第四話






すぽんと抜けた先は保健室だった。


「…やりすぎた…」


うん、逃げれば逃げるほど俺の超直感が生命じゃないけど同じくらい大事な何かの危機を教えてくる。

でもどうすれば!?

捕まっても危険逃げても危険じゃどうしようもない!!


「…はあ…」


この遊び、いつも俺の負けで終わる。

んで罰ゲームを受けるのだ。

着ぐるみ着せられたり1日風紀委員にされたり。

弁当とられたり髪黒くされたり。

でも鬼ごっこはなにか違う。

雲雀さんは鬼ごっこすると気が高ぶるそうで罰ゲームもなんだか悪ふざけと言い切れない妖しいものが多いのだ。

例えば…その、同じベッドで寝ろって言われた時は…

パジャマのボタン全部外されたり…んで気付くと雲雀さんも前全開で、抱きしめられてたり…

ギリギリまで捕まらなかった時は夜にうちに来て首とか耳とか鼻とか痛くない程度だけどすごい咬まれたし…

一番怖かったのはルール違反をしたときだった。

学校から出ては行けないと言われていたのに俺は恐怖に負けて一度逃げ出したことがあった。

あの時は応接室まで担いで行かれてソファーに転がされて。

幽鬼のような顔の雲雀さんが俺の座るソファーをトンファーでズタズタにするのを震えて見てるしかなかった。

鬼ごっこは危険。

俺はそれからなるべく一人にはならないようにしたし、雲雀さんも『鬼ごっこ』をしようとは言わなくなった。

次にするときは多分…


「残り…25分、か。」


時間が経つのが遅く感じる。

どうするのが正しいのかは分からないけれど捕まりたくないのが本音だ。

…保健室は角部屋。ここにいたら逃げ場がない。

そろそろと扉を開ける。

外を確認して廊下に出た。


「!!」


肌を刺すような冷気。脳内で警鐘がなる。

でもそれは危険を知らせるだけで逃れる術は教えてくれない。

もしかして…これ、学校全体が危険区域ってこと?


「ど、どうしよ…」


なるべく、見通しのいい場所を避けて…一階はダメだ。

二階に…はまだ雲雀さんがいるかもしれない。

三階へ。

階段を足音を忍ばせて駆け上がる。

やっぱり、どこまでいってもこの冷気は消えない。

歯の根がガチガチ言うのが分かる。

…隠れるべきかな?それとも耐えず移動し続ける?

渡り廊下を走りいつもの棟に移動する。

すこし冷気がましになった。


「…っはあ…」


ズルズルと座り込む。

うう…ホントに絶叫映画の主人公になった気分だ…追いかけてくるのは醜い怪物じゃなくて美貌の委員長だけど。

ガサゴソと紙を引っ張り出す。

さっき理科準備室で見ていたリボーン作の抜け穴を書いた地図だ。

最近また増やしたらしくて凄いことになっている。

この教室にも一つある。

抜ける先は…ん?


「応接室…」



がこん。




何の音、今の…。

慌てて立ち上がれば。



バコッ!!



教卓が吹き飛んだ。

ゆっくりと立ち上がってこちらを振り向くのは…


「ひ、ばり、さん…」


俺が名前を呼べば鋭い視線が飛んでくる。


「やっぱりいたね、仔ネズミ。」

「ひっ…な、なんでここが…」

「さあ…?なんとなく。」


…この人超直感上回っちゃったよ!

じりじりと壁伝いに逃げようとすればこちらに大きく踏み出してくる。

くるりと背を向けて走り出そうと扉を開け放つ。


「待て、小動物。」


ビシッ!


「うわわっ!」


顔の横を何か…いいや、俺はこの音が何か知ってる…

だって兄弟子が愛用してて俺もグローブ手に入れるまではちょくちょく使ってたし…!!


「選んで、沢田綱吉。」

「はい!?」

「ルール改変でゲーム続行か、棄権して僕に咬み殺されるか、大人しく捕まって罰を受けるか…どれがいい?」


チロリと出した舌で手にした鞭を舐める雲雀さん。

なんだろ…さっきから膝がガクガクして…

冷気も強くなって今は肌を刺すほどだ。

い、嫌だ。今ここにいたくない!!

俺は何も考えずに教室を飛び出した。

脇目もふらずただひた走る。




どんなに痛くてもいい、棄権してれば良かった。

後でそう思う羽目になることを、俺はまだ知らなかった。








続く…





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