第四話






「…まあこんなもんかな?」

「ぶかぶかです。」

「仕方ないよ、君のサイズは無いからね。ちょっと大人しくしてて。」


裸でいさせるわけにもいかないし。

僕は自分の服を綱吉に着せると袖と裾を捲り上げて縫い止めていく。


「明日には調達してあげる。それまでこれね。」


買いに行ってもいいんだけど…あいつとこの子を二人きりにすんのは危ない気がするからね…

椅子に座り相変わらず爛々とした目の狼。

あいつはおかしな事に正体を現している時の方が穏やかで人間の姿の時が欲望に忠実だ。

つまり、僕と逆というわけなのだが。


「綱吉くん、おいで。」


骸に呼ばれると嬉しそうに飛びつく綱吉。

小さな尻尾がピョコピョコしてる。

動物だった時と同じつもりなのだろう、あいつの体にぴったりとくっついてすりすりと頭を擦りつけている。


そんな綱吉の頭を撫でながらニィと笑う骸。

……今僕は赤頭巾のワンシーンが浮かんだよ…

懐く綱吉を危険生物からベリと引き剥がす。


「ふぇ!?」

「おや雲雀、焼き餅ですか?」

「なんとでも。…ねぇ君僕からこの子守るためにいるんだよね。

なんかさっきからいや〜なオーラ出てるけど僕の気のせい?」

「ん?あれ出てました?いけませんねぇ…つい。」


ついじゃない、ついじゃ。


「夜のあなたは別に危険ではありませんし…

それに綱吉くんが死なないようにすればいいだけな訳ですし。」

「…………」


獄寺隼人、明らかに人選ミスだ。

こいつもしかすると猫の僕より危ない。


「痛くなければ…いいですよね?綱吉くん?」

「?」


ひょこんと首を傾げて瞬きを繰り返す。

…分かってない。駄目だ、危ない。

はあと溜め息をつけばキラキラとした目でこちらを見上げる綱吉。


「?」

「ひょこひょこしてる…」


……ああ耳。


「触りたいの?」

「はい!!」


ソファに腰を下ろし綱吉を向かい合わせに座らせる。

綱吉はにっこにこしながら僕の耳を撫でる。

緊張感ないな…君今かなり危ないポジションにいるの分かって…無いよね…

これ昼間になれば僕も猫の性に負けるし…ま、狼がなんとかするけど。

夜は…今はいいけど満月とかアレの時期とかどうするか…


「…………」


目が合えばニコリとする骸。

駄目だ、ウキウキしてる…あいつもう本性抑える気さらさらなさそうだ…


* * * *


「きゃうぅぅ!!骸さん、骸さ〜ん!!」


綱吉くんの叫びに出入り用の穴を押し開いてリビングに向かう。

吊られたケージにしがみついて中を覗き込む黒猫を見つけ僕は慌てて走り寄る。


「雲雀!!また貴方って猫は!!」

「ち、うるさいのが来た…」


雲雀は器用に出窓に飛び移るとそこで丸くなる。

綱吉くんはひんひん泣きながら、どうやって覚えたのかケージの入り口に鼻先を突っ込んで扉を持ち上げるとぴょいと宙に身を踊らせる。


「!?」


僕はギリギリでケージの下に滑り込んだ。

背中にぽすりと軽いものが落ちた。

良かった…間に合った…

肺の中の息を全て吐き出す。

よじよじと小さな体で綱吉くんが僕の頭によじ登っている。


「綱吉くん!!危ないでしょう!?」

「だって、だって!!雲雀さん怖いぃ〜!!骸さんがいい!!」


そういってビタリと頭にしがみつくハムスターにまた溜め息が漏れた。


朝になると僕らはまたこの姿に戻る。

勿論、雲雀の力で人になっていた綱吉くんも同様だ。

雲雀は夜の理性的な姿が嘘のようにまた綱吉くんを追い回す。

綱吉くんはどっちにしろ変わらないからいいが、僕はというと…

困った。

人型でいても普段はこの姿と変わりない筈なのだが…

人型の綱吉くんがあんまり可愛いんで、僕はどうやら欲情してしまったらしい…

今は何ともないが人型の時はホント危ない。

獄寺に綱吉くんを託されたというのにこれでは僕が一番の危険生物じゃないか…


「はあ〜…」

「骸さん?」


僕の頭から鼻にかけてのラインを滑り台にして地面に落ちた綱吉くんはきょとんとした顔をしている。

君は呑気に僕に縋ってますが僕も実は危険なんですよ?

そんなこと伝えてまたキャビネットの下に篭城されても困るし…

本当にどうしたものか…


「どうしたんですか?お腹すいたんですか?」

「…違います。」

「僕はすいたなぁ…綱吉。」

「!!」


ぴゅっと僕の顎の下に潜り込む綱吉くん。

プルプルしてるのが伝わってくる。

雲雀はのしのしと歩いてくると僕からあまり離れていないところで丸くなる。


「やだやだ…あっち行ってよぅ…」

「かぷってやらせてくれたら行ってあげる。」

「痛いのいやです!!」

「えい。」

「きゃうう!!」


鼻先だけ覗かせてた綱吉くんに雲雀の猫パンチが来た。

僕が前足で防ぐと綱吉くんはもぞもぞと僕の胸の下に潜り込もうと頭を突っ込んできた。


「…綱吉くん、無理ですって。」


って聞いてませんね…この子はパニックになると人の話聞かないから…


「雲雀…綱吉くんいじめるのやめなさい…」

「いい声で鳴くんだ、これ。面白い。」


サド猫め…








続く…





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