第五話 「っは…はぁっ…」 どこにいるんだ、あの子!? ヒバードつけてるから大丈夫だとは思うけど…くそ、近くに居たのに!! 机やら人形やらがまとわりついてくるの相手にしてたら見失ってしまった。 「ぐっ…」 痛みを訴える傷を抑える。 あの悪霊…次見つけたら咬み殺す…! 少し血が滲んできたけれどまあ大した傷じゃない、無視だ。 それより今は綱吉を探さないと… 廊下の角を曲がる。 図書室の入り口が大破しているのが目に入る。 「綱吉!?」 中を覗き叫ぶが生き物の気配は無い。 ここにはもういないか… 「?」 これは… 床に散る花弁のような物を摘み上げる。 「!」 羽、ヒバードの羽だ…! * * * * と、勇んで来たのはいいものの…やっぱ怖いよ、怪談は。 時間の経過とともに怒りも収まって恐怖が蘇ってきました… 俺は美術室の扉をカラカラと及び腰で開けた。 「お邪魔しま〜す…」 「オジャマシマス!」 「復唱しなくていいから。」 昼間も薄気味の悪い美術室は夜になるともっと不気味だ。 手やら頭やらが棚にゴロゴロ並んでるし賞穫るような絵は決まって暗い色彩だし… 中に入るのやだなぁ… 「…ひ、ヒバード、なんかしゃべってて。」 「オジャマシマス!」 「いや一言だけじゃなくてずっとがいいんだけど。」 「クフフフフフ」 「…それは止めて欲しいな。」 気が奮い立つどころか萎えるって。 「ミ〜ド〜リ〜タナ〜ビク〜、ナ〜ミ〜モ〜リ〜ノ〜♪」 「うん、それでお願い。」 俺はパン、と頬を叩くと美術室の中に足を踏み入れる。 独特の臭いをさせる教室はなんだか別の空間に入ってしまったかのようだ。 さっきの写真の事もあるので俺は脇目も振らず真っ直ぐに目的の扉に向かう。 美術準備室。普段は鍵が掛かってるはずの部屋。 だけど俺には妙な確信があった。 カチャ… やっぱり、開いてる…俺は恐る恐る中に入った。 七不思議その6 美術準備室の守り神 これだけ何故かホラーじゃないんだ。 しかも七不思議以前、いや実は学校が出来る前からある話らしい。 絵の具や彫刻刀の入った戸棚、美術部員の私物。 そして過去の生徒の作品。 その作品達の乗る机の横にひっそりと立つ古い木彫りの少女の像。 俺はそちらに歩み寄った。 「…こんばんは」 『こんばんは。』 俺が挨拶をすると像はにっこりと笑いこちらを見た。 本当ならびっくりして逃げ出すところだけど、もう恐怖体験はしまくったし… 何よりこの像からは嫌な感じがしない。 『意外に肝が据わってるのね、あなた。』 「もう慣れました…」 『ふふ…あなたが何を聞きたいのかは分かってるわ。ここを出たいのね。』 「じゃあ…」 『でも残念。私じゃ力になれないわ。今はただのしゃべる像でしか無いのよ。』 「そうですか…」 駄目かぁ…雲雀さんのいう通り七不思議全部体験するしか…って七つ目俺知らない… 『脱出方法は分からないけど学校の中の事なら大体分かるわよ?』 「なら雲雀さんの居場所分かりますか!?あの、学ラン着てる人なんですけど。」 『学ラン?』 あ、そうか。 少女の像は神話に出てくるような格好をしている。 これ古いから今時の服なんて分かんないよなぁ… 「黒い上着の服の事なんですけど。」 『ああ。そうね…その子なら今は階段にいるわ。』 「良かった…無事なんだ。」 『他人の心配をしてる場合じゃないわ。』 「へ?」 像が眉を顰めて俺を見上げる。 『あなた、悪霊に気にいられたのね。さっきから何度も接触しているでしょう。 気をつけなさい。連れて行かれるわよ。』 「えええ!?」 い、いつ気に入られるようなことしたよ!? やだよ、あんなおっかないのに追い回されるの!! 『早くもう一人の子と会いなさい。そうすれば出れる筈。』 「そうでしょうか…」 逆に面白がられて終わりそうな気が…あ、でも怖いのやだって言ってたし。 でも自称だからな… 俺が悩んでいると頭の上に移動したヒバードがツンツンと髪を引っ張った。 「何、ヒバード。」 「ツナヨシ、ソト!」 「いや、行きたいのは山々何だけどさ…」 「ソト!」 ヒバードがぐいぐいと髪を無遠慮に引く。 痛いって!抜けちゃうよ!! 『その子の言うとおりにしなさい。あんまり一カ所に留まっていると悪霊が嗅ぎ付けるわ。』 「げ。そ、それはヤだなぁ…」 早いとこ雲雀さんと合流して最後の七不思議を教えてもらおう… 俺は部屋を出ようと扉に手をかけた。 『違いを見つけたら逃げなさい』 「?」 『動物の感は侮れないわ。その小鳥から離れないで。』 「?分かりました。」 七つ目ってなんなんだろ… 七不思議はほとんど獄寺くんに教えてもらった。 不思議なことが好きみたい。 でも獄寺くんも七つ目は分からないって言ってたんだよな… 俺は怖さを紛らわす為にそんな事を考えながら廊下を走った。 雲雀さんがどこの階段にいるのか聞き忘れてたのに気付いてあのあと美術室に戻ろうとしたんだけど。 像の言うとおり、悪霊の先触れの靄が廊下に立ち込めていたから俺は慌てて二階に駆け上がった。 雲雀さんはどこにいるんだか… 「ツナヨシ、ヒバリ、ナカ!」 「ん?」 「ナカ!!」 フードに潜り込んでもぞもぞと羽を動かし元気に囀る小鳥。 …何が言いたいんだろ?悪いけど俺にはわかんないや。 「はあ…」 走りつづけて流石に疲れた俺はトイレの前で立ち止まった。 いい加減喉も渇いたよ… 水道もあるし…ちょっと休憩… 「あ、こら!」 水道の蛇口を捻ると俺が口をつけるより先にヒバードがそこに飛びついた。 嬉しそうにバシャバシャと水浴びを始めた小鳥に俺は盛大に溜め息をつくと隣の蛇口を捻った。 「ふう…」 水を思う存分飲んで渇きも癒えた。 そろそろ、と思っていたらいきなりピュッと水鉄砲が飛んできた。 そちらを向くとヒバードが蛇口に嘴を突っ込んで遊んでいる。 またそれが微妙な角度なもんだから俺にシャワーみたいに水が飛んでくる。 「こらヒバード!!ぶっ!止めろって!」 「ツナヨシ〜!」 「や〜め〜れ〜!!」 わふわふとした羽毛の塊を掴んで蛇口から離す。 乱暴にフードに放り込んで蛇口を止める。 ああ、もうびしょ濡れだよ! 「お前な…っぁ!!」 文句を言おうと顔を上げると目の前に鏡がくる。 真後ろに黒いベールを被るあの悪霊が…!! 「!!」 慌てて振り返る。 でも…何も、いない。 「……………」 心臓が激しく脈打つのが感じられる。 見間違い?いや、はっきり見えた… 優美な曲線を描く口唇。 確かに、ここに…いた… 「…………」 喉の奥がまた乾いていく。 俺は周りを見渡してまた走り出した。 全然気付かなかった…なんで悪霊が。 気味が悪い…今も後をつけられてるような気がして何度も後ろを振り向いてしまう。 足は疲れて重いし肺も機能を止めてしまったんじゃないかと思うほど息が苦しい。 でも立ち止まるのが怖い。 「はあっ…はっ…は…」 どこに向かっているかなんて目的もなく、ただ動いていないと恐怖に負けそうでおれは足を無理矢理動かす。 「あっ…!」 ビタンっ! 足がもつれて盛大に転んだ。 手を突くのに失敗して肘を強かに打ち付けた。 あまりの痛さに俺はそこにうずくまる。 「っ〜〜!!」 「ツナヨシ。」 「だ、大丈夫……………………じゃないかも。」 フードからちょこちょこと肩に登ってきたヒバードに笑いながら呟いた。 や、だって痛いんだもん…でもその痛みで少し冷静になった。 何やってんだか… じんじんする腕を抑えて俺は起き上がった。 「!」 ユラ…と視界の端の窓ガラスに写り込んだ影。 悪霊…!! 俺はすかさず振り返り座間に回し蹴りを叩き込んだ。 「わっ…!」 ところが相手の方が速かった。 攻撃を繰り出した足を掴まれ軸足を払われる。 よろけた所で腕を捻り上げられそのまま床に体を押しつけられた。 「ぐっ…」 「随分と変わった挨拶だね。」 「!!」 首だけ巡らせるとにや〜っとした笑みを浮かべる雲雀さん。 やば…間違えた。 しかもなんか知らないけど喜んでる…いや怒ってる? 「全く探し回ってやっと見つけたと思ったら蹴りが飛んでくるとはね。」 「も、元はと言えば雲雀さんが閉じ込めたんじゃないですか!!」 「仕方ないじゃない、こっちもそれが精一杯だったんだから。」 「何が…っ!?」 つう、と肌を伝う液体。 苦しい体勢だけど首を巡らせれば赤い…血!? どこからと思えば雲雀さんの腕から滴ったものだった。 「雲雀さん、腕…!」 「ん?ああ。怪我したみたいだね。」 「みたいって…手当て!手当てしないと!!」 「大丈夫、痛くないから。」 「いやいやいや!!結構な出血してって痛い痛い痛い痛い!!」 ギリギリと腕をひねられ俺は無事な方の手でべしべしと床を叩いた。 「僕が大丈夫って言っ・て・る・で・しょ?」 「分かりました!!分かりましたから止めて!!折れる折れる!!」 そうでした!!雲雀さんは最凶、じゃなかった最強無敵ですもんね!? それくらいの傷きっと3秒で治りますよね!?だから腕離して〜!! 「分かればいいんだよ。」 「はい…」 「以後気をつけてね。」 「はい…」 「綱吉。」 「はい…」 「子どもはいいよね、柔らかくて。」 「はい?」 雲雀さん、どうかしました? 俺がまた無理矢理首を巡らすと小首を傾げる雲雀さん。 …なんでしょうか、背筋がゾクゾクします。 「いい格好だよねぇ…綱吉。」 「へ?」 「回し蹴りのお返しは何がいいかなぁ?」 「!」 「可愛い後輩と親交を深めるのも偶にはいいかもしれないねぇ…」 腕を掴んでいた手がすすすと肩口にまで入ってくる。 ななな、何をする気だ、何を!! 「ひ…ひひひ雲雀さ…」 「ん?なんだい?」 「ぼ、暴力以外の運動は好きじゃないんですよね?」 「ん〜?嫌いだよ?」 「ですよね…ならっ」 「でもさ。」 神話の蛇を思わせるようなしなやかな動きで俺の顔を覗き込むと 雲雀さんはそれはそれは可愛らしい子どものような笑顔を浮かべた。 「罰ゲームとおしおきは大好きなんだ。」 「!!!!!!!!」 い〜〜〜〜や〜〜〜〜〜!!!! 神様仏様悪霊様窓ぺったん!! 誰でもいいから助けてーっ!!!!!!!! 続く… |