第十三話






ぶつかり合う金属音。

煙はまだ晴れず狭い視界にもかかわらず二人は余裕の表情で打ち合いを続ける。


「腕疲れたんじゃない?いいんだよ、その子降ろしても。」

「いえ、これくらいハンデにもなりませんよ、人間の坊や。」

「そう?それは悪いね、年寄りに無理させて。」

「失礼な。僕はまだ700にもなってませんよ。ピチピチです。」

「その割に肌の調子が悪いみたいだよ。顔にシミがあるし。」

「……それに関してはこの子のイタズラが原因ですがね。」


ぐぐっと俺を抱える骸の手が腹を締め付ける。

雲雀さん余計なこと言わないで!!怖い怖い!!


「ちょっと綱吉が怯えてるじゃない。」

「甘えてるんですよ、これは。」


断じて違う!!掴まってないと落ちるんだよ!!

怖くて口に出せないけど。


「あなた、あの神父に用があるんでしょう。その子いらないじゃない。」

「でも彼は意固地なので少々手荒な事をしたくらいでは話してくれないと思うんですよ。」

「ふうん、人質?でも用がなくなったらどうするの?離してくれるわけ?」

「まさか。」


骸がガキィンとトンファーを跳ね飛ばし雲雀さんに足を突き込む。

無事な方のトンファーを翳して直撃は避けたけどどちらかと言えば痩身の雲雀さんは飛ばされてしまった。


「雲雀さん!!!!」

「クフフ、脆いですねぇ。」


骸が俺の顔が見えるように抱え直した。

焼けていたはずの左目、まだ濁った色してるけど開いてる…!

皇位クラスは全てが段違いと聞いていたけれど…

骸はニィと笑うと恐怖で目を合わせられない俺の顎を掴み上向かせる。


「…そうですね…どうしましょうか?ただ殺すのは勿体無い。
…君の体はとても興味深いですし…生きたまま解剖してあげましょうか。」

「…っ」

「君の鳴き声はとても可愛らしいから永く鳴けるように丁寧に捌いてあげる…」

「ひ…」


茨の中で会った時と同じ顔。怖い…!!

そうだ、なんで俺忘れてたんだろう。

初めて骸を見たときの、血が逆流し、氷の刃で全身を貫かれるかのような恐怖。

敵意なんかこれっぽっちもない、骸が孕む純粋な、だからこそ恐ろしい「興味心」。

まだ癒えていない噛み跡をベロリと舐めあげられる。


「ひうっ…!!」

「震えてますね…嘘ですよ。君を切り刻んだりはしません、可愛い綱吉。
神孫を見つけたら君の為の鳥籠を用意させましょう。
僕は君をとても気に入ったから大事にしますよ。」

「!!」


傷に合わせて牙が食い込む。

痛みよりまた血を吸われる恐怖の方が勝る。


「いや…っ」

「!!」


骸が槍を横に振り抜く。キンと硬質な音をたてナイフが転がった。


「少年愛好…いやこの場合幼児虐待?それとも猥褻行為のがいいか。
取り敢えず止めてくれる、変態。綱吉が汚れるでしょ。その子まだ小さいんだから。」

「…言いますね。」


怒ってる。怒ってるよ、骸…雲雀さんが煽るから。

牙を突き立てられたせいで流れる血を骸が見せつけるように舐めとる。

嫌がって暴れると首を抑えられる。


「酷いじゃないですか綱吉…何故そんなに嫌がるのです?僕は君に血を提供してあげたのに…」

「あれは…っ」


元はといえば貴方のせいじゃないか!

骸が俺の如意袋――「如意」の意は「自在」。主の望むだけ許容量が無限に広がるからそう言われるらしい――没収するから天界の実を食べれなくて飢餓状態になってしまったのだ。

緊急事態じゃなきゃ俺は他人の体を傷つけたりしない。


「こうやって…僕の血を美味しそうに舐めていたじゃないですか。」

「ひゃうう!!」


シャツの襟を開いて骸の長い舌が肩まで潜り込んで来る。

そんなことしてない!!


「痴漢禁止!」


玉鎖を振り回し雲雀さんが斬りかかる。

骸はそれに片腕で応戦する。

雲雀さん凄い…片腕とはいえ相手は皇位なのに。この人ホントに人間なんだろうか…


「雲雀…もういい!」


獄寺くん?


ドン!ドォン!


雲雀さんの足元に新たに煙幕弾が撃ち込まれた。晴れかけていた煙がまた立ち込める。続いて魔物たちの悲鳴。

何!?


「手を!!」


訳が分からなかったけれど白一色の世界に飛び込んできた手。

誰の手かなんて考えもしなかった。ただそれを必死で掴む。

不意に体が浮遊感に包まれた。


「え?」


これ、覚えがある…空間移動の…

瞬いた次の時には雲雀さんが目の前に立っていた。


「雲雀さん?今の…」

「彼の力さ。」


風が渦巻いている。その中心に片膝を突く獄寺くん。

これは…


「獄寺くん…なんで…」

「説明は後で。飛びます!」


伸ばされた彼の手を掴む。

バシュッと鞭のような音をたてて視界が暗転した。








続く…





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