罠も張りやすい。 それに連れが一人消えてもなかなか気付かないだろう。 厩から空を見上げる。陰ってきた…急がなければ。 鐙に足をかけ馬に跨る。そして綱吉くんを引き揚げようと手を差し出す。 「さ、綱吉くん。」 「う、うん。」 片腕を引き、腰を捕らえて自分の前に跨らせる。 後ろに乗せたらいつの間にか落ちてそうですからね… 彼の両脇から手を伸ばし手綱を握る。 「骸、馬乗れるんだね。」 「脱獄後に逃走する時便利でして。」 「だつっ…いやお前らしいか……」 厩を出て馬を軽く走らせる。 久々ですが…まあいけそうですね。 「背景知らなきゃ王子そのものなんだけどなぁ…」 「何の話ですか。」 「さっきお前が手、差し出した時に白馬の王子様に憧れる女の子の気持ちがちょっと分かった気がした。」 「ほう、ときめきましたか。」 「男になんかときめくか。ちょっとぽわっとしただけだよ。」 「……………」 頬を染めて反抗的なセリフ。 …抱き締めてやろうか、この無自覚生物。 多分驚いて落馬するでしょうが。 実際にやりたくなったがそれは時間がある時にからかうネタとしてとっておこう。 「森まで飛ばします。舌噛まないよう黙っててくださいね。振り落とされないでくださいよ!」 続く… |