第七話









男は嫌い。


母を利用した。

柔らかくないし、匂いもよくない。

私を見る目が気に食わない。

皮が美しくても中身は同じ。

私を崇める姿も嫌。


例外は二人だけ。

そして欲しいのは一人だけ。

それが今。


広い自室にあるベッドに腕の中で眠る子どもを横たえる華奢な体。

髪に顔を埋めればまだ幼い甘い香り。

己と同色のキャラメルブラウンの髪。

今は閉じられている瞼の中の貴石の輝きの飴色の瞳。

滑らかな象牙の肌。


「綺麗…」


この子を形成する全てが愛おしい。

纏うものを一つ一つ丁寧に脱がせる。

一糸纏わぬ姿になった少年の胸に指を滑らせる。

真珠のような光沢を放つ百合。

醜い鳥の姿は跡形もない。

もう、この子は私のもの…あれには渡さない。

この私から、お前が奪えるものなどあるものか。


* * * *


「起きてください。」

「ん…」


いやだ…起きたくない…

起きてしまったら…何か大事なものが無くなる気がする。


「姫、起きて…」


でもあの声には逆らえない。

目を開く。

体が重い…ここは、どこ?

髪を梳かれる感触。見上げれば見慣れた男の…や、違う。この人はあいつじゃない。

体を起こそうとして気付く。

俺っ、何も着てない!?

恥ずかしくてシーツで体を隠す。

なんで!?なんで裸なの、俺!


「隠さないで…綺麗なのに。」

「命、さん…?」


シーツを取られそうになって俺はあわててそれを掴んだ。

恥ずかしい…!!

命さんはそんな俺を見て笑うとまた髪を梳き始めた。


「可愛い…裸が恥ずかしいの?でもダメですよ…『全部見せなさい』」

「え…?」


命さんの言葉が終わると俺の体は勝手に動いた。シーツを掴んでいた指の力が抜ける。


「隠す必要も無いでしょう?姫はこれから僕のものになるんですから。さあ、姫。

『僕を脱がせてください。』」

「あ…」


手が勝手に…命さんの服にかかる。シャツとジーンズ姿の命さんはそれを優しい目で見てる…

なんで、こんなこと。

戸惑う俺を余所に手はシャツのボタンを一つづつ外していく。


「や、やめて命さん!!何をしたんですか!?嫌だ、こんな…!!」

「怖いのですか?大丈夫ですよ…」

「いやだ、やめて…やめてください…!!」


俺の意志に反して手は彼女のシャツを床に落とす。露わになる下着姿。

やだ…やだ…!!こんなの…!!

頬を涙が伝う。

意志と命令に阻まれて手がガクガクと震える。


「やはり、まだ無理なようですね。…その方が僕には好都合ですが。

いいでしょう、姫はただ身を委ねてくれればいい…」

「あ!」


強引にベッドに組み敷かれる。じわり、と胸から熱が全身に広がっていく。

これ…この感覚、覚えがある…

痣を見ると鴉の姿は無く、百合が誇らしげに輝いている。


「美しいでしょう?姫の体にはやはり百合が似合う…」


そこに唇を寄せる。また、発火するような熱さが起こる。


「あ…あああああ!!!!」

「苦しいですか?少し我慢してくださいね…直ぐに楽にしてあげる…」


耳元でそう囁くと唇が首筋を通り鎖骨、胸と降りてくる。

それに応じてするりと下がる右手。俺の体をなぞりながら徐々に下半身へと…


「み、こと、さ…何…」

「大丈夫。気持ち良くなるだけですから…」




































「その子を離して頂きましょう、姉上。」


今、一番聞きたかった声。

涙で視界が良くないけれど見間違うわけない!


「骸!!」



* * * *


渡さない。渡すものか。

その子は僕のものだ。



悲鳴のような声で僕を呼ぶ綱吉君。

全く…いくら僕と同じとはいえ…女性に組み敷かれるなんて弱すぎです。



「お久しぶり、弟君。」

「何年振りでしょうか。それにしても扇情的なお姿ですね、姉上。」

「無粋な客のせいでね。」


シャツを拾い余裕の表情でそれを着る。

恥じらう様子もない。対したものだ。

綱吉君は力なく倒れ込んだまま荒い息をついている。

命に完全に体を支配されているのだろう。


「あっ!」


命が綱吉君の体を無理矢理引き起こし膝に横向に乗せる。

シーツで体は隠れているが恥ずかしいのだろう。

彼は俯いて小さく震えている。


「命、彼を離せ。」

「いや。お前には渡さない。」

「みこ、とさ…」

「ああ、姫。大丈夫ですよ…体が辛いのですね?」


歩み寄り小さな体を正面に向ける。

――痣が、ない。


「むく、ろ…」

「…だから気を付けろと言ったでしょう。」

「ごめ…」

「この子に悪知恵を付けていたのはやはり君か、骸。」

「んん!」


うなじに舌を這わされ身悶える綱吉君に愉しげな笑みを浮かべる女。

全くいい趣味だ…流石は僕の姉。


「悪知恵など。貴方こそこんな子どもに手を出すなんてね。」

「君も同じでしよう?」

「否定しませんが。」


まだ震えている綱吉君の胸に唇を付ける。

百合を中和させるための鴉を刻む。


「んん…!!骸、熱いっ…!!」

「我慢してください。その女に手篭めにされたくなかったらね。」

「酷い言われようだ。ねえ…姫。」

「ひゃうっ…!」


…どの口が言うか。

紫の鴉が刻まれたのを確認すると綱吉君の体を抱き上げる。

命に好き勝手いじられて綱吉君はすっかり息が上がっている。

痴女で訴えるか、こいつ…


「今日の所は諦めましょう。どうぞ姫は連れ帰ってくれていいですよ。

君の居場所も分かった事ですし。

…それ黒曜の制服ですね。まさか隣町にいたとは。」

「言われずとも退散しますよ…」


命は立ち上がると縮こまっている綱吉君の頭を撫でる。


「姫…また、明日。」









続く…





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