第六話






…あれ。


「ん…」


暗い…まだ夜なのに…目が覚めるなんて。

今日はいろいろあったから疲れてるのに…

ふと、違和感に気付く。


…………………腰に回ってるこれは…腕?

んで、この目の前にあるパジャマ…見たことあるぞ…


そろ〜、と顔を上げれば。

ぐっすりと気持ちよさ気に眠る雲雀さん。


叫ばなかった俺を誰か誉めてくれ。

つうか、どうしましょうか、この状況。

流石の骸もこれは多分予想してなかったと思う。


「起きちゃった?」

「!!」


ひ、ひぃ〜!!!!それは俺の台詞です!!

眠ってて下さい〜!!

俺はぎっちぎちに固まったまま動けなくなった。

変に刺激して昼間みたいなことされたら困る!


「今はいじめないよ。いい子にしてればね。」


頭撫でられた…優しいけど、この人怖いから気、抜けない…


「な、なんで俺のベッドに…しかもパジャマ…」

「うん、多分君明日から学校来なくなるんじゃないかな、と思って。」


…鋭い。


「朝に捕まえればいいかなとも思ったんだけどあいつ幻覚使うし。

ところで君抱き心地いいね。明日から抱き枕にしようかな。」

「俺を不眠症にする気ですか…」

「いいから、もう寝なよ。…眠れないなら眠れるように疲れさせてあげてもいいんだよ。」


ギシリ、とベッドが軋んだ。

雲雀さんが不穏な笑みを浮かべて俺に覆い被さってきた。


「いいい、いいですぅ〜!!おやすみなさい〜!!」

「そう?じゃおやすみ。」


…寝るのはいいですが俺の上から退いてください〜!!


―――――――――――――


「…おはようございます。」

「やあ。遅かったね。」


ん?何…骸?

目を擦りながら起き上がる。

…………んあ?


「おはよう、子兎。」

「おはようござ…わぎゃああ!?」


パジャマ全開。それはいい。

雲雀さんが腹に組み付いて…


「何、してんですか…!?」

「折角付けたのに消しちゃうから。」

「んあっ!」


また大量に散る赤い跡…

あああああ…これ消すの凄い恥ずかしいのに!!

まだ付けてるし!!


「すみません、綱吉くん…間に合わなかったようですね…」

「いやいやいやいや!!何もされてないから!!そのもの凄い哀れなものを見る眼差しやめて!」

「してあげてもいいけど。」

「遠慮します、退いてください!!」


俺は雲雀さんから逃げ出すと骸の後ろに隠れた。

雲雀さんは呑気に欠伸をしている。


「貴方、何してたんですか…」

「なかなか起きないから着替えさせようとしたんだけど脱がしてたらこう、ムラムラっと。」


なんだ、ムラムラって!!

ちゃっかり自分だけ着替えてるし!!

雲雀さんはいやに爽やかな笑みを浮かべると緑の学ランを持ち上げた。


「黒曜の制服…これその子のだろ。」

「!!」

「それで…僕から逃げられると思うわけ?」

「綱吉くん!!」


雲雀さんのトンファーから鎖が伸びてきた。

骸に強引に体を引かれ視界が揺れる。


ガキィンっ!!


「くっ…!」

「骸!!」


槍に鎖が絡みついた。雲雀さんが不気味に笑うのが見えた。

骸の体がじりじりと引き寄せられる。

俺を抱えてる骸は片手しか使えない。不利だ!!


「一度、撤退します。目を閉じて!!」

「ん!」


冷たい霧が周囲を包む。

目を閉じる間際に見えたのは余裕な顔を崩さない、雲雀さん。


あ と で ね


あの人の口がそう言っていた。


* * * *


「ふ…流石はヒッチコック…終わりませんね…」

「なあ、そのヒッチコックってなんなんだよ。」

「知りたければ調べなさい。」


着いたのはあの廃墟…じゃなくてマンションの一室のようだった。

骸は直ぐにクローゼットを開き中を漁り始める。


「あの男が何をしてくる気かはわかりませんがとにかく学校に行きましょう。

君の学業に影響すればアルコバレーノに何を言われるか…

僕が教えても良いのですがこれも修行の一貫と休むのは許可してくれませんし。」


制服を投げてきた。

…こいつ何枚制服持ってるんだ、サイズ違うのに…

もそもそ着替えているとドアをノックする音がした。


「骸様、いますか。」

「クローム。何ですか?」

「朝ご飯できたから…ボスも食べる?」

「う、うん。」

「分かった。」


パタパタ軽い足音が去っていく。

…意外に家庭的な雰囲気?

なんか骸と千種さんはカロリーメイトとかウイダーインゼリーとかで生きてけそうなイメージなんだけど…


「君、何か失礼なこと考えてませんか。」

「え!や、そんなこと…」

「早く行きましょう、朝食が冷めてしまう。」

「うん。」


部屋から出てまず驚いた。

マンションなのに階段!?うわ、二階あるの!?

ってか広っ!!

ドラマの世界でしか見たことないよ、こういうの!

ダイニングに着くと三人はもうテーブルの前にいて皿を出したりパンをセットしたりと動き回っていた。


「あれー?いつ来たんら、お前!」

「さっき…」

「なんかアヒル臭いぴょん。」


こっちも鋭い…


「ボス、紅茶とミルクどっちがいい?」

「ミルクで…なんか朝から豪勢だな…」

新鮮なシュプリングサラダにとろとろのオムレツ。

ちゃんと一から作ったオニオンスープにホテルブレッドとフランスパン。

綺麗にフルーツが盛りつけられたヨーグルトに自家製と思われるジャム。

凄い…ホテルの朝食並みだよ…


「そうですね。今日は千種が張り切ったみたいです。」

「…千種さんなんだ。」


なんとなく予想はついてたよ…


「当番制なんです。クロームが栄養失調で倒れてからは気をつけるようにしたんですよ。」

「昼はお弁当だから。ボスの分もあるよ。」

「あ、ありがと。」

「早く食え。遅れる。」

「うん。」


……なんか和むと言うか。

兄弟の食卓みたい。ちょっと楽しい。








続く…





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