第四話






「ううう…」


や〜だよ〜… 行きたくないよ〜…

でもズリズリと首に腕を回されて引き摺られて行く。


「綱吉なんで学校にいたの、そう言えば。」

「忘れ物して、ってなんで今聞くんですか…」

「気が紛れるかな、と。君、私服子どもっぽいよね。」

「子どもですから。」


俺は着てる服を見下ろした。

白いパーカーに七分丈のズボン。

年相応だと思う。むしろ周りがおかしい。大人びてる奴が多すぎる。

大体私服を着ない人間に言われたくない。


「確かに。君体温高いし。声高いし、まだふにふにだし。子どもだね。」

「………………」


俺もう声変わりしてるんですが。

でも雲雀さんも成長期真っ盛り、って感じだけどなぁ。

声は確かに低いし体温も異様に低いけど山本や骸みたいに…なんて言うんだ?

こう、筋張って無いし。

大体中身が大人じゃない。我が儘だし。

そう言うと雲雀さんはムッとした顔で俺を見下ろしてきた。

そしてにや〜、っと笑うと俺を引き寄せてすりすりと頬摺りを…って何してんだぁ!?


「ぎにゃあ〜っ!?」

「面白い鳴き方するね、君。」

「何すんですかあぁぁぁ!!」

「やっぱ子どもはいいよねぇ。そう思わない?」

「思えますか、この状況で!」

「スリスリ。」

「お前まで何やってんだ!!」


雲雀さんが摺りついているのと逆の首にわふわふと羽毛を擦り付けるヒバード。

なんて似た者飼い主とペットなんだ!!でもくそ〜、可愛い!!







なんだかんだで着いてしまいました…図書室。


「…やっぱやめませんか、雲雀さん…」

「ファイト、綱吉。」

「えええ!?」


ぐいと肩を押されてまた電車か…と思っていたら図書室の中に突き飛ばされた。

慌てて振り向くとバシンと扉が閉まる。

俺が一人で行くんですか!?


「ひ、ひひひ雲雀さあああん!!」


扉に飛び付いて開けようとしたけどビクともしない。

バンバン叩いても外から応答はない。

い〜〜〜や〜〜〜〜!!!!!!


「雲雀さん!嘘でしょう!?開けて!!開けてくだ、あだっ!」


パニックを起こしかけた俺の額をヒバードが強かにつつく。

痛い…こいつ…こんな丸いのに嘴鋭い…


「ツナヨシ、カミコロスヨ!!」

「既につついてるだろ!やめ、止めろって!!」


どかどかキツツキのようにつついてくる小鳥を鷲掴む。

何するんだ、全く!!

ヒバードはもぞもぞと手の中でもがきくるりと頭(?)を指の隙間から覗かせてまた校歌を歌い出す。


「ミ〜ド〜リ〜タナ〜ビク〜♪」

「…なんなんだよお前…」


ヒバードの校歌気が抜ける…

俺が手を開くとヒバードはパタパタと飛び出して「スリスリ〜」と首にすりつく。

………もしかして。


「お前、喝入れて励ましてるつもり?」

「カミコロスヨ!」

「え。是なの、否なの?」


とんだツンデレ鳥だ…でもお陰でちょっと落ち着いた。

扉に耳をつけても何も聞こえない。

雲雀さんがそこにいるのかどうかも分からない。

…鍵は…かかってない。

ということはこれは雲雀さんが意地悪して開かないんじゃなくてまた怪談の一部ってことかな。


「…進むしかないか。」


やだなぁ…七不思議苦手だよ…

大体なんで並盛の七不思議ってトイレとか理科室とかお約束な場所じゃないんだよ…

恐る恐る本棚の隙間を覗く。

…何も居ないな…

ヒバードは首にくっつく様に肩に止まってくれている。

生き物が肌に直接触れていると恐怖が大分違う。

何よりこいつ頼りになるし。

本棚の間に差し掛かる度に何も居ないのを確認する。

に、二宮金○郎の銅像とかいないだろうな…

そうしていると閲覧スペースに出た。

大きな絵や写真がいくつか掛かっているのが見える。


七不思議その5 図書室にある動く絵(または写真)。目が合えば逃げられない。



「……」


近づいて一枚一枚確認する。

どうか何も見つかりませんように…

一番奥まった所に貼られた写真の前で俺は安堵の息をつく。

全部見たけど何も変わった所はなかった。

もしかして間違えてたのかも。

嘘の七不思議もあるらしいし。

まあいい。早いとこ出よう。

普段から入らない教室は夜になると更に威圧感が増す感じがする。


「…あれ…」


何気なく一際大きい額に入った写真を見た。

昔この土地にあった大木を撮影した写真。


…なんか、変だ。


と言っても俺は図書室なんか普段使わないからこの写真もあんまりまじまじと見たことはないんだけど…


「…………?」


おかしい…気がしたんだけど何がかは分からない。

ん〜…なんかそう思うと何でもないものもそう見えるって言うしなぁ…

俺は目を擦り周りを見回す。

やっぱ、気のせいだな。


「!」


ふ、となんとなしに視線を写真に戻す。

そして気付いた。

…やっぱ、変だ…この写真…

木の根元にいる人。

こちらに背を向けて大木を見上げる男の人が写ってるんだけど…

さっきまでは木陰に居たのに、今は半身が日向に出ている。

…動いてる。確実に。

俺は一歩後ろに下がった。

その弾みで椅子を倒してしまった。

慌てて椅子を直し写真に視線を戻す。


「!?」


が、額のギリギリの位置にまで男が移動してる…足の向きで体をこちらに向けようとしているのが分かる。

次に目を離せばこちらを振り向くに違いない。

その後どうなるかなんて皆目見当がつかない。


「ツナヨシ!!」


グイグイとヒバードが襟足を引っ張る。

行けってこと!?確かにこんな怖いのはゴメンだよ!!

俺は写真に背を向け戸棚に向かって走り出す。

目が合わなければいいんだろ!?

なら開かなくても扉の近くにいれば…












『つ く  ー ん  。』












あと少しで本棚につく。

気が緩んでいたのかもしれないし、単なる条件反射だったのかもしれない。


名を呼ばれた俺は、振り向いてしまった。


額に手をかけニタァと嗤うまだ若い男。


目が、合ってしまった。


ググッと写真が盛り上がる。

男がこちらに出て来ようとしている…?

逃げたいのに硬直して動かない足。

怖い、どうしよう?どうすれば…





「キエェェェェ!!!!」

「うおっ!?」


当に耳をつんざくような声。

キーンとする耳を押さえてそちらを見ればドガッときつい一突きが来た。


「ヒ、ヒバード!?」

「キエェェェェ!!」


はっとする。硬直が解けた!!

俺は興奮して飛び回るヒバードを掴むと本棚の間を走り抜ける。



『待。』



ひ〜!!来た!!

タン、タンと踊るような足音をさせながら男が追ってくる。

扉、見えた!!でもまた開かなかったら…!!



『一。楽?』



もう男は数歩後ろまで迫っている気配がする。

本棚の中をジグザグに走ってはいるけどそれにも限界がある。

と、ヒバードが頭上に舞い上がった。パタパタと男のいる方へ飛んでいく。


「ヒバード!?」


ドサッバサッと何かが落ちる音と呻く声。男が何か叫ぶ間に「カミコロス!」とヒバードも叫ぶ。

…もしかして時間稼いでくれてる?なら無駄にする手はない!!

俺は真っ直ぐに扉に向かっていくと開けようと手をかける。

駄目だ、ビクともしない!!

後ろではヒバードが戦ってる音が耐えずしている。

合間に少し痛々しい悲鳴のような鳴き声も聞こえる。


「…ふざけるなよ…」


なんで俺がこんな目に合わなきゃならないんだよ…

突如怒りが沸いてきた。

いやむしろキレた、という方が正しいのかもしれない。

俺とヒバードが何したってんだ…恐怖体験なんざしたくもないっ!!


「っいい加減に出しやがれええぇぇ!!!!」


ドゴォッ!!!!


俺の渾身の跳び蹴りで図書室の扉が蝶番ごと吹っ飛んだ。

は?雲雀さんが怒る?知ったことか!!


「ヒバード!!」


俺が叫ぶと少しヨロつきながら黄色い小鳥が飛んできた。

フワフワの羽毛がボロボロだ。

俺はヒバードをそっとフードの中に落とすとさっき破壊した扉を起こした。


『見〜 つ…』

「沈め。」


薄気味悪い笑みを浮かべる幽霊に扉を投げつける。

埃が舞い上がった。


「引きこもってろ、このショタコン。」


拳に握り親指を下にして立てる。

俺は図書室に背を向けるとスタスタと歩き出した。








「大丈夫?ヒバード。」

「カミコロスヨ!!」

「お前さっきからそればっかだなぁ…」


でも元気そうで良かった。

保健室で一応傷手当てしようと思ったんだけどヒバードは無傷だった。

俺の方は扉のかけらで両手に切り傷だらけだったけど。

羽毛も手でならしてやれば元通り。頑丈なんだなぁ、こいつ。

俺が自分の手当てをしている間ヒバードは頭の上に乗っかっていつもの校歌を歌い始める。

…こんな可愛い声出すくせにさっきの鳴き声は凄かったな…どっかの島の怪鳥みたいな声出してたし。


「…雲雀さんはまた何処行っちゃったんだか。」


図書室を出た後。

一発殴ってやろうと思って探し回ったんだけど雲雀さんは見つからなかった。

今は単純に心配だ。

何かに連れてかれちゃったとかだったらどうしよう…


「痛てて…」


うっわ〜…肩のとこ何かに引っ掛けてたんだ…

服も皮膚もすっぱりと切れてる。

さっきからジクジクした痛みはあったけど…怪我は大したこと無い。

でも血は結構出てたみたい。白いパーカーに赤い染みが出来ていた。

軽く消毒して大きな絆創膏を貼る。


「…行こうか、ヒバード。」


もう怖がってなんかいられない。先に進もう。

雲雀さんとヒバードと早くこんなとこ出て…そんで雲雀さんは一回殴る。絶対に。

怖いとかそんなん関係ない。

巻き込まれた報復はしないと気が済まない。

俺とヒバードの分とね!!

ヒバードがぽすんとフードに飛び込む。

そこが気に入ったみたい。

俺は廊下に出ると六つ目の七不思議を目指して歩き出した。


「はあ…」


家帰ったらこの傷と服、なんて言い訳しようか…








続く…





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