第六話









『いいですか。なるべく命には近づかないこと。痣が輝き出したら危険です。

あいつに触れたらその日は必ず僕のところへ来なさい。

それから二人きりにはならないこと。

あれを女と思うな。僕と全く同じ身体能力を持っています。

つまりどういうことか…説明せずとも戦った君は分かるでしょう?』


うん、よく分かってるよ。

分かってるけど。


「姫…何故逃げるのですか?」

「に、ににに逃げてなんか…」


無理だ骸…お前と同じ思考・行動力な時点で俺が命さんから逃げ切れる訳がない。

放課後、帰ろうとしたら怖い「二ノ宮先輩親衛隊」な女子に取り囲まれた。

獄寺くんが乱入してきたどさくさで逃げ出したけど校舎出る寸前にご本人に捕まりました…

壁に追いつめられて足の間に膝を差し込まれ。

何。このシチュエーション!?


「昨日の事を怒っているのですか?」

「い、いえ…」

「どうすれば許してくれます?ね…教えて、姫…」


自然な動作で手を掬われた。そして甲に唇を落とされる。

驚いていたら更に密着する体。

〜〜!?!!

命さ〜ん、ここ廊下ぁ〜!!

間近にある骸と同じ秀麗な顔と頬にかかる吐息に俺は耐えられず顔を逸らす。

耳元でクスリと笑う声。


「心臓の音、凄いですね。姫…あの男とは、どういう関係?」

「かん、けいですか。」

「友達?それとも…恋人、とか。」


何言い出すんだ〜!!!!


「それはないですっ!!」

「そう?でも…ならどうして隠すのですか?」

「命さん…あいつを殺しに来たって…あいつはどう思ってるか分からないけど。

…俺は、あいつを仲間だと思ってるから。

だから死なせたくないんです。」


骸はなんだかんだいいながら助けてくれる。

そこに打算があっても。

俺はただ嬉しかったから。

突然ぎり、と命さんの手の力が強くなった。


「ただの仲間…?嘘。そんなはずはない。」

「命さん…?」

「姫。ねえ…僕の目を見てください。」


するりと頬に伸びた手に誘導されて顔を上げた。

瑠璃の双眸が不思議な光を放つ。

凄い、綺麗…

至近距離で見れば判る。この人は女性ならではの美しさがある。

不思議な事にそれは骸にも感じられて…人間離れした雰囲気は二人とも同じだ。


「命さん…なんで、姫なんですか?俺は男…」

「質問するのは僕です。」


冷たい声。

前にこれと似たようなやりとりを骸としたっけ。

目が反らせない。引きつけられる。


「そう、力を抜いて。いい子ですね…さあ、答えて?姫は、骸とはどういう関係?」

「仲、間…」

「……そうですか。まあいい。後でそれは確かめてあげる。」


口が勝手に開く。胸に熱が集中していく。

これ、ヤバい!!俺操られてる!?

無理矢理顔を逸らし目を瞑る。

ダメだ、流されたら!


「骸はどこに?教えて…?」

「い、言わない!」

「ひ〜め。こちらを向いて?ほら、目を開けなさい。」

「いやです…!」

「僕の言うことが聞けないのですか?さあ。つらいでしょう、抵抗しないで。」


あ、痣が。痣が凄く熱い…!!

命さんが何か言う度にその通りに動きそうになる体を気力で抑えこむ。

分かる。

骸の力と命さんの力がぶつかり合ってるんだ…!!だからこんなに熱い。


「…姫。またあの男に会いましたね?波動が強くなっている…この学校にいるのですか?言いなさい。」

「いやだ、言わない…!」

「言いなさい。骸はどこに?」

「駄目だ…!」


視界がボケる。

立ってられない…

胸の痣が発火しそうな程熱い。

骸の痣が負ける…駄目だ…そんなの駄目だ!!


「強情ですね。もういい。」


胸倉を捕まれ崩おれかけている体を無理矢理引き上げられる。


「骸は後にしましょう。先ずは貴方から…」


すぐ、側にニィ、と笑う顔。

悪寒。でも今度は突き飛ばす体力もない。


「お や す み 、 姫 …」









続く…





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