第十五話






「し・つ・こ・い・なっ!!」


俺の後ろにいた魔物が吹き飛んだ。

振り返る間はない。襲いかかってきた案山子の魔物を殴り飛ばし、足を払う。


「…どっから湧いてきやがったんだ、こいつら。」

「君が呑気に寝てる間に囲まれてたみたいだね。」

「うるせぇ!」


俺のせいかよ!!

上機嫌でトンファーを振るう雲雀を睨みつける。

いつもは血まみれになって浄化作業が面倒なのだがこいつ、自分の獲物が聖化されたもんだからって嬉々として戦ってやがる…


ぶっ倒れて四日間。

俺はその間泥の様に眠っていたらしい。

オーバーロードしたのは初めてだがあんなにきついとは思わなかったぜ…

しかし起きてすぐに俺を覗き込む沢田さんを見たらそんなことは吹っ飛んだ。

首に痛々しい痕は残っていたが骸の元から無事に取り戻すことが出来た。それで充分。

裂けそうな頭の痛みもこの人の為ならばいくらでも耐えてみせる。


「キリ無い!」

「綱吉、後ろ。」

「だっ!」


町を出た途端にこれだ。雲雀の血に群がる連中の嗅覚はすげぇ。

それと。

…………失礼だが。

沢田さん、戦えたんだな…

さっきから後ろが騒がしいと思ったら背後で沢田さんが黒獅子に跳び蹴りを決めていた。周りに何体か目を回して倒れてる連中もいる。

そう言えば対ドラゴンの時も絶妙のタイミングでナイフ投げてたよな…

この人は元来の魔力の低さで上級魔族との戦闘は出来ないようだが魔力の弱い相手なら純粋な体術だけで応戦出来るらしい。


「飛びます?」

「君病み上がりだろ!しばらく空間移動禁止!」

「有象無象も久しぶりだとなかなか楽しいね。狩り放題だ。」

「雲雀さん、いちいち相手しないで!あ〜、もう!!」


ブォンと音がした。途端に退く魔物共。


「?」


半径2mくらいの距離を置いて俺たちを取り巻いているのは変わりないが魔物は誰一人として襲いかかって来ようとはしない。


「膜の範囲を広げたんだ。ちょっと荒技だから長続きしないんだけど…今のうちに走るよ!!」

「はい!!」


* * * *


『ご覧の通りです』

「…………」


嵐が過ぎ去った後みたいになってるぞ…

俺は部下が飛ばしてきた神鏡の画像を見て頭を抑えた。

気絶した魔物、灰と化して衣服だけ残ったもの、瀕死のもの。

それが延々と続いている。

獄寺じゃないな…あいつは衣服も残さない。この散らかりようは恭弥の仕業だ。

聖武器なんてどこで手に入れたんだ…


『また足取りも途絶えてしまいました。どうなさいますか。』

「聖都に来る気があるなら問題ない。引き続き追ってくれ。」

『はっ。』

『団長、それとな。』

「なんだ?」

『大したことじゃねぇんだか…あの二人、同い年くらいの少年を一人連れてるんだ。』

「へぇ?」


あの一匹狼どもが?

獄寺は命令を受けているとはいえあの二人が一緒に行動するなんてそれだけで驚きなんだがな。

俺が面白がってるのが分かったのか昔馴染みの部下もニヤリと笑う。


『しかもな。人じゃないぜ、あれは。』

「……魔族、か?」

『はい。彼らが滞在したあとには必ず微弱な魔族の気が残っています。我々でなければ気付かない程度に。』

『多分、結構格のある奴だな。』

「聖血を狙ってるってことか…?あいつらは気付いてるのか。」

『そこまでは…』

『微妙だな。だが気付いてないとしてもあの悪童共じゃ返り討ちされて終わりだろ。』

「それもそうだな。」


そっちも問題はない…か。


『それともうひとつ。こっちはすげぇぜ。』

「なんだよ?」

『骸本体が動き出した。』

「!」

『今までは分身だったけどな。本体が屋敷を出た。』

『結界も破壊されました。術士も数人、意識不明の重体です。』

「そうか…」


何故、今。

ヤツらもやはり感づいたのか…だがどこまで…?

恭弥達に接触されたら面倒だな。

恭弥はまだ覚醒していないが獄寺は…


「まあいい。骸はこちらで対処する。お前たちは構うな。被害が増大するかもしれない。」

『了解。じゃあ小僧探索に戻るぜ。』

「そうしてくれ。」


通信を切って椅子の背もたれに体を預ける。

骸。次代の魔王候補。

強すぎる力を持つが為に産まれた時から屋敷に封印されていた魔族。

今まで気紛れに影を飛ばしていた事は知っていたが本体は屋敷で大人しくしていたから外に興味はないものと思っていた。

まさか予言が漏れたのか?

ならば悠長に待っている訳にはいかない。

こちらから迎えに行くか…


* * * *


「疲れた…」


大立ち回りに膜維持に全速力。

もう限界です…

しゃがみこんでたら雲雀さんがポンポンと頭を撫でてくれる。


「よく頑張ったね。」

「雲雀の匂いを抑える方法考えねぇと今度は沢田さんがぶっ倒れるな…」


ホントにね…

この人強いけど全然そういう修行してないらしくて聖血ですオーラがただ漏れてるんだもん。


「沢田さん、少し待っててください。宿とってきますんで。」

「うん、お願い…」


すごいクタクタ…このまま寝たい…


「!」

「綱吉?」


突然立ち上がった俺に雲雀さんが怪訝そうな顔をする。

…気のせいかな?いや…


「どうかしたの。」

「…なんか今、見られてたような気が…」

「まさか、あいつ?」

「いえ…」


雲雀さんを見上げる。それでピンと来たようだ。


「見られてたのは、僕?」

「はい。」

「ふうん…魔族かな。」

「どうでしょう。悪意は感じませんでしたが。」

「もし、旅の方。」


呼びかけられて振り返ると品のいい老婦人が立っていた。彼女は何故か興奮したように俺たちを見ている。


「…はい?」

「そちらの黒髪の方、もしや聖血様では…?」

「そうだけど。」


突然、わっと歓声が上がる。

何事!?

町の人々が俺達を囲んで…なんか喜んでる??


「伝承の通りだ!」

「やはり神は我々を見捨てたわけでは無かったのだ!」

「こうしてはいられない!!誰か巫女姫にご報告を!!」

「ああ!ありがとうございます。ありがとうございます…!!」


始めに話しかけてきた婦人が雲雀さんの手を取って泣き崩れる。

さっぱり訳の分からない俺達は顔を見合わせるしかなかった。








続く…





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