第五話 「……………だからどうしてついてくるの。」 「だって俺のせいじゃないですか、雲雀さんがあの街を出ることになったのは。」 別にあの街に未練なんか無いし。 と言ってもこの子は聞かない。見た目気弱そうな癖に頑固だ。 …もしかしてすごい年寄りなのかな。 魔物って見た目若くても百とか千とかいってるの多いっていうし。 そう思って年を聞いてみる。 「え?俺ですか?24歳ですけど。」 「…違う意味で意外性を突かれたよ。何、その中途半端な歳。」 「魔物にも20代はありますよ…と言っても人間で言うところの幼児期なんですけど。俺成長が人間並みに早くて。」 「の割には君どう見ても12〜15くらいにしか見えないよ?」 「止まっちゃったんですよ…そのくらいで体が。」 「ふうん。」 とてとて付いてくる吸血鬼を振り返る。 …人間にしか見えないんだけどなぁ。 人外っていうのもあの夜は感じたんだけど今は全然。 魔力もないし、むしろ存在が希薄な感じ。街中で会ってもまず気付かない。 「君って変だよね。」 「…思ったことズバズバ言う人ですよね、雲雀さんて。」 だって本当のことだ。 昨夜家を出てから行動を(不本意ながら)共にしてるんだけど本当にこの子はおかしい。 まず、食べるのは白い変な林檎だけ。肉も魚も嫌い。果物が好物らしい。ベジタリアン(?)な魔族っているの? 神聖系統の物に触れても全然平気な顔をしている。それどころかよく見ると彼が身に着けているものが聖属性のものだらけ。 天使の絵や像が好きらしい。あると声をかけるまで見とれてる。それ天敵… 夜は寝る時間らしい。健全な人間らしい意見だ。でも君は活動時間の筈では? そして魔族として致命的なのは血が実は苦手な事だ。 僕がうっかりナイフで指を切った時青ざめた顔で後ずさっていた。 魔族にそんな反応されたのは産まれて初めてだ。みんな逆に喜んで飛びかかって来るのに。 面白かったから「いるかい?」と手を振って見せたら 『痛い痛い痛い!!いいから早く手当てしください!!傷見せないで!!ひ〜!!』 と叫ばれた。 他にも暗闇が怖い・ハンターに素通りされる・悪魔払いと談笑する…… この子どっかの病院で吸血鬼の子と取り違えられただけなんじゃないの? 「ところで雲雀さん、これって何か目的を持っての旅なんですか?」 「いや?行き当たりばったり。」 「…だと思いました。」 綱吉は呆れた様に溜め息をつく。 分かってるなら聞かないでよ。僕は自分が楽しければそれでいい。 「…一応、聖都に行こうと思ってる。聖血の人間は居場所を常に教団に分かるようにしなくてはいけないらしいから。 ちょっと遊び回るってあの人に言っとかないと後が面倒だし。」 「あの人?」 「こっちの話。」 あんまり思い出したくないからその話は振らないで貰おう。 さくさく先を進む。相変わらずちょろちょろ付いてくる吸血鬼はもうこの際気にしない。 居ても不快じゃないし。別にいいや。 …でもこの子、本当にどこまで、いやいつまで付いてくる気なんだろう? 「ねえ、どこまでくっ付いて来るの?」 「…………貴方の安全が保証されるまで?」 綱吉は少し悩んでそう答えた。 それから首を捻ってうんと頷く。 「決めました。聖都まで一緒に行きます。そこまで行けば大丈夫な気がしますから。」 「別に一人でも問題無いよ。」 「…俺はそうは思いません。」 どういう意味? そう尋ねようとして不穏な気配を察知した。横に飛び退く。 「やっぱ来た〜…」 同じように敵の一撃を避けた綱吉がぼそっと漏らす。 身を起こすと艶やかな黒髪を靡かせた女がこちらに微笑みかけている。 長い東洋系の王族の服を身に纏っている。 顔の造作はかなり上級だが、腰から伸びる尾が人ではない事を表している。 金色の九本の尾。妖狐だ。それも最高位の。 「絶対一番始めに来ると思ってたんだ…あの狐の母親だから…」 「何、君知り合いだったの?」 「いいえ。この妖狐が有名なんです。知りませんか?とある国の王様惑わして国滅ぼした美女の話。それですよ。」 「あ〜…そんなの聞いたことある。」 口調は世間話のようだが緊張で空気がピリピリしている。 妖狐が滑るようにこちらに向かってくる。 綱吉が僕の前に出た。 守られるのは柄じゃないがどうするか見たい気持ちの方が勝った。 「こんにちは、貴妃様。今日は何のご用でしょうか?」 「そちらの可愛らしい坊やに用があるの、お前は下がっていなさいな。下等魔族。 …聖血の坊や。綺麗な顔ねぇ。うふふ…血だけ貰うのは勿体無いわ。」 ぽう、と空中に灯がともる。無数の狐火が僕らの周りを取り囲む。 空気が重く感じる。綱吉の赤い膜が目に見えるようになった。狐の妖気に呼応しているようだ。 「…雲雀さん、俺闘えないんです。」 「それ、昨日から聞いてるよ。」 狐火の包囲網が徐々に狭まって来た。 妖狐は綱吉の力を分かっているらしく、距離を保ち嫣然と笑んでいる。 膜に当たった狐火が弾け飛ぶ。しかし直ぐに収縮するとまた膜にぶつかってゆく。 「高位な魔族の前じゃ、あんまり長くこの膜保たないんです。」 「ふうん。で、どうしろって?盾になるから逃げろとでも?」 何度も炎を食らっているうちに膜に穴が開き始めた。直ぐに塞がるのだが目に見えて薄くなっている。 今、強烈な一撃を食らえばきっとひとたまりもない。しかし妖狐に攻撃してくる様子はない。 じわじわなぶり殺すつもりか。 ならばその前に…咬み殺す。 隠していたトンファーを構える。 「雲雀さん。」 「無駄だよ。あれは僕の獲物だ。咬み殺さなきゃ気がすまないね。」 「でしょうね。」 綱吉は振り返るとニッと笑う。 「雲雀さん、俺が盾になるんで俺の剣になってください。」 続く… |