第二話


「で、なんでこうなるんだよ…」


数日後。

俺はげっそりした顔で黒曜ヘルシーセンターの前に立っていた。

両手に茶と白のモコモコを抱え足下にはこれまたモコモコなマイ・ティーチャー。

カピバラ仕様の着ぐるみ…確かに暖かそうだが。そんなに気に入ったのか…


「協力者には報酬を払うのが礼儀ってもんだ。」

「確かにそうだけど…」


俺は両脇に抱えた物を見下ろした。

茶色と白の特大カピバラ…ここまで来るのがつらかった…

道中子供に指さされ電車では女子高生に笑われ。くうう…恥ずかしい…!!


「せめて袋に入れるとか!!箱に詰めるとか!!すっげ恥ずかしいんだけど!?だいたいなんで二つも…」

「骸の分だ。懐柔しといて損はねぇだろ」

「これで懐柔されるくらいなら世界大戦とか言い出さないよ、あいつ」

「まあそれをなんとかするのがボスの務めだろ。とっとと行ってこい。」


ガスっと蹴り出され無様に石畳と抱擁を交わす。

何すんだと振り返るともうすでにリボーンの姿はなかった。くそ…逃げ足の早い…

ギリギリと歯咬みしながら俺は廃墟に足を踏み入れた。


「………」


黒曜ランドに入ってからしばらくして。俺はふと気付いた。

リボーンの理不尽さに腹が立ってたから気にならなかったけど…怖い。今更ながらに怖い。

廃墟だし。人がいるって分かってるけど廃墟だし。寂れてるしそこかしこにやな空気感じるし。お願いだからこんな時はアンテナ閉じてて、超直感!!

ザリ…


「ひっ…!!」


う、後ろ…誰かいる…?恐る恐る振り返るとあのアブナイヨーヨーを構えた


「柿本、さん?」

「なんだ、ボンゴレか…」


ビシビシ感じた殺気が消えた。

怖いよ怖いよ!ツンデレとか普通にオタク用語使ってるけどこの人プロの殺し屋だし!!

とりあえず攻撃してくる気は無いみたいだけど…

柿本さんはヨーヨーをしまうとなんともいえない複雑な表情で俺の腹あたりを見下ろしてる。

丁度そこにカピバラがいる。や、そんな顔しないでください…俺がいたたまれない…

俺が弁明しようと口を開きかけたとき。

カシャ。


「…柿本さん?」

「動くな。」


カシャッ。カシャッ。

…………………

携帯をこちらに向けて連写しだす柿本さん。な、何がしたいんだろ…

一頻り撮って気が済んだのか柿本さんは携帯をしまうと俺に向き直った。


「骸様に何か用か?」

「それ、普通は始めに聞きませんか…?えと、クロームいますか?」

「…骸様にじゃないのか?」


じぃっと見下ろされる。


「骸様にじゃないのか。」


なんで繰り返すんだ!!骸怖いからクロームがいいのに!

俺はカピバラを盾に後ずさる。するとまたカシャカシャと写メの音が。

なんなの、ほんとに!!


「うん。こっちのがいい…」

「何の話ですかさっきから!!」

「……………」


めんどい。

言わなくても分かる…そういう顔だよ、柿本さん…

俺も面倒くさくなってきた。いいや、後は柿本さんに頼もう…

ぱふりと二匹のカピバラを押し付ける。


「?」

「これクロームと骸に。こないだのお礼って言えば分かるんで。じゃ、俺はこれで。」

「待て。」


帰ろうとすると静止の声がかかった。振り返ると頭の上に柔らかい感触が。

…カピバラさん?


「お前が持っていった方がむ……………クロームが喜ぶ。」


柿本さんはも一度写メを撮るとついて来いとばかりに歩き出した。

クロームが喜ぶって…そうかな?それにしてもこれは着いていくしかないよね…?一人になるのも嫌だし。

俺は頭に二匹のモコモコを乗せたまま長身の猫背の後を追いかけた。








続く…





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