第十八話 「骸…次会ったらまずぶん殴ってやる…」 百合の痣が薄くなってる。 お陰で体の自由はきくようになった。 けど。 「腰が痛くて動けないっつの…!」 あの野郎…絶対途中から目的忘れてやがったな… 命さんの術を相殺してくれたのはありがたいけど………………………いややっぱ良くない!! あいつの言葉責めといい表情といい…思い出すだけで恥ずかしいよっ!! 「うぐぐ…」 そろりとベッドから降りる。 痛いけど…動けないことはない。 そういえば…体もシーツも綺麗になってる… ……誰がやったのか分からないけど考えるのはやめよう… 見るとサイドボードに深緑の服が乗っていた。…着ろってこと? 広げてみると間違いなく俺用のサイズだ。 なんだっけ…中華風の…そう、アオザイ。 ノースリーブのぴっちりとしたアオザイと呼ばれる服だ。 これ命さんの趣味なのかな…。 あの人、いろいろ危ないからこれ着るのちょっとやだ…って言っても他に服無いんだけど… 「…………裸よりはマシか。」 下着までばっちり用意してあるのもなんかやだ…絶対あの人自分で用意しそうだもん…骸も変なトコ拘るって聞いてるし流石姉弟… がさごそと服を着込む。 「そういえば…」 骸はどうしたんだろ…大丈夫かな。あいつが捕まるとは思えないけど… 物思いに耽っていると扉をノックする音がした。 返事を待たずに開く扉。 「ああ、起きていたのですね、姫。」 「みこ…」 翻る赤いワンピース。 這い回るレザーの黒い手袋。 覗き込む二つの同じ美貌。 昨日の出来事が脳裏に鮮明に蘇る。顔に熱が集まるのが自分でも分かる。 …直視できない。 俺は顔を覆って命さんに背を向けた。 なんで平然としていられるの、恥じらいとかないの、この人。 俺だけ、こんな恥ずかしいのは!! あ〜!!余計な事まで思い出した!!!! 命さん、俺と骸が…し、してるのも確か… 「どうしました?腰が辛いのですか?」 「い、いえっ…」 「…何故逃げるの?」 恥ずかしいからですよ…!! 何で平気なのこの人!!日本人じゃないから!? 「無理しないで…全くあの男ときたら自身の大きさも考えずに獣のように姫を…」 「ぎゃー!!聞きたくない!!やめて!忘れて!」 そして女の人がそういう発言しないで!!居たたまれない!! 耳を塞いでしゃがみこんでいるとひょいと抱え上げられてベッドに乗せられた。 「今日は寝ているといいですよ。ゆっくり休んでください。」 「……命さん、骸…は?」 「逃げました。」 忌々しげに髪をかきあげる右腕に昨日は無かった包帯が巻かれていた。 紫のチャイナドレスのスリットから覗く足にも包帯が巻かれている。 「それ…」 「ちょっと姉弟喧嘩をしてしまいまして。あの男…僕を騙すなんて…」 ギリっと親指の爪を噛む命さん。 にこやかな時はあんま似てないけどこういう顔してると骸とホントそっくり。 言うと怖いから黙っとこう… そろそろと布団に潜り込む。 今日は何かされることも無さそうだ…されても逃げられないけど… どこか分からない外国の屋敷。骸もどこかにいる筈だけど…心細い。 こんなことなら骸から国名だけでも聞き出しておけば良かった。 何が変わるわけでも無いけれど自分のいる場所が分かれば不安も少しは無くなるのに… ころんと横になれば命さんが手を伸ばして髪を撫でる。 これ好きだよなぁ、この人…俺の髪って触り心地がいいのかな? 「…姫は、僕とするより骸とする方が気持ちいいですか?」 「んな!?」 また、この人は。 凄く真面目な顔なのが質悪い… 俺は赤い顔を見られたくなくて目の下までシーツを被る。 「そんなこと、聞かないでください…」 「何故?とても良さそうでしたよ。可愛らしい声で鳴いて…」 「お、思い出させないでください!!」 やだ、もう!!すっごく恥ずかしいよ!!そんなの知らない! 二人掛かりであんなこと…! 命さんに背を向けて丸くなる。 なんで俺がこんな目に…日常に帰りたい…! 「!」 シーツの上から回された腕。肩に軽い重みと長い髪が掛かる。 「嫌…嫌です…」 「命さん?」 甘えるように俺の肩に顔を擦り付ける。 腕の力を強めて泣きそうな声をだす命さん。 「骸なんて…なんで骸なの…同じなのに…」 「命…さん?」 「姫、僕にして。僕を選んで。あいつはただの仲間何でしょう?」 「痛っ…!」 「僕…私では駄目なの?ねえ…姫。」 「痛い…っ腕、緩めて…!」 ギリギリと体に回る腕の締め付けがきつくなっていく。 どうしちゃったの…おかしいよ、命さん…! 「あ…ああっ…!!」 「姫はあいつと戦ったときも私を始めに心配してくれたじゃない…骸より先に…とても嬉しかったのよ。」 「あ…あぐ…」 骨が…嫌な軋み方してる… 苦しい。 痛い…痛い…っ!! やだ…折れる…怖い!! 「…ろっ…」 「姫?」 「くろっ、骸!」 「!!」 「やだっ、むく、ん!」 「煩い…」 覆われる口。腕の締め付けが止んだ。 でも、静かな怒りを感じる… 視界が揺れた。仰向けにされて、俺の上に馬乗りになる命さん。 瑠璃の瞳が凍てついた光を湛える。 「それが…答え?綱吉…」 スルリと手が外れる。でも、声なんか出せる筈もない。 白い冷たい手がゆっくりと降りていく。 「そう……骸がいいの。」 首を、撫でられる。いつの間にか両手をそこに添えられていた。 徐々にかかる圧力。潰される気管。 「………っぁ………」 「綱吉が悪いのですよ…悪い子はおしおきしないと……」 「あっ…く…っ…」 「大丈夫。いい子になったらやめてあげるから…」 ふわりと笑う人に俺は手を伸ばす。 力が増した。手が届く前に、俺の意識は闇に落ちてしまった。 続く… |