第三話 …僕に噛みつくなんて、草食動物。 ゆっくり起き上がれば全力で走る小ネズミの後ろ姿。 やるね。でも今のはちょっとキタよ。 僕は落ちた学ランを拾うと瞬発力を最大限に生かして沢田を追う。 角を曲がると図書室の扉がしまった。 …ははあ。なる、ほど。 カラリ… 教室にはいると空気が変わったのを察知したのだろう、隠れて怯える獲物の気配。 さて…ドコにいるのかな。 わざとカツカツと靴音をさせて歩く。 息を潜めて隠れた小ネズミがこちらの一挙一動にビクビクするのは楽しい。 「…………」 日本史。 この区画で僕は立ち止まる。 思い切り本棚を蹴りつければ棚が一瞬傾ぐ。 向こう側の本がドサドサと落ちる音がする。 「ああっ!!」 …ビンゴ。 棚を回り込めばよろめきながら立ち上がる小ネズミ。 ハードカバーの本が降ってきたんだ、それなりのダメージは食らうだろう。 まだ逃げようとする小動物にとどめを刺そうと大股で歩み寄る。 と。 「!?」 ドオォ…ン…!! 僕が蹴ったのと逆の本棚が倒れてきた。 小動物と僕の間を阻むようにそれは横たわる。 僕が静止した瞬間を逃さず小ネズミは司書室に逃げ込む。 見れば棚の上にきっちりと結わえ付けられた鞭。 そういえばこの棚だけ下がスカスカだ。 これなら上に少し力を加えれば簡単に本棚が倒れる。 倒しやすい棚を見定めてここにいたのか。 全く…楽しいじゃないか、小動物。 ますます虐めるのが楽しみになったよ… にしても。 僕は手の中の武器を見下ろす。 …君は学校にこんなものを持ち込んでたのか…これ、あのイタリア人のじゃないか。 今度から持ち物検査きっちりしよう。 それに武器禁止って言ったはず。 …まあ直接攻撃してきたわけじゃないから今回は多目にみよう。 廊下をバタバタ走る音を追いかける。 だが角を曲がったところで忽然と小動物の姿が消えた。 「……ん?」 不自然に閉まった掃除用具入れ。 扉を開ける。 「ふぅん?こんなとこまで…」 ロッカーの下部分が押すと開く仕掛けになっている。 中はスロープになっているようだ。 僕は迷い無くそこに飛び込んだ。 滑り落ちた先は真っ暗だ。 手探りで確かめる。 どうやらスチール製のロッカーのようだ。 これは…服? なんとか蹴り開けるとそこは理科室だった。 さっきの服は白衣だったようだ。 小動物は、と…いた。 理科準備室へと窓づたいで入るところだった。 この校舎は全ての準備室が倉庫を兼ねているため基本的に外側からの鍵しかついていない。 内側からは開けられないのだ。 しかし今この校舎の鍵は全て小動物が握っている。 まさか篭城する気…? 僕は準備室にそうっと近づくと乱暴に扉を蹴りつけた。 ガサゴソと何やらしている小動物がピクリと反応する。 これくらいの「多少頑丈」程度の扉ならトンファー無しでも壊せる。 案の定二発目を叩き込めば撓む感触。 「怖っ!!!!雲雀さん!!怖すぎです!!」 「わざとそうしてるんじゃない。ほらどうするの?袋の鼠じゃないか。」 篭城するのはいいが逃げ場を考えてなかったでしょう、君。 そう思っていたら小ネズミは何を思ったか理科室の薬品棚によじ登りだす。 僕が何をする気か見ていると四角いどの教室にもある時計に手をかけた。 スライドさせるとぽっかりと穴が空いている。 くそっ…こんなとこにまで…!! 「雲雀さんに篭城が無駄なのぐらい分かってますよ!!」 「待て!!」 小ネズミは穴に体を押し込む。 なんとか扉をこじ開けて僕も時計の穴を見る。 …ダメだ、小さすぎる! 「くそっ!!」 だんっ、と黒板を殴りつける。 ここまで追いつめたのに…!! 時計を見れば35分が経過していた。 …まだ大丈夫だ。まだ時間はある。 全く今日は本格的な抵抗をしてくれるじゃないか、沢田… 「……絶対、捕まえて泣かす。」 ぐっちゃぐちゃに虐めてやる… 目が溶けるまで泣かせてやる…。 僕は図書室からずっと持っていた鞭をぴしりとならすとおいたの過ぎる小ネズミを追うために理科室を後にした。 続く… |